#2 新しい世界へ
神様から唐突に告げられたその言葉。
”もう1度命を授けたい”それは文字通りの意味という事で解釈していいのだろうか?
そうだとすると、それはもう1度自分の人生をやり直す事が出来ると言う事だ。
あまりの展開に僕は動揺を隠せずにいた。
「あなたには3つの選択肢があります。1つ目は新しく別の誰かに生まれ変わり新しい人生を生きる道。2つ目は、今の自分のままで別の世界に転生して生きていく道です。残念ですが元居た世界にもう1度蘇生させる事は出来ません。そして最後の選択肢ですが、人として命を授かるのでは無く生命の源”マナ”その集合体の一部として永遠の時を巡り数多の生命の行く末を見守るか…この3つの選択肢になります。」
「そう…ですか」
「そしてもう1つハルトさんに問いたい事があります。貴方は新しい命に何を望みますか?」
3つの選択肢と新しい命に何を望むのか。
その答えは僕の中でもう決まっていた。
「僕が新しい命に望む事は、その命が続く限り精一杯自分の人生を歩んで行きたい!!今までの事を無かった事にするなんて僕には出来ません。僕はこれまで経験して来た事や思い出を胸に抱えながら新しい世界で、今度こそ自分の大切だと思う人達や場所を守って行きたい!!これが新しい命に望む事と新しい人生の選択です。」
「分かりました。ハルトさんのその決意と覚悟しかと受け止めました。」
神様もその言葉を聞いて安堵したような表情を浮かべたいた。
定かでは無いが神様は僕がこの選択をする事を最初から分かっていたような気がする。さすが神様といったところだ。
「ハルトさん、それでは別の世界に転生する前に転生先の世界についての説明と2つ私の質問に答えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「まず転生先の世界ですが、”ヴァラマ帝国”という国を中心に世界は動いています。そしてその勢力と対をなすのが、かつて神への反逆を企てた”堕天使サタンが率いるリベリオン軍”。表向きはここ100年近く冷戦状態が続いていますが今現在でも裏では密かに争いが続いています。この2つの勢力の抗争で多くの命が失われてしまいました。そして次にこの世界にはハルトさん以外にも貴方と同じ世界からの転生者が何人か存在しています。転生者同士はお互いが近くに居ると存在を感知する事が出来ますが、全ての転生者が友好的という訳ではありません。もし存在を感じた場合は警戒して下さい。」
対抗する2つの勢力。そして自分以外の転生者の存在。
このタイミングでこの話しをするという事は、自分もこの争いに参加する為に新しい命を授かったという事なのだろうか?
「つまり新しい世界でこの争いに参加する為に僕は転生する…という事ですか?」
「いいえ、それは違います。私はただ転生先での世界事情を前もってハルトさんに前もって知っておいて欲しかったのです。」
「そうですか…。話を聞いて僕もその戦いに参加しないと行けないのかと思っていたので、それを聞いて少し安心ました。確かに事前に知っておけば色々と対策もできそうですし教えて頂いてありがとうございます。」
「いえ。次に2つの質問に答えて頂いてもよろしいですか?」
「はい。」
「1つ目は、転生するにあたって元居た世界から貴方が所持していた物を持って行く事ができます。次に2つ目ですが、転生先では元居た世界での常識を疑うような力が存在します。転生先の住人達は日常生活や有りとあらゆる場面でその力を使いそれは時として人の命を奪う程の強大な力になり得る場合あります。残念ながら転生者にその力を付与する事は出来ませんが、似て非なる力を授ける事は可能です。」
「似て非なる力…?」
「はい。例えば、重力を操り自身や物体を浮遊させる力や炎や水などの属性を操作して操る力…。その力は転生者によって違います。決して勘違いして欲しく無いのはこの力はあくまで”転生先で自身を守る為に授ける力”という事です。そして転生者を転生させる力を持った神は私以外にも何人か存在します。かつてその中の神の1人が自身の欲望を満たす為だけに転生者を召喚し強大な力で破壊の限りを尽くし大惨事を招いた事もありました。」
神様の言う”神の1人”というのは、さっき話していた神に反逆した”サタン”なのだろうか?
