第1章 第8話

生まれて初めてのホワイトデー。


「沙希、これどうぞ。」


ホワイトデーとは知らずに、パパに欲しかった犬のヌイグルミを貰った。


「ありがとう!」


何で貰えるか分からなくても貰う。

だってパパからだもん。


「沙希、良かったじゃん!」


「うん!」


ママが嬉しそうに言う。

私も嬉しい!


「ねぇ、沙希、今日は何の日?」


「え?」


「ホワイトデーだよ。」


「ん?」


「バレンタインのお返しする日。」


「お返し?」


「お礼とか返事だっけ?」


「ん?」


「まぁいいか。

パパがチョコくれて嬉しかったよって気持ちで選んでくれたヌイグルミだよ。

どうする?」


「うーん。

大事?」


「そう。

大事だよ。

振り回すとかダメだよ?」


「うん、分かってる!」


私はヌイグルミをよく振り回してた。

ママがダメって言うけど、無意識の内に。

でも大事だから優しくする。


「あれ?

誰か来た?」


家の前に車が止まったみたい。


「あれ?

お義兄さん?」


ママが玄関に行った。


「こんにちは!」


おじちゃんの声がする。

おじちゃん、何しに来たんだろう。


「どうぞ、散らかっているけど。」


「お邪魔します。」


おじちゃん、家の中に入って来るみたい。


「沙希ちゃん!」


「え?」


私を呼んだのは、おじちゃんじゃない。


「た……拓哉君……。」


「そのヌイグルミ可愛いね。」


「うん!」


好きな物をほめられると嬉しい。


「沙希ちゃん、この前チョコありがとう。」


「うん!」


「これ、俺からだよ。」


「え?」


「ホワイトデーだからね。」


「あ……ありがとう。」


拓哉君がお菓子をくれた。


「沙希ちゃん、おじちゃんからも。」


「え?」


「この前、ありがとうね!」


「うん、ありがとう!」


おじちゃんもお菓子をくれた。

お菓子もヌイグルミも大事。


「パパ、沙希ちゃんと遊んでから帰っていい?」


拓哉君がそう言った。


「うん、いいよ。

今日は家に誰もいないから。」


おじちゃんが笑いながら言った。


「あれ?

嫁も娘もいないの?」


「うん。

コンサートに行ってる。

アイドルの。」


「え?

アイドル?」


「そうそう、K-POPとかいうヤツ?

俺、よく分からないや。」


「そっか。

俺も分からない。

そんで、メシどうするの?」


「買って帰るよ。」


「それなら、うちで食べて行けば?」


おじちゃんとパパが話してる。


「ねぇ、沙希ちゃん。」


「ん?」


「俺、ここでご飯食べるっぽい。」


「え?」


「一緒にご飯だよ。

楽しみだね!」


「うん!」


拓哉君は私の顔に付いたご飯粒を取ってくれる。

可愛いなって言いながら。

その時の拓哉君、いつもよりカッコいい!







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