第68話 桃子の決断
桃子の脳裏には以前、家光と交わした言葉が過っていた。
幕府体制の見直しや参勤交代、日光東照宮の造替などそれらの施策に一役買った事もあり、政の話になると桃子は頻繁に呼び出されるようになった。
「外国との関係を断ち切る事にする」
「それはやめた方がいい」
「え」
「……え」
桃子は間髪入れずにいった。あまりの早さに家光は耳を疑った。この時、桃子自身も家光の反応に耳を疑ったのである。
「え、だって、ぐろーばるかだよ?たしゅたようせいのそんちょーだよ?時代に合わんて」
恐らく小中高と歴史の授業にある程度取り組んでいた者ならば、鎖国であるな、と察する事が出来るであろう。しかし、桃子の頭に鎖国という文字は浮かばなかった。大名行列、参勤交代を記憶していたのは、よっぽど印象的であったのだろう。奇跡的であった。
はて、なぜ桃子がこんなにもビジネス用語を連ねたかというと、桃子が生きた街、新宿はダイバーシティ化の進んだ街である。外国との関係を断ち切る考えなど想像もつかないのである。
しかし桃子、ふと頭にある人物が想起した。汽笛の音ともに現れたその人物は——
「あ、ペリー。えっ待って。もしオープンワールドスタイルでいくと、ペリー黒船来航がなくなって…桃のせいでペリー生まれないって事になる!?やばくない!?」
ここで一つ、生まれない事はない、と正しておこう。
「てか、まって。ペリー黒船来航って何で来たん?旅行?」
桃子よ、歴史の勉強は人物と出来事が合致していなければ、何の点数にもならんぞ。桃子は頭を抱えた。そして改めて歴史の授業を学び直したい気持ちに駆られた。
「やばい。どっち?外国と関係断ち切るのが正解?オープンスタイルが正解?」
桃子は悩みすぎた結果、視界が霞んでいき、意識を失った。
「こんなことがありまして…」
全てを話し終えると、桃子は苦笑した。これまで桃子の偶然の閃きは家光が目指す幕政を形作る手助けとなっていたが、いよいよ衝突の原因となってしまったのだ。
「まあ、こういうきっかけを踏まえて考えたんだけどさ、人っていつかは成長して離れていくものなんだよ」
妙に桃子の言葉が意味深に感ぜられるのは彼女が実際に身をもって経験し得たものだからか、と福は瞳を閉ざし大人しく傾聴した。
「桃にしては凄い考えた。考えすぎて頭パンクしたからヤニ入れるかって思ったけど、もう切らしてるし、仕方なしに金平糖食べたんだけど、あれ糖分だから頭働くしみたいな」
福はひたすらに耳を傾ける。
「んで、桃がこの時代に転生したわけって別に偶然なんだよ。偶然の結果、こうしてまた推しの為に必死になって、確かに幸せだった。物凄い満たされた」
けど、と桃子は口籠る。桃子の頭には、レンが運転する車に轢かれた日の光景が過っていた。
「桃ね、レンくんの車に轢かれた時、実はもうホスト行くの辞めようとしてたの」
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