#3
話していたからか予想よりも遅く新居へ着いた。
俺は知っていたからまだしも愛理さんの方は……
横にいる愛理さんを見てみるとポカーンとしていた。
「このタワマンの最上階……」
「そんなところで突っ立ってないで中に入るぞ」
俺は予め父さんから送られてきたキーを使った。
ここに住むのか……
見ただけでも綺麗で広いということがわかり住むこと自体に抵抗は無いが……
いくらなんでもやりすぎだと思う。
そう思いながらも中に入り管理人から色々と聞き部屋……いや最上階へエレベーターを使い向かった。
「いい人でしたね」
「ああ、説明もわかりやすく親切だったな。ネットの評判通りだ」
「そんなに評判いいんですか?」
「ああ、高いがしっかりとしているとな」
「う、う~ん、まあそういうことなんですかね」
愛理さんはいまいち納得できていないようだ。
まあ、ネットの意見はあまり参考にできないことが多いしあまり思わない人が多いだろう。
それに人によって感じ方というのは変わる。
納得できないということにも頷ける。
愛理さんの考えについて考えていると最上階に着いたようだ。
「そこのドアを開ければもう玄関だ」
「エレベーターから玄関まで一本道なの怖いですね」
確かに少し怖い気もするのはわからなくもない。
エレベーターから降りると他に部屋も無いため短い一本道を通ればすぐに玄関に着くという普通は体験しないような造りになっている。
「鍵……キーカードだ」
「先にどっちが開けます?」
「どうぞ」
「では、お先に」
愛理さんはすぐにドアを開け中へ入っていった。
躊躇いも無いのか。俺だったら少し迷ってから素直に入ると思うがな。
そう思いつつも後に続き中へ入った。
「部屋数……」
「左右二部屋ずつ合わせて四部屋そして奥に一部屋か」
「一部屋ずつ見ていきましょうか」
「そうだな。まずは右の部屋から……」
靴を脱ぎ中へ入り部屋のドアを開けて中を見てみた。
広いな……
個人の部屋としては十分すぎる。
他の左右の二部屋を見ても大して変わらなかったそれと残りの一部屋はトイレになっていた。
「ここの部屋は二人で配信用に分けて残りの一部屋はあとで決めましょう。残るは……」
俺と愛理さんはその言葉が終わると同時に奥の部屋を見た。
他の部屋の合わせた大きさとマンション自体の広さが割に合ってないということは……
俺は唾を飲み込んで目の前にあるドアをゆっくりと開けた。
「嘘だろ」
「はわわわわわわ、ここがリビングで他にも部屋が……」
部屋の広さと今まで見たことのないような景色、学生が住んでいいような場所じゃない圧倒感に押し負けたのか愛理さんはその場で立ち止まり放心状態になっていた。
正直に言うと俺も久しぶりに結構驚いている。
俺こんなところに住んでいいのか?
間違っていないか?変だぞ。
「愛理さん?」
「はわわわわわわわわ―――――――」
驚いたまま「はわわわわ」と繰り返し動かなくなった。
まるで壊れたロボットだな。
動く気配がないので俺は先に入り部屋を確認していった。
一通り見終わりリビングで悩んだ。
ここに置く家具を決めるって相当な量と時間が掛かるよな。
何なら最初から家具付きにしてもらいたかったが、今更仕方がないので愛理さんと相談するしかなさそうだ。
「愛理さん?家具どうするんだ」
「あ、私にはどうしようもできないのでお任せします」
「おい、逃げるな。手伝ってくれ」
「センスの欠片もない私に何を言っているんだか」
「あると思うんだがなあ」
少し後ろに下がり逃げる体制を取りながらそう言ってきた。
まあ、時間もあるしこの後家具見てくるか。
選ぶどうこうではなくこれは早めに取り掛からないといつまで経っても部屋に何も置かれないままになる。
愛理さんが逃げるのを阻止しそのまま家具適当に決めに行くことにしついでに丁度昼頃なので昼飯も食うことにした。
適当なファミレスで昼飯も食べ量販店に着いた。
雑貨物や家具が売られている店に着き二手に分かれて各々で良さそうなのがあれば後で伝えて考えるということになった。
そういえば洗濯機や厨房のコンロ、冷蔵庫すら本当に何も置かれていないのでそれも考えないといけない。
そうは言っても実際どういうものを買えばいいんだ?
