#10
あれから約一週間ほどが経ちとうとう初コラボ配信をする日となった。
正直なところ俺は何もわかっていない。立凛と配信を一緒にしたことはあるがそれとこれとでは全然違う。何度かコラボ経験がある紺鳥ユウさんにリードしてもらえればいいと考えていたりもする。
「私は、私で配信してますね」
「まあ言うことでもないが頑張れよ」
「樹さんも頑張ってくださいね。初コラボ」
それだけ言い残すと愛理さんは飲み物を持って部屋へと入っていった。
「さて俺も準備を始めるか」
俺も部屋に入りDMである程度打ち合わせをしながらも自枠も作った。
コミュ障を発動しないように頑張る……
「よしこれで……」
俺は招待されたVCの場所へ行きマイクのミュートを解除した。
「……よ、よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします。凛斗さん」
「誘ってくれてありがとうございます」
「いえいえ。今回のコラボが初めてのようですしリードさせてもらいますね」
「あ、ありがとうございます」
ユウさんは少し軽く笑いながらも配信を始めたので俺も始めた。
「あまり羽ばたけていない鳥こと紺鳥ユウでーす」
「ただの学生こと神木凛斗だ」
「え?学生?」
「うむ、学生」
「へ~学生なんですかぁ~あ、ちなみになんですけど僕、鳥人ですからね?」
初見の人は勘違いする気もするが……
何故かというと人の姿だし羽が白いから天使に近いような……
初のコラボのせいであまりどういう反応をすればいいのかが分からない。
「さてじゃあやっていきますか」
「……よし招待したと思うぞ」
「あ、来ました」
俺はゲーム内で招待しパーティーに入ってもらった。
あ、この人もやりこんでいる。
レベルを見てみても十分にやりこんでいることが良く分かる。
「デュオでお願いします」
「了解」
二人だけでマッチングできるデュオへとモードを変更した。
上手く立ち回れるよう頑張ろう。でもデュオでの立ち回りってどうやればいいんだ?
「あ、立凛。こん~」
マッチングしたと同時に立凛がコメ欄へと『わこつ』と打ってやってきた。
うん?わこつ?こいつ……
一応気になったのでユウさんに聞いてみた。
「なあ、わこつって古くないか?」
「わこつって何ですか?」
「えぇ……」
「え、本当に何ですか!?え?常識なんですか?」
「ニ〇ニ〇って知ってるよな?ニ〇生とか」
「えぇ、それぐらいは。見たことはないですけど……」
こやつ本当にネット民か?
誰しもが一度は通る道だろう。
俺は先にy〇utubeに来たがその後ニ〇ニ〇へ足は踏み入れた。
『なんでわこつだけでそんなに盛り上がるの?』
「わこつだけでなんで盛り上がるの?、と言われてるぞ」
「だって知らないんですもん。仕方がないじゃないですか。え?なになにわこつは使う人少ない?へー」
「だってよ」
『んなまさかー』
立凛、貴様は時代遅れだ。
この場で一人だけ少し前の世代がいることがはっきりとした。
ちなみに言うと接敵中にこんなのほほんとした会話を繰り広げている。
「あ、右、敵います」
「まずいな、別パだな。今いるやつらと戦わせたほうがいいかもな」
「じゃあ引っ張りましょう」
今戦っている敵も別パが来ていることには気づいているだろう。
ここで引っ張ると逆に双方から挟まれて撃たれてやられるだろう、ならここは……
「いや引っ張らずに逃げるふりをして隠れたほうがよさそうだ」
「分かりました。じゃああそこの岩に隠れましょう」
逃げるように見せかけてユウさんが言った岩の裏へと隠れた。
さっきまで戦っていた敵たちは追ってこようにも別パに攻撃され追ってこれずその別パと戦っているようだ。
敵同士が戦い終わるまでに回復をし再度立て直した。
「あ、銃声止みましたね」
「よし回復する前に行くぞ」
隠れていた岩陰から飛び出し、回復しているで最中だった敵にダメージを与えていった。
「そいつで最後。もうだいぶロー」
「よし、終わりました」
最後の一人を倒しここでの戦闘は終わった。
付近からは足音もしないため漁夫は来ていないようだ。ここで漁夫に来られたらたまったもんじゃない。
相手の装備が入ったボックスから装備を取り回復もしっかりとした。
「ん?銃声がしますね」
「遠いみたいだ……それにアンチ外みたいだな」
このゲームはラウンドと時間が進むにつれて戦えるマップが狭くなりそのマップの外に居るとダメージを食らうバリアみたいなものがある。そしてアンチというのは安全地帯の略称でアンチ外というのは安全地帯の外、すなわち時間が進むことでリングの外になってしまう場所だ。
俺たちが今いる場所はアンチ内だが銃声が聞こえたほうはアンチ外。戦闘が長引けばダメージを食らいながらの戦いになる。できることならそれは避けたい。
「やめておきますか。もうダメージも結構食らいますしね」
「そうだな」
今のラウンドではアンチ外ダメージがまあまあでかい。
そんな状況で敵と戦ったら戦闘に勝ったとしてもアンチ外ダメージでやられる可能性がある。
「近くに敵居るみたいですね」
「そうか……どうする?戦うか?」
「いややめておきましょう。まだどこに居るかもわからないですし」
今ユウさんが使っているのはドローンを出し索敵や敵に軽くダメージを与えたりするスキルやパッシブ、ウルトを持ったキャラだ。
バナーを見てくれたおかげで部隊数が分かるのはありがたい。
まあそんな便利な機能があるというのにピック率は最底辺というなんとも言えないキャラだ……
「回復いるか?」
「ん~大丈夫です。どちらかというと弾が欲しいですね」
「じゃあ見つけたらピン指しておく」
「ありがとうございます~」
俺は移動しながらユウさんが必要としている弾にピンを置いていった。
移動していると直線状に小さく敵が居るに気づき俺はユウさんに報告した。
「ユウさん敵だ」
「そうですね~200mぐらいですか~」
「おいちょっと待て。まさかここから撃つとかはやめろよ」
「無問題。スナを即座に二発頭に入れればいけますから」
「俺は少し近づいておくぞ」
ユウさんがSRのチャージをし始めるとともに俺は敵との距離を見つからない範囲まで縮めた。
これだけ近づけば蘇生される前に倒せるだろう。
ユウさんが二発放つと見事言葉通り二発で敵をダウンさせた。
「蘇生してますよ。生きてる方にダメージ入れときますね」
敵にユウさんの一撃が当たり味方の蘇生をやめて銃弾の飛んできた方向を向いて撃っている間に俺は詰めダメージを与えて倒した。
よし、案外すぐ終わったな。
「しかし二発もよく当てられたな」
「まあ僕は隙を突くタイプの狙撃手なんで」
「まあナイスだ」
「凛斗さんそうこうしている間にもあと一部隊になりましたよ」
「じゃあさっき居たやつらか?」
画面の右上を見て残り一部隊だということ再度確認した。
俺たちが敵と戦う前に銃声を鳴らして戦っていた二部隊のどちらかだろう。
銃声が鳴っていた方向に向かえば敵と当たるだろうがアンチの位置的にも厳しいのでアンチ内で待つことになった。
「多分敵も動き出すだろうから気を付けてくれ」
「りょうか…………あ、居ました」
敵が居るであろう場所にピンが置かれた。
確かにいるな。フルパで一人も欠けてはいなさそうだしもう少しこっちに寄って来たら撃つ。
敵はまだ俺らの存在に気づいていないようなので奇襲をかけるならもう少し待ってもいいだろう。
「あ、こっちに来ました。まだ気づいてないみたいですけどどうします?」
「ドローンで先に攻撃してそのあと詰める」
「分かりました。タイミングは任せますね」
ユウさんがドローンを敵の近くに飛ばしたことで場所も知ることができた。
俺はドローンに攻撃させるように合図を出し詰めて敵に弾を当てた。
ユウさんがそれに続くように俺と戦っている敵に対してSRの弾を撃ち込み俺が仕留め切ると同時にユウさんはもう一方の敵を倒してしまった。
すると画面上に大きく『YOU ARE THE CHAMPION』と表示された。
「ナイスチャンピオン。幸先がいいですね」
「ナイチャン。この調子で次も行くぞ」
『ナイスチャンピオン~二人とも強いね~』
「うちのリスナーがユウさん強いって言ってるぞ」
「ありがとうございまーす」
無事チャンピオンも取れて俺たちはロビーへと戻った。
無事初戦でチャンピオンを取れたのは大きい。なにせモチベが上がるからな。
俺たち二人はまた次のマッチへと向かった。
「お疲れ様でした~じゃあ配信終わりますね~」
「じゃあ俺のほうも終わってくる」
ラストの試合は勝てなかったが二時間の配信で合計三回チャンピオンを取ることができた。
「見に来てくれた方ありがとう。コメントしてくれた人たちもありがとな」
『珍しいちゃんとした挨拶をして終わるなんて』
「悪いか。折角なんでな」
『お疲れ様~』
「立凛、お疲れ様。じゃあ配信閉じるな」
俺はそう言って配信を閉じた。
初コラボにしては良かったほうか?あまりヘマはしてないはずだが……
ユウさんから『少し話してもいいですか?』と言われたのでミュートを解除した。
