#35
風呂から上がり特にすることもないので布団の上で駄弁っていた。
布団から顔を出している愛理さんが可愛い。
「春休みを満喫しすぎた気がしますね」
「確かにな」
愛理さんとデートしたり温泉に来たり、春休みにしては少しはしゃいだ。
もう明々後日から高2だ。
高1は目立たないように生活しようと思っていたのに、一瞬にして壊され挙句の果てには愛理さんという存在ができてしまった。
俺の望んでいた高校生活とは全く異なるもので、もう修正も効かないところまで来ている。
これからどうしていけばいいのか分からない。
「そういえば別のクラスになったらどうする?」
「え?休み時間のたびに会いに行きますけど?」
「家でずっと一緒にいれるから別に気にしないけど……気にしないけどなぁ……」
「私が恋しすぎて一生ついてくる樹さんが見てみたいです」
「……ならないように努力する」
「え、別にいいんですけどね。可愛くなりそうなので」
「俺に可愛さを求めるな」
別に需要は……ないだろう?
俺の可愛さに需要はない。
「樹さん今度女装しませ……」
「しない」
「え~高身長でガラの悪い女性の女装は凄く似合いそうなのに……」
「悪口か?」
「いや似合いそうって思っただけですよ?」
ガラ悪いってそういうことだよな……
独りで勝手にしょぼくれていた。
「じゃあ逆に清楚系の女装でもします?」
「あのなぁ……俺に女装させようとするのやめてくれないか?絶対に似合わないから」
「やってみないと分からないですよ?」
「それはそうだが……」
流石に無理があると思う。
「逆に愛理さんが男装してみるのはどうだ?」
「え~じゃあ今度男装してみますね。どういうのがいいのか分からないですけど」
「無難なところを突くと執事とかか?あとアニメキャラとかでもよさげだが」
正直愛理さんが男装した所で違和感はあまりなさそうな気もする。
元が良すぎる。
なぜモデルをしていないのか今でも疑問を持つぐらいスタイルもよく、周りの視線を集める美貌を持っている。
「なんで愛理さんはVtuberなんかしてるんだかなぁ……」
「ん~初めて触れたネット文化がV界隈なんですよね~だから普通の配信者だったりよりもVになりたいって思ったのが大きかったのと、財閥家の娘が顔出し配信ってのも色々と言われそうだったので丁度良かったんですよ」
「確かに愛理さんの家のことも考えたらそうなるのか……しかし初めて触れたのがV界隈なのか……」
なかなか珍しいような気もする。
好きなゲームの実況だったりを見るのなら動画のほうが圧倒的に楽だから、ほとんどの人が動画を見ることから入ったんじゃないかと思っている。
勝手なイメージだがVtuberというのは、動画投稿よりも配信をしていることが多い気がする。
その中でVtuberの動画を見たのは稀だろう。
「そこに関しては本当に偶々だったんですけどね、ただ好きなゲームの動画見ようと思ったらその投稿主がVtuberだったていう」
「ちなみに誰なんだ?」
「ツキ先輩ですよ」
「あーなるほどな……」
ツキは基本配信者として活動しているが、動画編集者を雇い配信のアーカイブを切り抜いている。
ツキの場合そのやり方をデビュー当初から続けているので、愛理さんが見かけていてもおかしくはないだろう。
動画の内容もかなり面白く出来上がっているので、ツキの動画が人気なことは知っている。
「それでsiveaに入ったのか」
「まあ入りたいと思っていたのは事実ですけど、丁度募集時期とVになりたいと思っていた時期が被っていたのもありますね」
「中学生でよく入れたな」
「そりゃ家の力ですけど?」
「狡いな……」
「使える物は使っていかないと勿体ないですからね」
愛理さんのその発言で少し将来が不安になった。
思えば初配信からしっかりしていたのは、雪上家で育ってきたからだということなんだろう。
「まあ樹さんがsiveaに関わっていたことを聞いて少し期待されてたのかもしれないと思うんですよね」
「そうなのか?……まあ同じ中学生だったからか」
「まあ今じゃ人気Vtuberなんですけどね?」
「推していて良かった……」
「限界オタクが戻ってきてません?」
「そりゃ……推しがこんな身近にいるって考えたら弾け飛ぶ」
「それは私もそうなんですけど……」
傍に推しがいるという生活に慣れてしまったが、今でもそう考えれば限界化できるぐらいには、推していた。
今じゃ雪姫雪花よりも雪上愛理を推しているような気もするが……
完全に分けることは難しいので、どちらも推しているということにしたい。
「まあ私の推しがこんなにもヘタレで可愛くて格好良くて色んな面があるとは思ってなかったんですけどね」
「まあ俺も愛理さんがずっと敬語を使ってくるような人だとは思ってなかったがな」
「うっ……慣れてしまったんですもん……」
「まあ俺は今じゃ別にどっちでも気にしないし好きにしろ」
「配信モードになったら敬語やめれるんですけどね……」
「いつもそんな状態でいたら大変だろう?無理はしてほしくない」
敬語だろうが敬語じゃなかろうが愛理さんという人間の根本は一緒だ。
攻めてくる時は攻めてくるし甘える時は甘えてくる。
一緒に配信したり一緒に生活してこれはよく分かっているつもりだ。
「……樹さんは優しすぎます」
「俺は普通のことを言っただけだぞ」
「あまり無理するつもりないですよ?樹さんの為と思ってちょっと頑張っちゃうことはあるかもしれないですけど」
「本当に無理だけはするなよ?」
「大丈夫ですって、樹さんは過保護ですね~」
そう言いながら愛理さんは抱き着いてきた。
愛理さんが居なければ人生がつまらないと思えるくらいまでは、居てもらわないと困る存在となってしまった。
「そろそろ会ってから半年になりそうですけど相変わらず襲ってこないですよね」
「三年生まで待つって言ってただろ……」
「いや~まあ待つとは言いましたけど?樹さんは色々言ってますけど結局は襲ってこないなって」
「愛理さんは嫌じゃないのか?」
「好きな人からされるから嫌なわけないじゃないですか」
いつもと同じ雰囲気で話しているはずなのに、一言一言に俺の中の理性を崩すような何かが込められていた。
俺がもう少し本能的だったら今頃もう襲っていたんだろう。
自分の不甲斐なさに申し訳ないと思う。
「今日ぐらいはめ外しても怒られませんよ?」
俺を誘うかのように、浴衣を少しはだけさせ肩から鎖骨を見せてきた。
一言でまとめよう……エロい。
そんなことを考えている間に愛理さんの顔が近づいて唇同士が触れ合った。
愛理さんは俺の隙は見逃さないかのように、舌まで入れてきた。
「んっ……はぁ。ここまでしても落ちない樹さんはどうなってるんですかねぇ……」
「どうなってるんだろうな」
「他人事のように……」
実際これだけのことをされると俺の理性も瀬戸際で、いつ落ちてもおかしくはない。
ただ今の関係性が崩れるであろうという恐怖から逃げているだけに過ぎない。
「私じゃなかったらとっかえひっかえヤリまくりなんですかね?」
「それは違うだろ……」
「まあヘタレですもんね!はぁ……他の女に目を付けれる前に私のところに来てよかった……」
「最後の言葉小声のつもりか分からないが聞こえているぞ」
「あまりそういうことは聞こえても言っちゃダメですよ?」
俺は愛理さんの言葉に、愛理さんは俺に小声のつもりで言ったことがバレたことで二人して顔を真っ赤にした。
頼むから二人して恥ずかしくなるようなセリフを言わないでくれ……
「というか愛理さんは俺としたいんじゃなくてただからかってるだけだよな?」
「……ひゅ~」
「だろうな……」
「まあ樹さんが望んだら喜んでと言いますけどね」
「しばらく先の話だ」
「私が心変わりするかもしれないって言いたいんですか?……まあそうなっても好きであるうちは多分樹さんの為にとは思いますよ」
「自分を優先してくれ……」
俺だって愛理さんの為にと思って動くんだから本当に無茶をされては困る。
これ以上話しても愛理さんが一向に自分の身を犠牲にするような考えを突き通してきそうなので、話すのをやめた。
別の話題に変えようと思っていたら愛理さんが口を開いた。
「あーやだやだやだやだ」
「どうした?」
「春休みが終わって学校行くことになるだけならいいんですけど……収録が詰まってて……」
「俺はどうしようもできないからな……」
「頑張ります……」
企業勢の大変なところはこういうところだろう。
特にsiveaは秋まで力を入れる節がある。
番組系などの動画企画だけではなく他企業とのコラボやライブまでと、色々とやっている。
なぜ冬は力を入れていないのかって?どんな人間でも休みというのは必要だろう?
