龍と恋を殺す怖がり

@tori-makefumi

第1話

 あの日、私はフラフラと軽装で深い森を彷徨っていました。


 その時の私は既に自分のいる場所を見失っていたし、特に目的がある訳でも行きたい場所がある訳でもない、迷子ちゃん状態。

 そんな状況なのに私の足は迷う事なく青々茂る草木をかき分け進んでいました。


 私が森を徘徊していた理由はズバリ失恋。

 私は同じパーティ所属の幼なじみで恋人のゴウに振られ、そのショックから森に迷い込み悲劇のヒロインよろしく獣道をザックザックと歩いていたのです。



 別れを告げられた瞬間、私の目の前はグニャリと曲がり、目眩と吐き気をおぼえ、足に力が入らなくなり膝がカクカクしたものの、意外にも冷静に受け止められていた気がします。


 本当は別れたくはなかったのです。

 でもこんな経験は初めてでどうしていいか分からなかった事、そして私自身格好をつけてしまった事で彼の申し出を受け入れてしまいました。



 彼は一緒に住んだ部屋から荷物を纏め慌ただしく出ていってしまいました。

 彼を見送り悲劇のヒロイン気分に浸る私は、ヨヨヨとよろけ床にへたり込む。


 そこから立てなくなりました。


 やっぱり堪えていたみたいです。

 体はだるく重いのに、心臓はバクバクバクバク鳴って止まらない。

 バクバクバクバク、疲れた眠い、でも眠れない。

 数日間、私はそのままの姿勢で過ごしました。


 食欲もなく弱っていった私は、ふと悲しい気配に誘われました。

 力を振り絞り部屋を出て森へ入ったのです。





「本当怖がりだなアプル(私デス)は」


 ゴウの口癖でした。

 実際私は怖がりで二人で冒険中もよく足がすくんで動けなくなる事がありました。


「心配いらないよ、俺が守ってやるから」


 ゴウは時には頬に触れ、時には頭を撫で、時には抱き締めて私を安心させてくれました。

 彼は勇敢な戦士でしたが、私が怯えている時は決して冒険に深入りせず引いてくれる人でした。



 彼は戦士、私は魔導師、二人だけのパーティ。

 私は魔法が使えない、別に落ちこぼれではありません。


 魔法なんてこの世にあるのでしょうか?

 理論上あると言われてはいますが、使える人を私は見た事がありません。


 魔法を使える魔導師はいない。

 魔導師は役に立たない。

 これは世界の常識です。


 それでも何で魔導師がパーティの一員たりえるのかといえばそれは伝統ですね。

 役に立たない魔導師でもパーティに置いとけば箔が付く、みたいな。


 でも若いパーティの間ではそんな事気にしなくなったみたい。

 最近のパーティのトレンドは魔導師外し、本当世知辛いですね。


 この世間の流れに魔導師の私は戦々恐々としながらも、彼のがっしりとした腕に抱かれると安心を与えられ、私だけは大丈夫!とか思っていました。



 勇敢で優秀なゴウはとある若いパーティに誘われていたみたいです。

 私は役に立たない魔導師であるばかりでなく、勇敢な彼の足枷となる臆病者と思われていました。


「俺も本当はもっと先に進みたかったんだ。もっと深くギリギリまで、ヒリヒリするような冒険がしたかったんだ……ごめん」


 やっぱりそうか、ガーン。


「そう……私が重荷になってたんだね」


 憂いの表情で、理解ある女を演じる私。

 本当は必死に引き留めるべきだったのかな。

 もっと努力するから、強くなるからって。



 私は昔からよく、悲しい気配、怖い気配を感じる事がありました。

 正体は分からない、でもその気配には近付けない。

 体が震えてお腹が痛くなるし、怖くて怖くて仕方ない。

 これが原因でゴウに我慢をさせてきたんです。


 私は強くなる、と引き留める事は出来ませんでした。

 無理無理無理無理、私には無理、私は彼を見送るしかなかったんです。





 人間ヤケになると分からないもので、私は森の中を悲しい気配に導かれガッスガッスと進んでいました。

 これが出来るなら彼を引き留める事も出来たかも……でももう遅い。



 歩を進める毎に、悲しみは深く強く感じられるようになっていきました。

 私は苦しくて泣いていました。

 誰の悲しみだろう?

 私はのもののような、そうではないような。


 ガサリ、藪を掻き分けると一層悲しみが深い、そう感じる場所に辿り着きました。

 そこにはドラゴン、命が尽きようとしていました。

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