確か洗濯機にもドラム式とかいろいろあった気もするが……
IHとかなんかあったような気もするがよくわからん。
俺はこういうことに関しては無知なので店員を頼ることにした。
私、雪上愛理は浮かれた気分で家具その他諸々良さそうなものを探した。
あんな広いところに樹さんと二人っきり♪
Vとして凛斗さんも良かったけど樹さんは私の好みだし配信見てたからどういう人かも知ってるし。
私としては大歓迎でも樹さんも恋愛感情を持っているわけではない、ただ推しと一緒に生活できる喜びがあるだけだろう。
その喜びだけで足取りが軽くなっていたことに私は気づいていなかった。
「推しとの生活……んふふふふ」
あの心の広い樹さんなら無茶を言っても軽く承諾してくれそうだし。
少しにやつきながら家具と今後何してもらおうか考えた。
「ソファーはせっかくだしL字にして机はマットの上に座っても使えるあまり高さがないのがいいかな」
時折変な妄想もいれながら良さそうなものを見て行った。
そう言えば推しとの生活ってどうすれば……
その場に少し立ち止まって考えてみた。
ん?樹さんは私を推してる、そして私はASMRを出している、聞いてる可能性が高い、実際にやってほしいとねだってくる可能性!
私は自分でもわかるぐらい顔を紅潮させているのが分かったので顔を両手で隠した。
周囲からは「何をやっているんだ」という変な眼差しで見られていた。
「あっ……」
私はそれに気づきすぐさま冷静さを取り戻して羞恥心を抱きながらもこの場から逃げた。
そういえばここお店……
私は今更ながら思い出し大人しく素直に家具を見ることにした。
俺、神木樹は店員のおすすめやらいろいろと聞き案がまとまったので愛理さんのもとへ行くことにした。
「……そういえば集まる場所も連絡先も聞いていなかったな」
俺としたことが肝心なことでミスをしていたようだ。
仕方がないの歩いて探すことにした。
愛理さんと別れたときに向かった先、別れてからの時間、配信で言っていた趣味、それらを合わせたうえで居るであろう場所を推測した。
それを基に俺は居るであろう場所へ歩いた。
「…………しかし、こっちは未知の領域だな」
男である俺にとってはこの可愛さとやらが響かない。
いや、俺の性格が関係しているのか?こういうのが好きな男は少なからず居るだろうし。
「あれは……げっ、なんでいるんだよ」
俺は小声でそう呟きすぐに周りの人に不審がられないような動きを取りながら隠れた。
お嬢様が何でこんなところにいるんだろうなあ?
