こいつは、今日もオレの足の間に座る。
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
足の間に入るな!
「おい、どけって」
「なによぉ」
「頭、邪魔。見えないだろ?」
「いいじゃん」
今日も、クラスで隣の席にいるアサギが、オレの足の間で三角座りをする。
コントローラーを片手に。
ゲームをしていると、いつもこうだ。
これが、いつものゲームスタイルとなっている。
「いえーい、一勝!」
「くっそ、コース見えねえし!」
カードゲームで遅れを取り、オレは悔しくなる。
「さて、ジュースを持ってきたまえ」
「ちぇー」
負けたらなにか作業をする。
それがオレたちのルールになっていた。
どうして、オレたちが二人でゲームをするようになったかは、わからない。
屋上で、ケータイゲームをしていたときである。
急に、アサギがオレの足に割り込んできたのだ。
唐突だった。
こいつとは、席がが隣同士という間柄でしかない。
しかし、アサギも同じゲーム機を出してきて、ようやく謎が解ける。
「あー、そのパーティゲー、オレも持ってるわ。対戦したいんだな?」
「わかった?」
いたずらっぽく、アサギが笑う。
「あたし、一人っ子でさ。家でもゲームしてくれる人がいないんだよね」
その一言で、こいつ「も」ぼっちなんだとわかった。
「じゃ、オレんち来るか? 遅くまで誰もいないから」
「マジ? 口説いてんの?」
「ちーがうっての。遊びてえんだろ?」
「うん」
無邪気に、アサギはうなずく。
「ここだと、じきに熱くもなるし寒くもなるぞ。雨降ったら最悪」
「だな。じゃあ、お菓子とか持っていけばいいかな?」
「助かる。でもムリすんな。ゲームをつまみにゲームすりゃいいじゃん」
で、今の関係になった。
「けどさ、なんでお前、オレに背中を預けながらゲームするん?」
隣同士でもいい。ケータイゲームだったら、普通は向かい合わせだろう。
「だって、向かい合わせだったらさ、体温感じ取れないじゃん」
「おま……」
そんな顔で見つめられたら……。
「あ、今めっちゃドキってしただろ?」
「してねーし」
「してたしてたー。めっちゃ跳ねたもん」
顔だけこちらに向けながら、アサギが茶化してくる。
「違うっての。ほら、オレが勝ったぞ」
「あー。ごほうびなににしよっかなー」
コントローラーごと、アサギが肩を落とす。
「なにがいい?」
上目遣いで、アサギが全体重をオレに預けてきた。
「なに、跳ね上がらせてんのさ?」
そんな顔で見つめてくるからだろうが。わかってるクセに。
「ゲームくらいで捧げるほど、あたしの唇は安くないからな」
「期待なんてしてませんーっ」
「じゃあ、なにがほしい?」
オレは、外を見た。
もう夕焼けが差している。
「また、明日も来いよ。毎回楽しみなんだからよ」
今度は、アサギのほうが跳ね上がるのを感じた。
こいつは、今日もオレの足の間に座る。 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます