地球最後の日、その少女は恋を知る。

Nanashi

地球最後の日、その少女は恋を知る。

最初の方は淡々としていてつまらないかもしれませんが、是非最後までお読みください。

————



ふと、空を見上げる。

澄んだ空気を通して見える空はどこまでも広く、そして青い。

空は美しく、見たものは皆心が洗われたようにいい気分に————は、ならないだろう。

何故か。

単純である、もう少ししたらこの地球は無くなるから。


つい先日、全国民、いや全世界の人間にとある情報が行き渡った。


『地球に直径約500kmの小惑星が衝突する。地球の中心部分に寸分違わず進んでおり、この隕石が逸れる確率は限りなく0に近い。』


世界中に発信されるほどのこの情報は、最早推測などではなく、確定された未来として人間の心に住み着いた。


直径約500kmと聞いてもピンとこないだろう。

どこがで聞いた話だが、恐竜が絶滅する原因となったのは10〜15kmの小惑星が地球に衝突したことらしい。

…まあ、つまりはそういうことである。


いったいどこからこんな小惑星が出てきたーとか、なんとか回避することはできないのかーとかで科学者は大慌てらしいが、情報通りならもう無理だろう。

今は午前11時で、小惑星衝突は午後6時。タイムリミットまで残り7時間。まあせいぜい頑張ってほしい。


まあそんなこんなで誰の気分も晴れやかではないだろう。

こんな日に快晴とは、なんとも皮肉なものである。


おっと、遅くなったが、私の名前は柳風香(やなぎふうか)。ピチピチの16歳JKである。

自分で言うのもアレだがスタイル抜群の顔も性格もいい美少女だ。


…いったい私は誰に何をしているのか。

まあ少しおかしくなっているんだろう、仕方のないことだ。


今の説明をもし聞いている人がいたならこう思った人がいるかもしれない。

「なんでそんな冷静なの?」と。

…いやまあいないか。


ごほん。


何故そんなに冷静なのか。それは私の生い立ちが…いやこれだと長くなるな。

簡潔にいうと両親も仲の良い友達も彼氏もいないければペットすらおらず、心残りが何一つないからである。


なので現在は渋谷のスクランブル交差点の中心を横断歩道無視して横断中。


ちょーたのしい、わーい。


…はぁ。


流石の私もこれから死ぬのに何もしないのは勿体無いと、何か探しながら散歩中というわけだ。


まあ何を探しているか、と聞かれれば自分の中でも漠然としすぎて答えられないのだが。


交通機関も完全に止まっていて遠出もできず、本当にすることがない。

いったいどうしたもの…ん?


んー、車の音?


車の音が聞こえたので周囲を見渡す。


あ、やっぱり車だ。いやはや珍しい、こんな時に外に出る淋しい人間が居ようとは。


ブーメランをこれ以上ないほど美しいフォームで投げつつ、私は車の進行方向に仁王立ちする。


…勘違いしてほしくないが、普段から私はこんな人間ではない。本当です。


私の望み通り車は停止し、中から人が出てくる。


「おーまさかこんな時に外に出るかなしー人間、それも女子高校生が居るとは。」

「む、さてはお前もブーメラン使いか?」

「何言ってんだ…?」

「というか何故私が女子高校生だと分かった。」

「いや制服着てるじゃん。なにアホの子なの?」


車から出てきたのは見た目20歳くらい、身長はたぶん175cmくらいのすらっとした佇まいの男である。

むー…スタイルは完璧なのだが、顔が少しアレだな。上の中。一歩及ばず。

しかしまあイケメンである。


「私に向かってアホの子とは、なかなか生意気だな。」

「…大人に向かってそのわけわからん口調のお前にだけは言われたくないですけども。」


それもそうか。


「で、なんで俺止められたわけ。」


男は心底不思議そうな顔で私に問いかけてくる。


「ああ、少し頼みたいことがあってね。」


スクランブル交差点で人生を終えるなんて呆気ないことはしたくないので、どこか最後に相応しい場所を探そう。という考えがこの男の車を見た瞬間に思い浮かんだので、とりあえず頼み込んでみよう。