今俺が見つけたのは俺にとってはくそお嬢様で本来なら今頃学校にいるはずの「有坂紀里」が居た。
「お嬢様がこんな場所来てんのかよ。」
それを言ったら愛理さんもそうだが場合が場合だ。
しかし愛理さんと一緒にいるところでも見られたら面倒だな。
「何やってるんです?」
「……驚いた。驚かすのはやめてくれ」
「表情一つ変えない人が驚いたとか言わないでください。それに驚かすつもりもありませんでしたし。
驚かすつもりなかったのか……
急に後ろから声を掛けられたからそう思ってしまった。
「で、何やってるんです?浮気ですか?」
「浮気も何もないだろう……まあ、面倒な奴がいてな」
「誰です?私が知ってる人ですか?」
「……知ってるっちゃ知ってるんじゃないか?話だけはしたことがある」
「…………あっ!わかりました。樹さんが言っていたお嬢様のことですね!ん?でもなんで平日なのにいるんでしょうか?」
鋭いな、これだけで当ててくるとは思ってもいなかった。
しかしどうしたものか見つからないように動くとは言ってもあいつの行動パターンは知らない。
この場をどう切り抜ければいいのか考えていると愛理さんが声を掛けてきた。
「あまり気にせず歩いてもいいんじゃないんですか?姿も名前も知らないので私は知りませんけど……」
「そうか?……確かにこれだけ広いところだ、見つかる可能性だって低いな」
「そういうことじゃないんですけどね」
「…………?」
俺には愛理さんの言いたいことが分かっていないようだ。
じきにわかるだろうと思い特に気にせず互いのいいと思った物の場所へ向かった。
結局紀里とは会わずに色々と見終わった。
「買うか?金については知らないが」
「……あ、ならお父さんに訊いてみます。OKでたら買いましょう」
「ならよろしく頼む」
「何か他に見たいものあったら見てきていいですよ。……あ、連絡できるようにしておきましょう」
連絡先を交換した後愛理さんはどこかへ向かって歩いていった。
周りに迷惑が掛からないように外に出たのか。
俺は特に見る物もないが暇なので見ることにして振り向いて歩き出そうとしたら誰かとぶつかった。
「あ、すみま……」
「こちらこ……なんでこんなところに居るのよ」
「それはこっちのセリフだ」
最悪の状況は避けられたがそれでも嫌な状況になった。
チッ……めんどくさいタイミングで現れやがって。
俺がぶつかった相手は最も会いたくない紀里だった。
「しかし、あなたみたいな出不精でオタクがこんなところに居るなんてね」
「あ?黙れよ、それを言ったら箱入りお嬢様がなんでこんなところに居るんだろうなあ?」
「うっ……私だって買い物ぐらいはするわよ」
「なら俺もそんなものだ」
「……わかったわ。不服だけどそういうものだものね」
「珍しいなお前が自分から認めるなんて」
「何よ!?私が自分勝手で我儘な自己中だと思っていたのかしら?」
そういうもんじゃね?と思いながらも周りの視線が気になった。
すると紀里が脚に蹴りを入れてこようとしたので俺は止めることにした。
「今日はここら辺でやめておいた方がいいと思うぞ」
「……そうね。周りの目があるわ。今日のところは見逃してあげるわ。でも平日なのに学校を休んでいる理由を聞かせてもらおうかしら?」
「上から目線かよ。学校へ行ったらお前も聞かせろ。今はまあ、おさらばだな」
もうこれ以上顔も合わせたくないのですぐさまこの場を離れた。
よかったあいつにも人間の常識というものが備わっていたようだ。
最後も上から目線だったのは気に食わないが……
すると持ってきていたスマホが鳴った。
愛理さんか。
俺はすぐにスマホを取り出し返信した。
「あ、よかった近くにいたんですね」
「あ、ああ、付近の物を見ただけだからな」
紀里と話していたことは伏せた。
面倒ごとにしたくない。
「お父さんから許可出たので買いましょう」
城雪さんから許可が出たということなので俺は店員を呼んで買うことになった物をすべて伝え配達等手続きを済ませた。
複数人で対応されたんだが……
それでも店員のほうは明らか営業スマイルだが喜んでいる様子も見えた。
これが金の力か……
俺はある意味最強の許嫁を持ったのかもしれない。
この店を出て特にやることもないことをいまさらながら思い出した。
「ここら辺で解散とするか?」
「そうですね。あ!今日の夜の配信も来てくださいよ」
「今ここで言うかそれ。まあ当たり前だが行くぞ」
「これで視聴者数が一人固定できた」
「一人じゃお前の場合大して変わらないだろう?」
