青藍の鍵
メノウユキ
ようこそ、書斎の鍵へ
プロローグ
神秘とはいったい何だろうか。辞書を引いて調べると〈人知では推し測れない理論的認識を超えた言いようのない事柄〉と書かれている。ネットなどを調べても似たようなことが書かれていた。
人はその神秘を追い続け、それをロマンという者もいるだろう。わからないからこそ、美しいものがあると。知らないからこそ、知ることが楽しいのだと。
だが私は違うと思う。神秘なんてものは酷く残酷で、醜い。求めてもいない 力があるなんてことは、不便以外のなにものでもない。空を求めて羽ばたいても、太陽に焼かれて死ぬという現実を知ってしまえば誰も飛び立たなくなる。それと同じだ。
そう文句を言っている私は、他の人間とは違う特異な体質を持っている。それは瞳。私の生まれ育った地域では瞳の色は茶色か黒が普通だった。だが、私の瞳の色は青かった。それだけなら、まだカラーコンタクトをつけるとか対処法はあったが、私の目にはほかの人には見えないはずのものが映るらしい。
どういったものが映るのか? と問われるとわからないとしか答えられない。参考になる資料も、確かめようとする好奇心も、頼りにできる人間もいないのだから。だから私は瞳に映る見えないはずのものに恐怖して震える日々を過ごすしかなかった。あの日までは……。
◇
静まり返った夜に複数の声が響く。
「おい! そっちに逃げたぞ!」
「追え! 絶対に逃がすな!」
怒声が聞こえる。半日前の自分は考えもしなかっただろう。
「はぁ……はぁ……あ!」
不意に地面が目の前に現れ、直後全身に鈍い痛みを感じた。街灯の少ない場所を走っていたため、石に引っかかって転んだのかもしれない。
「なんで……?」
悔しさと悲しさが混じり、黒い何かが自分の中にあるのを感じた 。だが、今は感情的になっている場合ではない。
急いで立ち上がり、逃げるために暗い裏道を見る。
男たちはすぐそこまで近づいていた。
「い、いや」
「いたぞ! こっちだ!」
足を止めれば死ぬ、振り返れば死ぬ。そんな恐怖が私の思考を埋めていく。
足が痛い、でも走らなきゃ。死にたくない。
もう嫌だ。どうしていつも……なんでこんなことになったの?
目から熱いものが零れ落ちる。ずっと我慢していたものが、ついに流れ出てしまった。
嫌だ! 絶対に嫌だ! よくわからないまま終わるなんて考えたくない!
呼吸が乱れても、横腹が痛くても、足がもつれそうに走り続ける。
「なぁ、そろそろ捕まえようぜ? できるだけ無傷で捕まえろって言ってたしよぉ」
「そうだな、門番に目を付けられると厄介だ」
彼らはそう言うと、逃げ道をふさぐようにじりじりと近づいてきた。
方向転換して走っても、動きを読んでいるかのように次々と道の角から出てくる。やがて逃げ道を失い、囲まれてしまった。
「あ……あぁ……」
逃げ道を失い、私は地面にへたり込む。
どうしよう、どうしよう……どうしようどうしようどうしよう!
もう逃げ場がない、もう……動けない。
男たちの一人が大きめの麻袋を片手に持っていた。あれに詰め込まれたらもうおしまいだ。
私が……私だけでどうにかしなくちゃ……どうにか……。
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