「…まあ、聞くだけ聞いてやろう。」


お?この男なんかチョロそうだな。


「乗せてけ。車に。」

「…いいだろう、乗ってけ。」

「へ?…あっ、いいの?」


予想外の返答に少し幼い声が出てしまう。

なんかこう流れ的に渋るかと思った。なんて言おうかまで考えてたと言うのに、潰されたな。


「いやなに、死ぬ時も1人ってのは、悲しいもんだろ。流石に。」


死ぬ時"も"…か。


「いや私ずっと乗せろとは言ってないが。」


確かに最後までひっついてやろうとは思っていたが、言葉には出していない。

さもお前の勘違いだと言うふうに返す。面白そうだから。


「…」


心なしか男の顔が赤くなった気がする。


「ふふ、可愛いなお前。冗談だよ、最後までひっついてくつもりさ。」

「…あんま揶揄わないでくれ、慣れてない。というか、男の俺で大丈夫か?死ぬ前に知らない男に襲われて〜なんてことになったら目も当てられないと思うんだが。」


なるほど、受け入れた後に聞いてくる、そうきたか。


「人を見る目には多少自信がある。それに、大丈夫だとは思うが仮に襲われてもそれはそれで一興さ。私はヴァージンだから、興味はある。」

「…うーむ、なんとも返答しずらい…まあそう言うことならいい、のか。とりあえず車に乗れ、走りながら色々話そう。」

「それもそうだな。」


男が運転席に乗り込み、私も助手席に座る。


「じゃあ、お互いに自己紹介と行こうじゃないか。」


まだ名前も聞いていないからな。


「まずは私から。私は柳風香、16歳の美少女JKだ。」


恥ずかしげもなくそう言う。


「いや確かに美少女だが、自分で言うなよ…」

「いいだろうこれくらい。どうせすぐ死ぬんだ。」

「たいして関係ないだろうが。」

「うるさいうるさい。細かい男は嫌われるぞ、私に。」


これから死ぬから関係ない、と言う言葉見越して「私に。」と付け加える高等テクニック。最強だな私は。


「…はぁ。俺は神崎夕陽(かんざきゆうひ)だ。年は22、普通の会社員。」

「そうか、よろしく頼むぞ、神崎。」

「ああ、こちらこそよろしく、柳。」


神崎夕陽か。なんだか少し女の子っぽいな。名前だけ聞いたら間違えそうだ。


「ふふふ。」

「何突然笑ってんだ。」

「いいや、なんでもないとも。」


女の子みたいな名前だ、なんてこと聞いても嬉しくは思わないだろう。



さて、車が動き始めたわけだが。


「どこか行きたいところがあるんだろう?どこだ、言ってみろ。」


神崎が聞いてくる。

ああ、私がなんの迷いもなく頼み込んだから少し勘違いしているのだろう。


「いや、特に行きたい所があるわけじゃないんだが。」

「なんだ、そうなのか?」

「ん。強いて言うなら私が死ねのに相応しい場所を探そうかと。神崎を使って。」

「あー…なるほど。まあスクランブル交差点で死ぬのは嫌だよな。…それにしても失礼なやつだな。」

「そんなことはどうでもいいだろう。」

「…」

「で、心当たりとかはないのか?」

「図々しいことこの上ないな。

まあ、ないことはない。期待に添えるかはわからんが。」

「お、あるのか。それでも私が自分で探すよりかは幾分かマシだろうさ。」


楽しみにしておくとしようじゃないか。


「さて、これで死ぬ前にそこに行くことは確定したわけだが。」

「そうだな。」

「まさか今から6時間以上そこに居るわけじゃないだろう?」


あ、確かに。完全に失念していた。


「ってわけだから、どこか遊びに行こうじゃないか。デートだデート。」

「おお!デートか、そりゃいい響きだ。」


まさか人生初デートが人生最終日になるとは思いもしなかったが、体験できるだけいいだろう。


「しかし神崎、今働いてる人なんていないだろうし、どこに行くんだ。」

「…そういえばそうだった。」


適当に思いついたのを置いてあったメモ用紙に綴っていく。


『カラオケ、遊園地、公園、水族館、映画、家、ショッピングモール』


「デートといえばこの辺だな。」


そう言うと、神崎が顔を横に向けてメモ用紙を見る。


「運転には気をつけるんだぞ。」


最期が事故なんて洒落にならないのですぐに注意を促す。


「声をかけたのお前だろ。てか他の車もいねぇんだ、よっぽどのことがないと事故らんさ。」

「む、それもそうか。」

「で、行き先は————このあたりかね。」


神崎の言葉通り候補を絞っていく。

残った候補は…


『カラオケ、公園、水族館、家』


の4つ。


「俺の家はほんとに寝具くらいしかないから行く価値ないが、お前の家はどうなの。」

「同じようなものだ。」

「んじゃあ家はやめとくか。」


と、なるとあと3つの候補なわけだが。