だとしたらサタン側にも僕と同じ転生者がいる事になる…。そして全ての転生者が友好的で無いという事は少なからず2つの勢力に転生者が存在する…もしくは第3の勢力の存在…考え出すとキリが無い。
「つまりその脅威から守る為の力でもあるというわけですね。」
「はい。ハルトさんの大切な人達と大切な場所を守る為の力だと思って頂ければよろしいかと。」
転生先で転生者と遭遇した場合お互い存在を感じとる事が出来る。
もし友好的な転生者では無い場合、または転生者を快く思っていない第3の勢力がいたとしたら戦闘する場面もあるだろう。なるべくそんな機会は避けたいが…。
そうなると1つの能力にに特化した力よりも臨機応変に対応できる能力の方がいいだろう。
そして一番大事なのは大切な人達や場所を守る事のできる力…能力…。
「神様、頭の中でイメージした物を具現化出来る力とかは可能でしょうか?例えば剣や盾をイメージしてそれを具現化して実際に使用したり、具現化した物を僕以外の誰かに渡して使用させたりとか…。」
「もちろん可能です。具現化したい物のイメージと”マナ”を媒体に具現化させる方法。もしくは具現化させたいイメージの元になるベースとマナの2つを媒体として組み合わせて具現化させる2種類の方法があります。使用するマナの量とイメージが明確な程より良い物をクリエイティブする事が出来ます。この方法でよければハルトさんに力を与える事は可能です。」
「”マナ”?僕にはそんな力はありませんよ?」
「大丈夫ですよ。”マナ”とは本来全ての生命が持っている命の源です。とある理由でハルトさんが居た世界では全ての人間に”枷”が備わっているので本来の力は抑えられています。まれに”枷”が外れてしまい人ならぬ力を発揮してしまう方もいますが…そちらの世界では超能力者という名で知られていますね。」
納得してしまった。
超能力者とは”枷”が外れ本来封じ込まれていた力を使えるようになってしまった人間の事だったのか。つまりかの有名なスプーン曲げや透視能力、スクープ映像でよく見る超常現象はこれが原因だったりもするわけか。
「なので、転生する前に私の方で”枷”を外します。最初の内は”マナ”を感じる事に違和感を覚えるかもしれませんがすぐに慣れますので安心して下さい。」
「分かりました。ならその力でお願いします。それと持って行ける物ですが…僕のじーちゃんとばーちゃんの形見の”懐中時計”と”指輪”それと大事にしていた家族写真をお願いしてもいいでしょうか?」
「分かりました。ハルトさんが転生先に持って行きたい物、そして望む力を貴方に授けたいと思います。」
そう言うと神様は片手を宙に掲げる。
それと同時に背中に生えていた6枚の翼を広げて僕の目線より少し高い位置まで舞い上がる。宙に掲げた片手の周りには無数の”マナ”が集まって行き、大きく広げた翼の後ろには青く光り輝く魔法陣が展開し発せられる光は徐々に増して僕を飲み込んでいった。気がつくとさっきまで宇宙のような空間だった場所はそこには無く辺りは真っ白な空間へと変わっており、自分の足元に目をやるとそこには神様の翼の後ろに展開している魔法陣と似た物が展開していた。
「ここは…」
上を見上げると神様はさっきまで掲げていた片手を自分の胸元に当てて穏やかな表情でこちらを見ている。
「ハルトさん今から”枷”を外し、貴方が望む力を付与します。」
そう言うと胸元に当てていた手を僕の方に向けこう言った。
「リーベラーティオー」
その言葉と同時に神様の手から青く光り輝く光の球体が僕の身体の中へと入り込み身体全身に電撃が走り、今まで身体の中に溜め込んでいた何かが一瞬にして弾けだし自分を中心に大きな光の柱が放出され僕の意識は遠のいていった。
………
気付くと身体は地面から離れて浮遊しており身体の内側から熱い何かを感じる…。
この熱い何かが”マナ”なのだろうか?次第にそれが全身に行き渡って行くのを感じた。
「この身体の中に感じる熱いのが”マナ”…?」
「はい、今感じている熱い物こそ生命の源である”マナ”です。最初の内は熱く感じるかもしれませんが次第に慣れて行きます。」
僕は”マナ”を全身で感じながら浮遊している体を起こし地面へと足を戻した。
「それではハルトさん、転生した世界でいきなり実践というのもあれですので、ハルトさんに付与した”クリエイティブ”の能力を少し試してみましょう。まずは…そうですね頭の中で剣をイメージしてみてください。」
「はっ…はい、分かりました。」
僕は目を閉じて頭の中で剣をイメージする。
「剣のイメージは出来ましたか?」
「はい…なんとなく…」
「それでは次に身体の中に感じている”マナ”に意識を向けて下さい。そして次に意識した”マナ”を自分の手元に移動させて行きます。”マナ”を手元に向けて流すイメージを思い浮かべて下さい。そうしたら徐々に”マナ”を両手に感じ取る事が出来ると思います」
身体の中にある”マナ”に意識を集中…
そしてそれを手元に…手元に流すイメージ…。
「…」
すると今まで身体の中で熱く感じていた”マナ”は次第に手元へと流れて行き、気付くと両手が熱くなっていた。どうやら”マナ”を両手に持って来る事に成功したらしい。
