第1章 第20話

私が小学校二年生になって、拓哉君は小学校六年生になった。


「あの人カッコいい……。」


そう噂されるくらい、拓哉君は相変わらずだった。


「ねぇ、アナタ、佐藤君のイトコなんでしょう?」


そう言われる事が増えた。

拓哉君が『俺がイトコを妹のように可愛がって何が悪い?』みたいな事を言ってくれているせいか、私が拓哉君と話してても誰も何も言わない。


「佐藤君に渡してくれる?」


なんて頼まれる事も増えた。

自分で渡したら?って言いたい。

でも言ったら面倒くさそうだから、


「いいよ。」


そう言う事にした。

渡すのを口実に拓哉君のクラスに行くと、


「拓哉、イトコ来たぞ!」


なんて言われる。

でもね、イトコイトコって言われて、誰も私を名前で呼ばない。

佐藤さんとか呼んでくれない?って思う。

私の名前はイトコじゃないもん。

そういう事も言えない。


「お……お腹痛い……。」


何で?

どうして?

そういう気持ちが増えたら、お腹が痛くなるようになってた。


「沙希ちゃん、またお腹痛いの?」


「うん。」


遥ちゃんが心配してくれる。

仮病じゃない。

でも病院でも悪い所が無くて、ストレスのせいでしょうって言われた。

保健室で寝てる事も増えた。


「沙希ちゃん!」


拓哉君がたまに保健室に走って来る。

ハァハァしてるから、急がなくていいのにって思う。


「沙希ちゃん、ストレスでお腹痛いって本当?」


「分からない。」


「そっか。

俺のせい?」


「え?」


「俺のイトコだからって、頼まれたり言われる事も多いでしょう?」


「多いけど……。」


「頼んだり言わないでって、皆に言おうか?」


「ううん、言わなくていいよ。」


「え?」


「それ、私が拓哉君に言ったみたいで嫌だもん。」


「そうか。

でも俺、心配だよ。」


「ごめん、心配させて。」


「ううん、俺はいいんだよ。」


「拓哉君がそんなふうに優しいから皆が好きになっちゃうんだよ。」


「え?」


「いい事なんだけど、カッコ良すぎ。」


「えっと……。

何て言えばいいか分からないや。」


拓哉君が困っているような表情をしている。


「沙希ちゃん、本当に俺は何もしなくていい?」


「うん。

でも……。」


「でも?」


「私の事、嫌いにならないで。」


「え?

嫌いになるわけないじゃん?」


「そうなんだ?」


嫌いになるわけないって一言で、お腹の痛みがスーッと消えた。

拓哉君は魔法使い?って思った。



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