「最期の場所に行くまであと6時間はあるんだ。折角だし全部行こうぜ。」

「確かに、無理に選ぶ必要はないな。」

「どの順番で行く?」

「そうだな…じゃあカラオケ、水族館、公園の順でどうだろう。」

「わかった、そうしようか。」



さて着きましたカラオケ店。


「お邪魔しまーす。」

「お邪魔しまーす。」


神崎が私の声に続く。


やはりなんの声も返ってこない。


「いやあなんかワクワクするなこれ。」

「神崎もか。同感だ。」


デカイ個室は広すぎるので2階の小さな個室に2人で入る。


「あ、テレビついてないな。」

「というか神崎、これカラオケできるのか?」

「んー…まあなんとかなるんじゃね?とりあえずテレビつけてみよう。」


神崎がテレビの後ろに付いている電源ボタンを押すとテレビが光を出し始める。


「っと、ほらみろやっぱりできただろう。」


ついたテレビは見慣れたカラオケの画面だった。


「柳はDAM派か?JOYSOUND派か?」

「DAM一択だろう。JOYSOUNDは何が楽しいんだ?」


カラオケには基本1人で行く私にはみんなでワイワイする必要なんてない。精密な採点でこそ楽しいものだ。


「言い過ぎだろうに。まあ俺もDAM派だが。」


神崎が曲を選ぶためにタブレットを手に取る。


「あ、先に歌わせてもらうぞ。一回交代な。」

「いいだろう。折角だから店を出るまでの最高得点でも競おうじゃないか。」

「ほう、この俺に挑もうと言うのか。愚かなものよ。」


そんなことを言いながら神崎が入れた曲は最近の動画投稿アプリで流行ったらしい恋愛ソングだ。


最高音と最低音の範囲がかなり広くテンポも早めで、難しい曲として取り上げられることも少なくない曲だが、果たして上手く歌えるのか?


「〜〜♪」


あ、上手い。歌い始めからわかった。

安定感のある歌声で、高音になってもブレることがなく、さらにはフェイク(歌の技術)のアレンジまで入れてくる始末。


点数は…


「97点!どうよ。越せるか?」

「くっ、なかなかやるようだが…その程度では私に勝つことはできんぞ!」


私が入れた曲はかなーり前に流行った俺たちが流れる汗をそのままにして走る曲だ。


「くっ…ふっ…っ…ははは!無理だ、堪えられねぇ。なんだよその曲選、今時の女子高生ってのは皆んなそうなのか?ははは!」


曲が流れ始めた途端に神崎が笑い出す。


「いや知らんが。というか何が面白い。」

「いやお前…くっ…ははは!」

「むぅ…まあいいが、前走が終わるまでには収めてくれよ?」


釣られて笑ってしまうではないか。


「〜〜♪」

「えっ、上手い…くふふ…」


こいつめ…邪魔しおって。



「98点、どうやら私の方が一枚上手だったようだな。」

「はははは!ひーっひっひ、無理だ、なんでそんな上手いんだよお前その曲で!やめてくれ俺の腹筋を壊すのは。」

「何がそんなに面白いんだお前は!褒めてるのか貶してるのかわからんわ!」

「いや誰が見ても面白いだろ!笑うわ!」

「くっそ、不快なやつだ。ほらお前の番だぞ早く歌え!」


そんなこんなで楽しくカラオケの時間が過ぎていった。


2時間後。


「よーし、そろそろ終わりにするか。最後に何かデュエット曲でも歌おうぜ。」

「デュエット曲か…これなんか歌えるか?」

「おう、もちろん。ハモリまでいけるぜ。」

「お、私もだ。じゃあ入れるぞ。」


最後にデュエット曲で入れたのはいつまでもいつまでも続いてほしいと願う恋愛ソングだ。

ちょっと前にすごい人気が出てたな。




曲も終わりが近づき、今まさにラスサビに突入する所だ。


「「〜〜♬」」


ああ、楽しいなあ。人とカラオケなんて初めてだったが、こんなことなら学校の人でも誘ってみるべきだった。


いや…こいつだから楽しいのかもしれないな。なんて。


明日会うことがないと考えると、多少惜しくなってしまう。


と、曲が終わってしまったな。


「ふぅ、かなりうまく歌えたんじゃないか、俺もお前も。」

「そうだな、さあいったい何点か。」


少しドキドキしながら画面を食い入るように見る私たち。

現れた点数は…


『100点』


「神崎!」「柳!」


パシン!


私たちの手が軽快な音をを鳴らす。

今日一番、いや今までで一番いい点数を出したので、思わずハイタッチ。

この様子を見るに、神崎も100点は初めてだったのではないだろうか。


ちなみに勝負は途中で神崎が98点を出したので引き分けである。


「さて、少し名残惜しいが次は水族館館だな。出るぞ柳。」

「ああ。」


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