それでも数日に渡って収録することがあるということは、去年のクリスマス辺りで知っているだろう。
「そういえば今年はワンマンライブやるのか?」
「今年は告知があったと思いますけどsiveaで大規模イベントするのでないです。その代わり数日持ってかれるので……」
「siveaも凄いよな……」
大規模イベントというのは、知名度のある音楽フェスに出たり、有名ブランドとのコラボ、しまいには丸二日間会場でイベントをするなど一時期に詰めすぎじゃないかと思えるぐらいのイベントだ。
あの社長が運営する会社なんだから何が起こってもおかしくはないと思ってたんだが、正直予想の域を越してきた。
「樹さんの幼馴染にも会いに行くというのに……」
「あ、まだ覚えてたんだな……」
「ちなみになんですけど、いつ行くんですか?」
「お盆だな」
毎年お盆の時期に呼び出されるので今年もお盆の時期に行く。
「……ギリギリ大丈夫だったかなぁ?」
「お盆の間はどうしても向こうにいないといけないんだが大丈夫そうか?」
「う、うーん……一日早くいなくなるかもしれないですね……ちゃんと日程確認してないので曖昧なんですけど」
どうしてもお盆の間は手伝いで帰りたくても帰れない。
帰ろうとすれば死ぬ方がましだと思えるぐらいのことが起きてもおかしくない。
「そういえばお盆は樹さんのご両親って……」
「来ないぞ、特に母さんは」
「樹さんのお母さんって仕事人かなんかなんですか?」
「仕事人だぞ。多分しばらく海外に行ってるんじゃないか?」
「なるほど……いつか会ってみたいんですけどねぇ」
「あー……愛理さんは意気投合するかもしれないがあんまり会うのはオススメしないぞ」
性格というか雰囲気は愛理さんに似ているんだがなにせ可愛がるときは厄介でしかない。
子供として恥ずかしいと思えるぐらいには、だ。
「その顔は……中々に大変なお母さんなんですね」
「多分愛理さんは可愛がられるから気を付けたほうがいいぞ。娘が欲しいと何度も言っていたからな……」
「覚悟します」
正直心配でしかないんだが……
こんなことを考えていて母さんが早く帰って来たら怖いのでさっさと考えることをやめた。
「というか樹さん一体いつから一人で家にいたんですか?」
「……そうだな、中学入ってからは一人だな。小学生の時は高学年になってからは一人になる機会が増えたか」
「なんか樹さん私がいなかったら孤独死しててもおかしくなかったんですね」
「まあ推しがいたし死ぬまでは長かったかもな」
「よくぞ頑張った私」
死ぬまでは長かっただけで満身創痍ではあっただろうな。
中学はまだ灰羅と瑠璃にキレられ頑張って生きようとしていたが、高校になってからは飯食うことが少なくなっていたぐらいだ。
いつ死んでもおかしくはなかっただろうな。
「あ、そういえばクラス分け……」
「先に頼んでいて良かったな」
実のところ今日クラスが発表された。
俺らは出掛ける予定を前から立てていたので、京一に頼んで写真を送ってもらっていた。
「これは……やってますねぇ」
「そんなところだろうと思ってはいたがまあなかなかどうして面白いことをしてくれる」
俺と愛理さんが同じなのはそうだが、他には京一、千郷、紀里、光大といういつものメンバーである。
多分予想をするに、紀里がやってくれたか京一が何か言ったりしたんだろう。
普通だったらこんなクラス編成になるわけがないからな。
「もう二年生か」と思っていたらふと大事なことを思い出した。
「そういえば春から灰羅と瑠璃と美雨が入ってくるのか……」
「楽しくなりそうですね~」
「美雨が寝ないようにあの馬鹿垂れどもに見張っていてもらうか」
「なんであの二人のことを馬鹿垂れっていうんですか?口が悪いですよ?」
「あ~俺の弟子だからまあ許してくれ」
「ほう」
俺の弟子というのは、単純に灰羅にソフト系を教え瑠璃にちょいと不味い方向のことを教えていただけであるが何故か師弟関係になっている。
「私も久しぶりに会うんですよね」
「元気にしてるといいんだがな……」
「そうですね~」
特に瑠璃は。
今日はこれ以上話すことなく一緒に寝た。
次の日も、愛理さんに連れ回され、なんだかんだ楽しい春休みを過ごした。
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