予定
「ショッピングモールに行きましょう!」
それはとある日の夜、すっかり恒例になりつつある夜の通話で彩香が言い放った。
「ショッピングモールって、そんなの近くにあったか?」
新崎って風貌だけじゃ無くて、声とか言葉遣いもヤンキーっぽいんだよな。
これで、ヤンキーじゃないって無理があるだろ。
「電車で15分くらいの所にあるのよ、みんな一回は言ったことあると思うけど、知らないの?」
「ああ、あのバカでかい建物の事か、確かにあそこは何でもあるな」
新崎の言う通り、あそこには何でもある。
高校生が遊ぶには、もってこいの施設だろう。
ただ一つ、デメリットがあるとするのなら。
私のいた中学から近いという事。
中学の時の知り合いには、できるのなら会いたくない。
だから、知り合いがいない高校を選んだんだ。
顔も見たくないと思う奴もいる。
「僕も中学の時は良く行ってたよ、あそこの中にね、すごく美味しいパンケーキのお店があるんだよ!」
凄いテンションが上がってる。
涼って、趣味は女よりなのかなと思う時がある。
「涼ちゃんって、パンケーキ好きなの?」
「美味しいからね、良く友達と食べに行ったよ」
「因みに、その友達ってのは男? それとも女?」
「女の子だけど」
「涼ちゃんって、けっこうモテる?」
「男にはまあまあモテるんだけどね、女子には友達としか見られないというか」
言って、自虐的に涼は笑う。
「そ、それは、何というか、ごめんなさい」
「別に、早川さんが謝る事じゃないよ、僕が可愛すぎるのがいけない訳で」
「ま、まあ、とりあえず、明日みんなでそこに行きたいなって思って」
「そりゃまた急だな、俺は暇だから良いけど」
「私も暇」
というか、この三人以外友達いないし、家族も忙しくて帰ってこないし。
本当に暇だな、提出しなきゃいけない課題も全部終わらせちゃったし。
「僕も特に予定はないよ」
「じゃあ決まりね!」
休日に友達と遊ぶなんて、いつぶりだろうか。
素直に、楽しみだと私は思う。
「じゃ、何時に集合する? 場合によっちゃ昼ごはんとかも必要になるし」
「私としては、午後に集合して夜ご飯を食べてから帰りたいんだけど」
「僕はそれで良いよ、夜ご飯は家で食べてもどうせ一人だし」
「それを言うなら俺もだな」
「私も、それで良いよ」
たまには、大勢で食べる夜ご飯ってのも良いだろう。
しかも友達と、絶対楽しい。
「じゃあ、昼の二時くらいに駅集合で良い?」
「集合も何も、俺たち同じマンションなんだから一緒に行けば良くね」
「あ、そういえばそうだった」
正直、未だに同じマンションのしかも同じ階にこの四人が住んでいるという、実感がない。
「じゃ、二時に下のロビーに集合で良いんじゃね?」
「あんたにまとめられるのは、なんか腹が立つわね」
「うるせーよ! いつもお前が仕切ってんだからたまには譲れよ!」
「かと言って、あんたに任せてたくはないわ!」
始まった。
この二人は、喧嘩するほど仲が良いって言葉の由来なんじゃないかと思うほどに、この言葉が似合っている。
まあ、それを本人たちに言ったら全力で否定してくるんだけど。
「はいはい、夫婦喧嘩は通話を切ってからやってくださーい」
「「誰が夫婦だ!」」
「わお、息ぴったりだねー」
そして、それをイジる涼。
心なしか、いつもよりイキイキしているように感じる。
「と、とにかく、明日は二時に集合ね! 分かった?」
「了解」
「分かったよ」
「楽しみにしてるよー」
と、まあ、明日の予定が決まった訳だけど。
きっと、凄い楽しい一日になるだろうと、私は思う。
だからこそ、あの時のことを思い出してしまう。
大丈夫、大丈夫と心に言い聞かせる。
安心しろ、橘春樹。
お前は、一度した失敗は二度もしない奴だろ。
通話が切れたスマホをじっと見つめる。
黒い画面に写った自分の顔は、とても曇っているように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます