第41話 “毎日がドラマティックな女”
「あれあれ、暁兄妹じゃん。奇遇だね?」
「こんにちは。先輩方」
日向ちゃんが軽く頭を下げながら、椅子に腰を下ろす。服装の通り運動の後なのかほんのりと火照った顔で、額に汗の珠を浮かべていた。
「なになに?ジョギングでもしてたの?」
「それよりは激しいやつだな」
多分、趣味だと言っていたパルクールをしてたんだろうと思う。まあ、2人の裏の顔を知る私としては、街中の障害物やオブジェクトを飛び越えながら走り抜けるパルクールというスポーツは戦闘訓練の一環なのではと思ってしまうのだが。
多分弾幕とかを避ける想像をしながら走っているんじゃないだろうか。
「……あ」
そこで、鳴衣が合点がいったという顔をした。
「なるほど。来宵が感じてた気配は暁くんたちだったと」
「ああそっかぁ。“覚えのある気配”って言ってたし」
「……なんの話だ?」
暁兄妹はきょとんとして顔を見合せた。彼らはこっちの事情など知らないだろうし、無理もない。
「いや、ええと……実はさっきから私がなんかショッピング中に知り合いのいるっぽい気配を感じててさ。その正体が今やっと判明したというか」
「じゃあ私たち。ニアミスしてたんですね。気付きませんでしたよ……」
「俺もまったく」
そう答えながら、暁兄妹が通りかかった店員さんに料理を注文する。2人はドリアを頼んだらしい。半熟卵とソースが見事にマッチしていてとても美味しいしコスパも最高にいい料理だった。
「私もめいめいもぜーんぜん気付かなくてさあ……こよいっちの事件察知レーダーの感度の高さが改めてよく分かったよね」
「事件察知レーダー……なんだかものものしいな……」
そういえば、暁兄妹には私の“体質”の話ってしてなかったっけ……?いい機会だから、ここで伝えてしまおうか。
「うーんと、私ね。どうも巻き込まれ体質みたいでさ……いやまあ、正直そんなレベルじゃないんだけども」
「こよいっちが一歩外に出ただけで大なり小なり何かしら事件のフラグが立つからねぇ……おかげでついたあだ名が“毎日がドラマティックな女”ですよ」
「いや付けたの綺沙良でしょうが。これ以上ないくらい的確なあだ名だよほんとに……」
「毎日がドラマティック……だからこそあれだけの武勇伝が……」
「ちょっ」
暁くんの口からなんか聞き捨てならない単語が聞こえたが、タイミング悪く料理が届いて会話が中断される。パスタの芳香がテーブルに広がる。
「おお、来た来た。じゃあいっただきまーす」
「いただきます」
ああ!せっかく届いたというのに武勇伝とやらの内訳が気になって料理に集中出来ない!たらこと卵とミートソースの混じったいい匂いが鼻と食欲に襲いかかってくるぅ!!
「……………………で、いったいどういう話を聞いたの」
なんとか食欲には勝った。
「待て階。まずはそのフォークを握ったまま激しく震えてる右手を止めるんだ。聞くだけなら食べながらでもできるから」
負けた。
「一応特に変な話は聞いていないはずだ。バスジャック事件とか、女子運動部の最終兵器として扱われてるとか……」
「文化祭で階段から落ちた男の子をスライディングキャッチした話とか。いじめの現場に出くわして加害者集団を全員ノックアウトしたなんて話も聞きましたよ?先輩カッコいいです」
ちょっと待とうか日向ちゃん。
「いや日向ちゃんが聞いた話滅茶苦茶盛られてるんだけど!?男の子はちょっとつまづいたところを支えてあげただけだし、いじめ集団も穏便におはなしで済ませただけなんだけど!」
「うんうん、おはなしかっこ物理だねもぐもぐ」
「いや綺沙良はあの時いっしょにいたでしょうが……!!」
「エーソーダッタカナー?」
わざとらしく目を反らす綺沙良。というか、いじめ集団に関してはどちらかというと綺沙良が現場を写真に収めたことがトドメになったので彼女の武勇伝に数えるべきだと思う。ちなみに鳴衣はその隣で必死に笑いを堪えているらしく、フォークを握りながらうつむき気味にぷるぷるしていた。
「そうですか……こういうのってホントに尾ひれが付くものなんですね」
「だから陰でどんな風に言われてるのかと考えると気が気じゃないんだよね……」
一応私は自分を一般女子高生の域はまだ出てないと思っているので……なんでも出来る超人みたいに思われると肝心な場面で困りそうだ。階段の上から落ちて来た男の子をタイミング良くスライディングキャッチとか、上手く出来る気がしないし。
毎日を私の意思に関係なくドラマティックにするこの体質……つくづく厄介だと、私は改めて思った。
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