第11話 けじめ

職場に復帰した私は、すぐに上司に異動願いを提出した。

業務上の過失では無いとは言え、自らの迂闊な行動で、自分のみならず後輩の身をも危険に晒し、会社に多大な迷惑をかけた事に変わりはない。

これは、私なりのけじめだ。

それに、このチームならば、私がいなくても、何の心配も無い。

彼が復帰するまでの間、チームのメンバーも踏ん張ってくれるだろう。

あとは、復帰した彼がチームリーダーを担えば問題ない。

ほどなく私の希望が通り、職場復帰から2週間後、私は近くの支社へ異動となった。


異動後の部署では、積極的にコミュニケーションを取るようにしたためか、すぐに馴染む事ができた。

もし、以前のまま、仕事とプライベートをきっちり分けているような事をしていたら、おそらくこんなにすぐ馴染む事はできなかっただろう。

新しい仕事を覚える事は大変ではあったが、仕事自体は順調にこなしていた。


そんなある日の、お昼休みの少し前。


「澄香さんっ!なんでですかっ!」


聞き覚えのある騒々しい声と共に、真鍋君が私のいる部署に駆け込んできた。


「ちょっと、真鍋君っ・・・・」

「澄香さんは何も悪くないんですっ、なのになんでっ・・・・」

「いいから落ち着いて!」

「落ち着いてなんかいられませんよっ!」


気を利かせた周りのメンバーの『お昼、早めにどうぞ』の言葉に甘え、私は真鍋君を引きずるようにして、会社の外に出た。


「復帰はいつから?」

「・・・・明日」


近くの定食屋に入り、日替わり定食を2つ注文する。

思えば、真鍋君と2人でご飯を食べるのは、初めてかもしれない。


「今日はなんで?」

「挨拶ですよ」


ぶっきらぼうに答える真鍋君は、完全に拗ねている様子。


「何で教えてくれなかったんですかっ!しかも、みんなして俺に黙ってるなんてっ!」

「私がみんなにお願いしたのよ」

「なんでっ!」

「だってあなた、知ったら病院から抜け出してきちゃいそうだから」

「・・・・確かに。でもっ!」

「ほら、食べましょ」


ちょうど運ばれてきた日替わり定食は、唐揚げが5つ付いたボーリューミーな定食。


「唐揚げ二個あげるから。機嫌直して」

「子供扱いしないでください」


構わず私は、唐揚げをふたつ、真鍋君のお皿に移動する。


「せっかくまた、澄香さんと一緒に仕事できると思ったのに・・・・」


口をとがらせる真鍋君に、私は言った。


「真鍋君、知ってる?うちの会社って、同一部署内での恋愛はご法度なのよ」

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