俺の場合はだいぶ響く場合があるが登録者数100万もいっていれば特に変わらないだろう。
「え、変わりますよ。お金が」
「うわぁ~現実を見せられてる感じだな」
「あははは、でもそういうものですよ」
「それに比べて俺は……」
なんか自分で言っていて悲しくなってきた。
登録者数はあんまり伸びないし視聴者数はほとんど一緒……
「私とコラボすれば……」
「俺個人なうえ無名」
「まあ、これがあれば……」
そう言って愛理さんは手をお金を表す形に変えていた。
それすらねえんだよ俺はああああああああああああ……
「まあ、私が何か言っておきますよ」
「いやあまり気にしなくていい。俺は一人で細々とやっているから」
「いや何とかして見せます」
「いやいいから」
「何とかします!」
同じセリフを互いに言い合って結局決着がつかないまま解散することになった。
なんかスマホが何度も鳴っているが今は無視してもいいよな?わかっているし。
俺は家に帰り特にやることもないので寝ようとしたその時立凛から何か来た。
「もうできたのかよ」
何が来たかと思い見てみればグッズが完成した報告だった。
写真に添えて親指を立てているスタンプも送られてきた。
「流石無職って送ってやろ」
俺は言葉の通り「流石無職」と送った。
するとすぐにメッセージが送られてきた。
「え、無職じゃないのか?初めて知った」
すぐさま「無職じゃなかったんだな」と送った。
「無職じゃないけど!?何?無色だと思ってたの?ひどい偏見だよ!?」と返ってきた。
誤字っていることは当たり前のことなので別に気にしてはいなかったが唖然としていた。
「無職だと思っていたんだがな」
あれだけ暇人感出してずっとゲームしてるやつが無職じゃないだと……
じゃあ何やってるんだっていう話になってくるが俺は興味がないから聞くことはやめた。
俺は「無職じゃないならなんでそんなに時間があるんだ」と訊いてみた。
「やることをすぐに済ませて勝手に帰っている……大丈夫かこの大人」
だいぶ学生に聞かせてはいけないような発言をしている気がする。
これを参考にするやつは相当やばいやつだが俺はもちろん参考にするつもりなどない。
「俺は寝るこれでいいか」
その言葉をそっくり送り付け寝ようとしたらまた何か送られてきた。
「そういえば学校は?」
答える義理もないだろうと思い無視して着替えてベットの中へ潜り込んだ。
その後何件も連絡が来ていたことは寝ていたのでわからなかった。
起きると日が沈み始めあと数十分で配信が始まる時間になっていた。
「PCで見るかベットの中でスマホを使ってみるか……」
俺は立ち上がりPC前に座った。
どうせ雪花様の配信が終われば俺も配信するしな。
そう思いながらも配信が始まるまで待った。
「お、始まったな」
「こんにちは!ん?こんばんは?どっちかな。まあいいか。ということで雪原の姫、雪の花、雪姫雪花です!今日も配信に来てくださった皆さんありがとう」
「うん、愛理さんだな」
俺には砕けた喋り方をするこっちの方がしっくりくる気もする。
Vモデルもだんだん愛理さんと重なってきた。
「今日は後輩の燐さんとやるよ~」
「あ、えっと……
「はあ、スパチャあああああああ。おらあああああああ」
俺は一万円分のスパチャを送った。
金が消えてく……
少し涙目になりながらもスパチャを送った。
「スパチャどっち読みます?」
「う~ん、同時に二人で?」
「oh……それは殺しに来てる」
すると雪花様と燐様が声を合わせて「離凛さんスパチャありがとうございます」と言ってくれた。
ちなみに言うとなぜ離凛なのかというとVの名前のまま行くのはあれだろうと思っているからだ。
するとその事もあって沢山のスパチャが送られていた。
その中には離凛機会をくれてありがとおおおおおという名前を読まれて限界化した組がいた。
同志よ、墓を建てようじゃないか。
「うわぁ、いっぱいスパチャ来てますね」
「これ全部名前読むんですか?」
「これじゃあ配信が終わるまで読むことになりそうだけどまあ、読んで上げよっか」
スパチャは絶えず送られそれに対してすべて読み上げて行った。
流石……
「よし、捌き終わったからゲームしますか」
数分経ちようやくスパチャの流れが収まった。
今日は有名なオープンワールド型RPGを二人でしてくれた。
やばい、推し達が尊い。
語彙力が低下してしまうがこれには尊すぎてやばいな。
俺はこの後も雪花様と燐様の配信を尊いと思いながらも最後まで見た。
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