「お疲れ様でした~コラボありがとうございました」
「ユウさんのおかげで結構楽にすることができた。ありがとう」
「それならよかったです。また機会がありましたら是非」
「これからもよろしく頼む」
これからもこんな感じで関わることができたらだいぶ俺にとっては楽だ。
「そういえば凛斗さんは学生でしたね。明日も学校でしょうしそろそろ寝たほうがいいんじゃないんですか?」
「話そうとしてきたのはそっちだが?……まあそうする」
「寝れるときに沢山寝ておきなさい。将来……うっ……仕事が……」
「お疲れ様で~す」
「え、そこ聞かな……」
ユウさんが何かを言い切る前に俺は通話から抜けた。
ヨシ!世の中の闇に触れなくて済んだな。
メッセージに『聞かなくって良かったんですか?人生の先輩の話ですよ』と来ていたが『怖いので触れません』と送って逃げた。
まったく俺の周りの大人はどうなってるんだか……
どうすればこの大人たちは黙るのか考えながらも部屋を出てリビングへ向かった。
「わあっ」
「……心臓に悪いからやめてくれ」
リビングに入ったと思うと後ろから愛理さんが現れた。
油断もできない。少しは気が休めるような時間が欲しい。
「お風呂沸いてますよ。一緒に入ります?」
「この間のことはもう忘れたのか?やめてくれ」
「……やっぱりやめておきましょう。私も心臓に悪いですし」
「なら言い出すなよ。それと一応言っておくがまだ許婚ってだけなんだからな?」
「将来が決まっているだけの関係って言うんですか!こんなにもイチャイチャしているというのに!」
確かに愛理さんの言う通り許婚という関係の割にはいちゃついているのかもしれないが……
愛理さんが頬を膨らませ上目遣いでこっちを見ている。
「まあそのうちな」
「なんですか?その曖昧な言葉ははっきりと言ってください」
「もう少し時間が経ったらまあ考えておく……」
「どれだけ掛かってもいいのでちゃんと何か言ってくださいよ?」
「善処する……」
今年中は無理だろうな。
あり得るとしたら来年の今頃じゃないか。
俺のことだからグダグダと引っ張って結局そこら辺まで引きずることになりそうだ。
「それに推しだからなあ」
「推しが目の前にいるならさっさと告れ」
「いやほらガチ恋と推しって違う……」
最後まで言い切る前に愛理さんの顔が近づいて目の前まで来た。
これがガチ恋距離というやつか。
いや愛理さんそういうことではないと思うぞ。
「恋しろ~好きって思え~」
「え、なに、新手の催眠術?」
愛理さんがブツブツ呟いているのを見ていたら耳元が真っ赤になっているのが分かった。
恥ずかしいのか?ならなんでするんだ?
羞恥心に負けずこうしているのは意味が分からない。
そして愛理さんはさらに顔を近づけてきた。そして近づいてきたせいで俺の胴体に愛理さんの胸が当たっている。
「顔、真っ赤になってるぞ。やめておけ」
「なっ……」
俺は愛理さんの両肩を掴み顔を離した。
「なんで止めちゃうんですか。雰囲気的にはそのままキスしてくれてもいいじゃないですか」
「いやまあな」
「ん~!樹さん顔赤い!」
え、まじ?
確かに暑いような気はするが……
やはり愛理さんは俺にとっていい意味で危険だと改めて感じた。
「ヘタレが……」
「うっ……」
何も言えない。
俺には愛理さんに対して言い寄るどころか言い寄られるだけになっている。
「ちなみにキスしたことは?」
「ないな」
「なら……」
なんでそれで近づいてくるのかよ。
そう言って近づいてくる愛理さんに若干の恐怖を覚え一つ嘘を言うことにした。というかそうしないと逃げられないと思った。
「ん?あ、ちょっと待てよ……一度あったような、なかったような……」
「え?……誰とですか?」
「中学の後輩……まあ嘘だがな」
俺は驚愕してその場から動けなくなっている愛理さんを無視し一旦自分の部屋に戻った。
「暑いな……」
部屋の暖房を消して少し経っただけだが異様に暑い。
原因は愛理さんだろう。
まさかキスしようと顔を近づけてくるなんて……
頭の中に妄想を巡らせたが……
「やっぱ無理だ」
愛理さんの顔が近づいてくるだけでダメになってしまう。
愛理さん顔いいし可愛いしで近づかれるだけで結構動揺してしまう。
心の中にあるモヤモヤしたものを払い少し冷静になるためにいまだ終わらない父さんの頼み事に手を付けた。
「さてと……」
俺は椅子から立ち上がり向かいにある愛理さんの部屋に行き扉をノックした。
返事がない。寝ているのか?
寝ているのだろうと思い寝室へ向かった。
「……やっぱり部屋に居るのか?」
リビングにも居なかった。それに風呂場も電気は点いていなかったということは残るは愛理さんの部屋だけだ。
何か作業したまま寝落ちしたのかもしれないな。
そんなことを考えながらも愛理さんの部屋を再びノックしてみたが返事はなかったので入ることにした。
「愛理さん?」
「すぅすぅ…………いちゅきしゃん……」
これまたどうしたものか……
PCが点いたままということは寝落ちでもしたんだろう。
ぐっすりと心地よさそうに寝ている愛理さんを起こすのはなんだか気が引ける。
仕方がないので起こさないようにそっと抱えて寝室へと運んだ。
「んみゃ?……樹さん?」
「そのまま寝てていいぞ」
「ん~そうします~」
まだはっきりと目が覚めていないからか気力が抜けたような声で返事をしそれ以降、返事がなくなった。
俺はベットで寝ている愛理さんの横に座り今後のことを考えた。
流石に告白ぐらいはした方がいいのか?でも許嫁だしな……それに好きかと言われれば「嫌いではない」と答えるぐらいだろうしでも気になってはいる一体どうしたらいいのだろうか。
「好きでもないのに告白されるのは愛理さんも困るだろう……」
それなら本気で好きになればいいと一瞬考えたがどうやればいいのかが分からない。
確かに愛理さんは魅力的で自分が推していたVutberでもある。普通の人ならそれが運命だと感じ、本気で好きになるかもしれない。
でもそう単純にはいかなかった。
どうしても運命だと思うことができないし恋をしているとも思わない。
「この状況、本当に好きになって恋をしている人間だったらどうしているのだろう?」
すぅすぅと寝息を立てて寝ている愛理さんを襲ってしまうのだろうか?それとも体の一部を触るのかそれとも……
悩みに悩んでも何も出てこない。
「まあ今はそう悩む意味もないか」
まだ愛理さんとの付き合いも長いようで短いからな。
お互い何も知らずに初対面だったらこの一か月程度でここまで馴れ馴れしくはしていないだろうし正直に言って軽く会話をするくらいだけだったはず……
ただそこがお互い推していたVtuberということや軽く今までの生活もわかっていた。
「そのおかげでお互い気が楽なんだろうな」
改めて思ってみれば前の家よりもある意味気が休まっている気がするしある意味気が休まってないともいえる。
「仕度をするか……」
俺は寝るための仕度を終えて寝室へと戻ってみたが愛理さんは変わらずぐっすりと寝ていた。
「……後のことを考えていなかったな」
今の愛理さんは仰向けにそしてベットの真ん中に寝ている。
最初の日以降は恥ずかしくなりベットの端と端でお互い背を向けながら寝ていた。
流石にこっちを向いてくることはないだろうが少し困った。
「愛理さんなら許してくれるよな?」
そう願い俺は布団の中へと潜った。
よし寝よう!と思ったその瞬間隣から寝言が聞こえてきた。
「樹さんは……からかいがい……ある…なあ~」
「おい」
「フヘへへへ」
これは夢の中の俺に対して言っているのか、それとも心の中の声が出ているのか?
愛理さんが常日頃にそう思っているのならこれから先も疲れるな。
「樹さん……可愛い…………反応も初々しくて……一生いじりたい」
あ、これ心の中の声だ。
配信以外でこの口調は聞いたことが無いしたぶんそうだろう。
「あれ?私一生って言っちゃいました?あれれ?てことは一生を共にしたいってことですよね」
「おい、ふざけるのも大概にしろ」
起きてるだろと思って愛理さんの顔を見てみたが特に変化はなかった。
まあ少し気が楽になった……
愛理さんがそう言ってくれたおかげでだいぶ気が楽になった。
「ありがとうな。愛理さん」
少し気が楽になったからか眠たくなりそのまま寝てしまった。
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