#41

 

「ゴールデンウィーク何か予定あるか?帰省とか旅行とか」


「いや別に俺はないが……少し気が早いような気もするぞ」


 ゴールデンウィークまで3週間はあるぞ。

 計画は早いうちにするに限るが、それは旅行だったり手間がかかるようなことだけだ。

 大体は一週間前なんなら前日に決めたりするだろう。


「まあな、急に予定ができそうなやつらが多いだろ。で、皆で遊びに行かないか?」


 このタイミングで、か……

 朝登校して皆で集まっていると京一がそんな提案をしてきた。

 泊まりとかでなければ大会の練習にも支障は出ないだろうし問題はないが……

 思えばゴールデンウィークの土日が大会なのか。

 そんなことはまあどうでもいい。

 問題なのは愛理さんと紀里の仲……

 3週間もあるんだ、仲は戻っているといいんだが……


「きーちゃんも勿論行くよね?」


「あなたねぇ……はぁ、行けばいいんでしょ?」


 なんか大丈夫そうだな。

 心配する必要なかった。


「僕も別に用事ないからついて行くよ」


「よーしけってーい!皆で買い物じゃーい」


「ショッピングモールにでも行くのか」


「まあそうだな買い物して適当に遊んで終わり」


「ショッピングモールなんて、十年近く行ってないかしら……」


 ポロっとこぼした言葉だがなかなかに衝撃的な言葉が飛んできた。

 俺も正直愛理さんと行くまでは、数年ほど行っていなかったがそこまでじゃなかったな。


「なんか箱入り具合でいったら愛理さんよりも紀里のほうが深刻だよな」


 ふと思ったことを口に出してしまった。


「まあ樹さんは知らないほうがいいですよ。紀里の家は自由という言葉を使うことすらも禁止されているんじゃないかと思うくらいには酷いので」


「両親がそういう家で育ってきたのよ」


「どういう家だよ……」


「紀里のお父様が地主、お母様が大企業の社長なんですよ」


「……関わったらダメだったか。千郷、紀里は諦めよう」


「仲間外れにするのは無しよ?」


 まあ愛理さんの幼馴染という時点で中々にお察しなところはあったがそれ以上だった。

 ここはお嬢様学校かなんかだったのか?

 俺は平凡な平均的でなんの凹凸もなさそうな学校に来たつもりだったんだがどうやらそれは違ったらしい。


「……そういえば灰羅は自由とまではいかないがそこまでじゃなかったような記憶が」


「灰羅は……瑠璃のおかげね。我が家からしたら瑠璃は娘のような存在だったのよ。あの状態での一人暮らしは心配になるでしょう?そのお目付け役よ」


「あまり機能してないお目付け役だったな」


 結局家事全般をやっていたのは俺だしあいつはただ俺の飯食いに来てただけだろ。

 まあもしかすると何もできない家よりはましだから逃げだしてきただけだったのかもしれない。

 そう考えるとあの家には家族を失った人間と家族から逃げてきた人間と家族と会わない人間が集まっていたのか。

 なんとも闇の深い家だな。


「まあじゃあショッピングモール行くか……」


「そ、そうだね……ここお坊ちゃんとお嬢様しかいないけどどうすれば……」


「ま、まあ普段通りにすればいいんじゃないかい?下手なことをしたら消されるかもしれないし……」


「私はしないわよ。愛理は知らないけど」


「しませんよ。決して銀行を止めたり、系列全ての店を出禁にしたり、なんなら世界から消したりなんて絶対にしませんよ」


 顔は笑っているが目は笑っていない。

 この場にいるほとんどが寒気を感じただろう。

 俺こんなことができる家のお嬢様と許嫁なの……?

 命狙われたらもう終わりかもしれない。


「まあ一番単体で危険なのは樹さんですけどね。自分の手で直接処分する必要がないとかいいそうですよね」


「何を言っているんだ?」


「まあそうだな……」


「京一もどうした?」


「服従させれば危険なんてないわよ」


「お前は何を言っているんだ?」


 変だな、まるで俺が暴れ狂う獣みたいな扱いじゃないか。

 泣くぞ、泣いていいんだな?