「神様、手元に”マナ”を持って来る事が出来ました」
「それでは次に頭の中に先ほどイメージした剣を実際に自分が持っているとイメージして下さい。そして両手に集めた”マナ”に先ほどイメージした剣を落とし込んで下さい。そうすると次第に剣が形成され具現化されて行きます。」
頭の中でイメージした物を両手の”マナ”に落とし込む…。
脳内に描いた剣のイメージが頭、首、肩を通り両手へと流れて行く。
すると両手に集めた”マナ”が剣のイメージと同調し少しずつではあるが徐々に柄頭から握り部分、そして切先までを順番に形成して行った。
「でっ…出来た!!」
昔よくプレイしていたゲームに登場するお気に入りの剣をイメージし見事具現化する事に成功した。まさかお気に入りの武器を実際に手に取る事が出来る日が来るとは夢にも思わなかった。感無量だ。
「おめでとうございます。見事”クリエイティブ”に成功しましたね。最初の内は時間が掛かるかもしれませんが、慣れて来ると瞬時に”クリエイティブ”出来るようになると思います。」
「分かりました、時間がある時にでも練習して慣れて行きたいと思います」
「はい。練習あるのみです。それとこれを…ハルトさんが大切にしていた物です。」
神様から差し出された手にはじーちゃんが肌身離さず身につけていた懐中時計とばーちゃんが左手の薬指にいつも大事に付けていた指輪、そして母が亡くなる少し前に僕と母とじーちゃんとばーちゃんの4人で撮った家族写真があった。
「…」
神様から受け取った瞬間、気が付くと僕の瞳から涙がこぼれ落ちていた。
その理由は自分にとって大切な物をもう一度この手にできるとは思わなかったからだ。
僕はそれを強く胸に抱きしる…そうする事で3人の存在を近くに感じられる…気がする…から…。
感じている…?
「!?」
顔を上げるとそこには亡くなったはずの母親とじーちゃんとばーちゃんの姿があった。
「どうして…?」
「先ほど”クリエイティブ”の練習をしていた時の”マナ”がまだ両手に残っていたのでしょう。ハルトさんの思いとリンクして無意識に”クリエイティブ”したのかもしれません。」
もう1度会えるならとどれだけ願った事だろう。
それがたとえ自分の能力で”クリエイティブ”した物だったとしても、僕はもう1度会えた事に僕は胸が一杯になった。
「じーちゃん…ばーちゃん…母さん…。」
3人とも笑顔だ。きっと新しい世界に転生する僕を見送りしに来てくれたのかもしれない。
「神様、ありがとうございます。こうやってまた家族に会えるとは思っていなかったです。」
「ハルトさんのご家族はとても優しい方達だったんでしょうね。”クリエイティブ”はその使用者のイメージから作り出される物なので、例え”クリエイティブ”で作り出された物だったとしてもあの笑顔を見るとハルトさんの事を大事にされていた事が私にも伝わってきます。」
「ありがとうございます神様。僕…新しい世界でも頑張って生きて行ける気がします。」
これから先、どんな事があっても僕は新しい命を精一杯生きて行く。僕は心にそう誓った。
「ハルトさん、これから先楽しい事ばかりとは限りません。辛い事や打ちのめされ心が苦しいと感じてしまう事もあると思います。ですがこれだけは忘れないで下さい。私はいつでもハルトさんを見守っています。そしてこれは私からの贈り物です。」
神様が両手をかざすと、自分の足元に展開していた魔法陣が共鳴し青い光が放出され僕の体を覆い始める。頭の先から爪先まで全身を覆ったその光は僕の体の中に入り込んでいった。
「貴方に私の持つ力を分け与えました。これは私のエゴかもしれません…。もし…もしも新しい世界がハルトさにとって大切な場所と思える場所となり、その世界に危機が迫った場合はどうか…どうかその時はお願いします。力を貸して下さい。」
神様は深々と頭を下げる、
その言葉は力強くもあったがどこか助けを求めているようにも感じた。
「どうか頭を上げて下さい!!分かりました。神様にはこうして命を新しく授けてもらった恩もありますし、その時が来たら僕なりに頑張ってみます。」
正直、危ない目に合うのは出来るだけ避けたいのが僕の本音ではあるがこの命を授けてくれた恩には報いたいと思う。その時が来たら僕にやれるだけの事をやってみよう。
「ありがとうございます。その時が来たらきっと私が分け与えた力がハルトさんを助けてくれるでしょう。それからもし困った場合は、”最果ての地トゥーレ”に住んでいる”ガイア”と言う人物を訪ねてみて下さい。きっとハルトさんの力になってくれます。それではハルトさん新しい世界での人生を謳歌して精一杯生きて下さい。」
そう言うと神様は指をパチンっと鳴らすと真っ白な空間にその音が響き渡り次第に辺り一面が光に包まれて行く。どうやら新しい世界へと旅立つ時が来たようだ。目の前の神様と家族の姿も次第にボヤけて行く。
「行ってらっしゃい。ハルトさん」
「行ってきます。じーちゃん、ばーちゃん、母さん、神様。」
僕は4人に見守られながら光に包まれ新しい世界へと旅立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます