学園の女神はイイコ、だけど僕の前だけではメンヘラだった件
白夜黒兎
第1話 学園の女神様
『学園に女神みたいな子が居る。』
一度は皆、聞いたことがあるのではないだろうか。誰にでも分け隔てなく接し、困ってる人をほっとけない良い子。成績優秀で先生からの信頼も厚い優等生。男女問わず人気者で、だけど色恋沙汰をあまり聞かない高嶺の花…。少なくとも俺のクラスにはそれにぴったり当て嵌まる女子が居た。
―
上記にあげた通り彼女は、誰に対しても分け隔てなく接し、子供だろうがお年寄りだろうが困っていたらすぐに手を差し伸べ、いつも学年トップの優等生で先生からの信頼も寄せて、女子にいつも頼られて男子からも好意を寄せられてるにも関わらず恋人が居るという話を一切聞いたことがない高嶺の花。ポニーテールが揺れてたまに項が見えるとこはいつ見てもグッとくる。面倒事も卒なくこなし、クラス委員も自分から立候補した。自分からあまり話すタイプではないが彼女の笑い声は鈴の音の様な優しさがあった。彼女とは挨拶ぐらいしか直接会話を交えたことはないがいつも周りに隠れて目立たない俺にも皆と同じ様に優しい。帰りもしょっちゅう話し掛けてくれるし、もしかして俺の事好きなんじゃね?なんて数え切れない程思い込んでそして虚しさに沈んだ。
彼女が俺の事を好きなんてそんなのあるわけないのだ。だって彼女は人気者、対して俺、
でも俺と同じ愚かな考えを持った野郎が彼女に告白するのも決して少なくはなかった。その度に玉砕して終わるのだが。きっと彼女のタイプはレベルの高いイケメン俳優に限るのだろう。俺はそれでも良かった。俺の女神がそこらの雑草に取られるよりは断然良い。
でもやっぱ、連絡先くらいは知りたいよな。だけど急に聞いて気持ち悪がられたくもない。
そんな矛盾の狭間で揺れる俺だったが初めて彼女と挨拶以外で話すことに成功したのだ。
それは図書室で俺が一人隅っこでラノベを読んでいる時だった。
「隣、いい?」
「・・・どうぞ」
こんな根暗そうな男の隣に座りたいとは物好きな人も居るもんだ。昼間だから空いてる席は少ないとしてもわざわざ俺の隣に座ってくるとは。でもまぁ、座るだけなら何も問題ないだろう。
俺は小説のページを捲りながら少し間を開けて了承する。すると隣から小さく―ありがと―と声が聞こえてその人が椅子を引いて座るときにふわりと花の優しい香りが鼻を掠めた。俺はなんとなく横が気になってちらりと横を見た。
「っ!?やや、八代さん!?」
俺は横の人物を確認した瞬間、椅子ごと後ろに倒れてしまう。
そうなるのも仕方ないだろう。だって横に居たのは俺の憧れの・・・八代寧那さんだったのだから。
八代さんは俺の方に振り返って人差し指を唇に当てると小さく微笑む。
「す、すみません」
その姿があまりにも美しくて俺は頬が紅潮するのを感じながら謝った。しかし八代さんの視線は既に目の前の小説にあった。
ぺらっ、ぺらっとページを捲る姿でさえ美しい。ただページを捲ってるだけなのになんて絵になる人だろう。
「・・・好きだ」
自然と漏れたその言葉は静けさの放つ此処全体に響く。告るつもりならまだしも告るつもりのないもので振られるのは真っ平ごめんだ。慌てて口を塞ぐけど時は既に遅し。八代さんは驚いた表情でこちらを見つめていた。俺と八代さんは数秒間無言のまま見つめ合う。
「・・・質問。もし私が屋上から飛び降りようとしてたらどうする?」
「はい?」
「・・・答えて。もし私が屋上から死にそうになったら道端君ならどうする?」
八代さんは真剣な眼差しで俺を見つめながら唐突もないことを言ってきた。訳が分からず聞き返してもアンドロイドの様に同じことを呟くだけだった。
八代さんの考えてることは分からないが俺の今の気持ちを言えば気が済むだろうか。
だとしたら俺は・・・。
俺は八代さんの方を真っ直ぐ見て口を開く。
「俺が八代さんを助けます・・・絶対に貴女を死なせません」
・・・クサかっただろうか。八代さんからの反応が得られないことでちょっと不安になる俺だが八代さんは柔らかく笑うと椅子から立ち上がった。
「そっか・・・じゃ、また」
「や、しろ、さん?」
八代さんはポニーテールを靡かせながら図書室を出て行ってしまう。しかし八代さんが居なくなっても尚俺はその場から動くことが出来なかった。俺はぎゅっと胸あたりを押さえてその場で悶える。
・・・八代さんと話せた!!
何あれ、何あれ!可愛すぎんだろ!ちょっと頬を染めて微笑んだりしてさ!あんなんされたら誰だって勘違いしたくなるだろ!
俺は両手で顔を隠して足をバタつかせる。周りの目があるがそんなの知ったこっちゃなかった。どうやら俺は自分が思ってるよりも八代さんに対して拗らせてる様だ。
こうなってしまったら俺、どうすれば良いってんだよ・・・。
♢♢♢
放課後、帰り支度をしてる時に八代さんがふらりと何処かに行くのが見えた。それが気になった俺は八代さんの後を付いて行くことに。
八代さんはどうやら上に用がある様だった。しかし上は確か屋上しかない筈だが・・・。かと思えば八代さんはそのまま屋上へと消えてしまう。嫌な予感がして俺も屋上へと足を運ぶのだがそこで目に入ったのは屋上のフェンスを飛び越えて立っている八代さんだった。
「な、何をやってんだ八代さん!?」
「・・・来てくれたんだ」
八代さんは俺の姿を捉えても微動だにせずにふわりと微笑む。それはまるで俺が此処に来るのを待ち望んでいたかの様な言い回しだった。
「危ないから早くこっちに!」
「私ね?時々どうしても不安になると此処に来たくなるの」
八代さんの方へ手を伸ばすけど八代さんは俺の手をジッと見つめた後、空を見上げながら呟いた。
「・・私なんて必要ないんじゃないかって考えて、泣きたくなる」
「そんなことない、八代さんは必要だよ!クラスの誰よりも人気者で先生の信頼も厚い皆の憧れの的!」
いつもクラスの中心に居る八代さんがどうして不安がる必要があるのか。八代さんが必要ないんだったら俺はどうなるんだよ。俺が近付いただけで周りの人はびくついて挙句の果てには舌打ちするんだぞ。
「そんなことない…皆、本当の私の事なんて愛してくれないもん」
そう言って八代さんは悲しそうに顔を覆う。
「っ、俺はっ!何があっても八代さんを嫌わないよ。八代さんはこんな俺にも親切にしてくれて、華奢で凛としていて声が可愛くて姿勢も美しくて前髪を耳に掛ける姿はいつ見てもグッと来るし、体育で走ってる時に髪が靡く姿が綺麗だ・・・まだまだ八代さんの好きなとこはいっぱいあるんだからな!?」
後半はほぼ勢いでゴリ押した。途中から恥ずかしくなるし、なんか変態っぽいし。だけど八代さんには分かって欲しかったのだ。自分が思ってるよりも君の事を好きな人はたくさん居るんだよって。そんな俺の言葉を聞いた八代さんは目を見開いて、そして・・・・・俺の方へ飛び付いてきた。
「道端君、だったんだね」
「え、?」
「私の、運命の王子様…。ずっと探していたの」
「八代さんは何を言ってるんだ?」
「・・・・・いいよ」
八代さんはぼそぼそと言葉を紡いでいくと俺の方を見てふわりと微笑みながら言った。
「今日から私が道端くん・・・ううん、凪君の彼女になってあげても、いいよ」
そう言って八代さんは再び俺を抱き締める。
―これが俺と八代さんの始まりだった。でも俺はこの時知らなかったのだ。八代さんがどれだけ愛に植えてるメンヘラだということを―
♢♢♢♢♢♢
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