 ここまで悪く言われるなんて心外だ……


「取り合えず全員大丈夫そうだな」


「そうだね」


 話が一区切りついたところで丁度HRが始まりそうなので全員席に戻った。






 昼休みになり、いつものメンバーで飯を食っていた。


「結局紀里は大丈夫なのか?」


「何がよ」


「いやほら灰羅の」


「樹さんって自分から地雷原に踏み入っていくのが得意ですよね」


「どういうことだ」


「意味そのままですよ」


 まあ確かにこの状況で聞く話ではなかったのかもしれない。


「まあ私は寛大なので樹さんが地雷踏みまくっても許してますけどねー」


「いやもうそれはありがとうございます」


「人に話を聞いといて惚気始めるのあなたたちぐらいよ?」


「バカップルというかなんというか……」


「いや~うん、樹、雪上さん以外居ないと思ったほうがいいぞ」


 それは俺もそう思う。

 推しで、甘やかしてくれて、なんでも許してくれる人なんかなかなかいないからな……

 愛理さん様様である。


「まあ正直私も樹さん以外に興味が湧かなくなったので樹さん以外いないんですけど」


「何を言っているんだ?」


「すぐ惚気るぞこのバカップル」


「危険危険」


「あなたたちのおかげで大変な目にあったのに楽しそうにしてるの見ると一回潰したくなるわね」


 相変わらずというかなんというか紀里は変わらないな。

 この調子であれば元に戻るのはそう長くなさそうだ。

 そして命の危険を感じたが、愛理さんが間に入ったおかげで助かった。

 愛理さんが紀里を丸め込んでいる間に予鈴が鳴り、命は助かった。






 相変わらず家に帰ってみれば愛理さんがいる。

 そこまで変える時間に大差はないはずなんだが……

 しかも料理もできてる風呂も沸いてる何もかもが用意されている。

 魔法使いかなんでも出てくるポケットを持っているようにしか思えない。


「愛理さんなんで俺が帰るころには何もかもが終わっているんだ?」


「えー……秘密です」


「なんで濁すんだ……」


「冗談です。料理は朝早くに起きて、下ごしらえも全て終わらせてほとんど調理すればいいようにして家を出てますし、お風呂は家へ帰ったらすぐ沸かしてるだけです」


「ありがとうございます、本当に」


「樹さんのために4時とかに起きてるんですからねー本当に感謝してくださいよ~?」


 ここまで行くと俺は土下座をしたほうがいいんじゃないか?いやしよう。

 決断したからにはすぐがいい、そう思いそのまま流れるように土下座をした。


「何してるんですか」


「いやもう頭上がらないので」


「……顔を上げてください。というか立ってください。私が樹さんのこと好きじゃなくならないようにすればいいんですよ?そうしたら樹さんのお父様の会社も潰れないで済みますし」


 ……ちょっと待て何か知らない情報が出てきたぞ。

 俺が愛理さんに愛想つかれたら父さんの会社潰れるのか。


「最近決まった事なので言いますけど、樹さんのお父様の会社って雪上家に借金してるんですよ。それも結構な額を」


 新事実。

 借金してるとは聞いていたが、よりにもよって雪上家かい。


「でも、私たちの許嫁関係が続いて見事婚約となったらチャラです。雪上財閥の一つになるので」


「なるほどな……許嫁とは言ったが実質政略結婚となんら変わらなくなったのか」


「そうですね、ちゃんと私のこと愛してくださいよ?借金の額は到底樹さんが払えるようなものじゃないので」


「怖い事言わないでくれ」


 道を間違えたら見事雪上家の歯車の一部となり得るのか。


「正直推しを世話してるだけで気持ち良くなってるので、あまり気にする必要はないですよ」


「そうか……」


「こんな面白くもない話をしていてもご飯が冷めるだけなので、さっさと食卓に着いてください」


「はい……」


 椅子に座り、ため息をついてから色々と考えた。

 とうとう愛理さんに命まで握られてしまったようだ。

 取り合えずしばらくはいつもと同じように接すればいいだろう。

 無駄なことをして失敗したくはない。


「一緒に住むようになってからそろっと半年経つのでいい加減……」


「飯食い終わってからでいいかその話は」


「まあどうせ聞いてくれないので気にしないですけど」


 料理を盛り付けながらそっぽを向かれてしまった。

 やっぱり愛理さんはこういう反応が可愛いよな。

 今そんな事を言ったら怒られてしまいそうなので言わないが。

 いつも通り美味い飯を食って、後片付けをしてソファーでリラックスしていたが、愛理さんが隣に座ってきた。


「そろそろ私も我慢の限界なんですけど」


「性欲に負けてる……」


「人間の三大欲求が欠けそうなんですもん」


 愛理さんに三年生になったらと言ったが正直二人して持ちそうにないよな……


「特に一緒に寝てるとき爆発しそうでやばいですよね」


「それは大いに共感できる」


「……もう別々の部屋で寝ます?」


「無理」


「ですよね」


 ちなみにこの問題の解決方法は至って簡単だ。

 まあうん俺が愛理さんの誘いに乗ればいいだけの話だ。

 簡単な話だろ?それに最近「あ、無理かもしれない」と思うことが増えてきたからな。


「樹さんは関係が変わるからとかいう意味が分からないことを言ってくるし」


「確かになぁ、俺も今、聞いて意味が分からないと思う」


「じゃあなんで嫌なんですか」


「いやなんか幻滅されそうだし、あとはまあ……そういう生活が続きそうだし……」


「幻滅することはないとして、毎日だらだらそういう生活は正直……全然ありえるんですよね……」


「だよなぁ……」


 今までのことを考えてもだらだら生活しているだけだ。

 そう考えると絶対とまではいかないかもしれないが、確率は必然的に高くなるだろう。


「でも三年生までは長くないですか」


「いやまあ……はい……」


「まあ私も樹さんのことが分かってきたので今日、今すぐと言いませんけど考えてくださいね?」


「はい……」


 何故説教まがいの話をされているんだろうな。

 愛理さんは近づいてきて、俺に何か物欲しそうな顔をしてきた。

 こういうことをしてくるから俺も理性が吹っ飛びそうになるんだよな。

 どうせ何をして欲しいのかは分かっている。

 なので、愛理さんに顔を近づけてキスした。


「えへへ~」


「勘弁してくれ……」


「さて、気分もいいのでそろそろ大会へ向けて練習しましょうか」


「はい……」


 最近はただ愛理さんの言いなりになるしかない。

 しかし俺はただ愛理さんの言う通りにしてるだけでいいので、案外楽ではある。

 それに反抗したら、なにをされるか分かったものじゃないからな。

 要は愛理さんの言うとおりにするいうことが一番無難なのだ。






 いつも通り全員が集まり、今日は何をするか確認して実戦をしていた。

 俺はダメ出しを何度も食らって心が折れそうだ。

 だが折角の大会に出るのだから最後までやり遂げたいとは思っている。

 しかしそれでもまあ心に来るものだ。


「凛斗さんもう死にかけじゃない?」


「……大丈夫だ」


「2徹した時並みに声が死んでる」


「まあ普通の初心者よりは圧倒的に上手いし、多分大会でもしっかり戦えると思う」


「正直このチームのレベルが高いだけだからね」


「はい……」


 無論、俺が初心者で、まともな動きができるわけがないということは知っているが、やはりチームメイトの動きを見ていれば劣等感を感じる。

 コメ欄でも励ましの声が多々あるので、まだ頑張れるか。


「一回気分転換に何か別のキャラを使おっか?」


 ということで別のキャラというか希華の十八番キャラを使わせてもらうことになった。

 数ラウンドやって気づいたことがある。

 滅茶苦茶楽しい。

 同じキャラばかり使っていると、同じことしかできなくて少し飽きていた。

 何事も気分転換することが大切なんだと身に染みた。

 1試合終わって、そのことを話すと、


「それなら良かったー役割希華さんと交換してもよさげだったね~」


「回復ないのつらい」


「希華さんは弾を食らいながらでも戦う人だし」


「凛斗君は、このキャラもピックプールに入れて戦ってもよさげだから、もう少し戦術の幅が広がりそう」


「練習しておきます」


「おっけーじゃあもう一回考え直したほうがよさそうだねー」


 俺のピックプールが広がったので、一度考え直すことになった。

 動きはまだまだなので、しっかりと使わるというわけではないが、他チームに意表を突くことはできるかもしれない。

 ピックだったり動き方を決めたりして、今日は練習が終わった。

 各々配信が終わって、全員通話に残った。

 配信が始まる前に、Dustarさんから、今日は全員残るように言われていた。


「ごめんねー残ってもらって。大会の日終わってから二次会ってことで配信したいんだけど大丈夫かな?」


 全員予定が空いていて、二次会をすることになった。


「なにするの?」


「皆的には何がしたい?」


「無難なところを突くならマ〇クラとかそのままヴァ〇とかでしょうかね?」


「んーまあヴァ〇か」


「じゃあヴァ〇やろう」


 ということで、二次会はVAL〇RANTをやることになった。

 話はそれだけだったので、すぐ解散した。

 リビングに戻ると、愛理さんが項垂れていた。


「どうしたんだ?」


「樹さん……二次会の恐ろしさは……」


「あ……」


 大会後というのもあり、基本的には夜中にやることになる二次会だが、その時間帯に予定がある人は少なく、次の日の朝までなんなら人によっては次の日の夜までやるようなこともある。

 そして愛理さんは過去に30時間連続でやっていたことがある。

 要は経験者は語るというやつだ。


「一人でゲームするのと話しながらするのじゃ、疲労感に違いがあるんですよねぇ」


「まあだろうな……」


「前日もしっかり練習するので、ちゃんと寝てないと普通に眠くなりますし……」


「いやだぁー」


 まあ実際のところ嘘でも予定があると言ってすぐに抜けてしまえばいいんだが、他の人が長時間やってるの考えるとそういうわけにもいかないんだろうな。

 二次会中に限界を迎えてそのまま寝てしまう人もいるぐらいなので、覚悟を決めてやらなければ……


「今回はヴァ〇だったのでまだ良かったかもしれないですね。満足したら終わりなので……」


「愛理さんはパズル揃えるゲームだったか」


「マジで虚無でしたよ。もうやりたくない……」


「若干トラウマになってる……」


「樹さんは早く落ちても大丈夫ですからね。その分私がやることになるんでしょうけど」


「落ちる時は一緒だ」


「なんですか、その死ぬときは一緒だみたいなセリフは……まあ嬉しいですけど」


 最悪静止画置いて逃げる準備はしておこう。

 いやほらまあな?逃げ道は用意しておくにことはないだろ?

 しかし愛理さんが許してくれないだろうな。


「しかし樹さんもだんだん配信者として大きくなってきましたね」


「凛斗という存在はほとんど愛理さんによってできているようなものだぞ」


「……私としては凛斗さんは無名のままでも良かったんですけどね」


 どう考えても愛理さんのおかげで有名になったので、無名のままでいろと言われましてもどうすればよかったんですかねという。

 実際のところ、俺も無名でいたほうが、なんというかこう……もう少し雪姫雪花を推していたかもしれない。

 今じゃ推しというか彼女兼許嫁なのでガチ恋というか……なんて表せばいいのだろうか。

 まあ彼女だよな。


「まあ正直伸びて立凛に恩返しできたか……」


「他の女の話するのやめてくれませんか?」


「ごもっともで」


「じゃあ今度からしないように」


「はい……」


「でもまあママさんに恩返しできた時は少し心が落ち着きますよね」


「今度愛理さんも会うか」


「うーん……会いましょうかねぇ」


「何でちょっと嫌そうなんだ」


「だって……いやまあいいです」


 冗談交じりで言ってみたが、今度連絡を入れておくか。

 愛理さんが少し嫌そうにしていた理由は良く分からないが、ある意味オフ会が開くことができそうで、内から込み上げてくるものがある。

 日程は決まってないが、取り合えず立凛に連絡を入れてみた。


「大丈夫だってよ」


「……正直時間がないんですよねぇ」


「ゴールデンウィークの後何かあるのか?」


「収録とか六期生とのコラボとか……」


「あぁ……なるほどな」


 そういえば六期生のデビューが近いことを忘れていた。

 新しく入ってきた人達が慣れるためにコラボをすることがよくあるが、それのことだろう。

 ということは収録も六期生関係なんだろうか。

 まあそれかコラボPCのMVでも撮るのだろう。

 どちらにせよ、1オタクとしてはただ待つだけだ。


「今週とかダメですかね?」


「聞いてみるか」


 再度スマホを開き、立凛にDMを飛ばした。

 すぐに一言『明日おk』と返事が返ってきた。

 フットワークが軽すぎるんだよな。

 愛理さんに明日なら大丈夫だと伝えると……


「分かりました、やっぱり立凛さんってニートなんですかね?」


「それは思ったが違うらしいからな」


「本当なんですか……」


 まあクビにされてなければ今でも仕事をしているだろうな。

 明日は出かけなければならなくなったので早めに寝た。

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