第26話 エドガーside
休日の昼。俺はリリアとデートしていた。まずは昼食だ。この日のために予約をしておいた高級レストランに入った。店員が案内したのは奥の個室だった。ここならリリアと二人でゆっくりできる。
物珍しそうに辺りを見回していたリリアは席に着くと興奮気味に語ってきた。
「エドガー。この前はガーデンパーティーに連れて行ってくれてありがとう。あんなきらびやかな世界があるなんて知らなかった」
「そんなに気に入ったか? また連れて行ってあげるよ」
リリアはあの日のことを思い出したのか、パッと笑顔になるとキラキラした羨望のまなざしで俺を見つめてくる。
かわいいよな。感情が素直に出るってわかりやすくていい。そこにはウソもないだろう。取り澄まして何を考えているかわからないフローラよりずっと好感が持てる。
「わー。ほんと? ありがとう。楽しみー。また行きたーい」
本当に楽しかったんだろう。キャッキャッしているリリアを見ると連れて行ってよかったと自然と俺の顔に笑みがこぼれる。
王妃陛下主催のガーデンパーティーは伯爵以上の選ばれた貴族しか招待されないからな。テンネル侯爵家嫡男の俺が招待されるのは当然のことだ。
リリアは男爵令嬢だから残念ながら招待はされていなかったけど、どうしても連れていきたかった。俺の婚約者はフローラではなくリリアだとみんなに示したかったからだ。
母上にリリアを同伴することを伝えると渋い顔で却下された。
招待客以外の同伴は高位貴族でなければ出席できないこと。もし子爵家、男爵家だった場合は事前に主催者側に許可をもらわなければならないといわれた。それであれば、許可申請をしてほしいと何度もお願いしたが結局やってもらえず。
俺はテンネル侯爵家の嫡男だし、身分を笠に着るわけではないがどうにかなるだろうと思い、内緒で連れて行った。
当日、招待状を見せて隣にいるリリアの身分と俺の婚約者だと伝えるとすぐに通してもらえた。母上が言った許可申請は何だったんだ? 全然問題にならなかったぞ。
これもテンネル家の威光が勝っていたって事かもしれないな。ちょろいもんだった。
少し危ない場面もあったけど、王妃様にリリアのことを正式に紹介したらきちんと認めてくれたし、指輪も誉めてくれた。
あれは一点もので希少価値のある宝石をふんだんに使った輸入品。リリアからは『ひとめぼれ、これ欲しい』とおねだりされたし、これ以上のものは滅多にお目にかかれない代物だと言われて値段も見ずに即決した。俺はテンネル侯爵家の嫡男だし、この程度の買い物くらい許されるだろう。
王妃様もさすが目が高いよな。指輪に気づくなんて。見惚れていたみたいだったし垂涎の品だったんだろうな。どんなに欲しくても一点ものだから手に入らないのが気の毒だけど。
招待客にも見せびらかしたが『さすがテンネル家素晴らしいものお持ちだ』『我々には手の届かない指輪だ』『素晴らしい審美眼をお持ちで』とか散々褒められて気分がよかったしな。俺もよい買い物したよなあ。
カチャカチャ
俺が優越感に浸っていると食器がこすれる音が聞こえた。
リリアがステーキ肉と格闘しているようだ。ナイフとフォークの使い方がぎこちない。元は平民として暮らしていたからかマナーが今一つで身についていない。
男爵家では教育していないのか?
「あん。上手く切れないよー」
愛らしい声が漏れて悪戦苦闘中のリリア、がんばれ。
フォークで肉を押さえてナイフを動かせば切れるはずなのだが、要領が悪いのかどうもうまくいかないらしい。そのうち肉が飛んでいくんじゃないかと見ているこちらも気が気ではない。
しょうがないなあ。
そんな不器用な所も可愛かったりするのだが、俺はまだ手を付けていなかったステーキ肉にナイフを入れて、一口大に切っていく。
切り終わるとリリアの皿と交換した。
「ありがとう。まだナイフとフォークの使い方がわからなくて、エヘッ」
首をかしげて照れ笑いを浮かべたリリアは、俺が切ってやった肉をフォークに突き刺して食べ始めた。
食べ方もあまりきれいだとは言えないけど、おいしそうに食べているからいいか。かわいいしな。
将来は侯爵夫人になるからといっても今から躾けるのもかわいそうだし、結婚してから少しずつマナーを学べばいい。時間はたっぷりあるからそのうち身に着くだろう。
「このあとは、買い物に行かないか? 好きなものを買ってやるよ」
「好きなもの? いいの」
幸せそうに肉を頬張っているリリアが喜々として俺を見上げた。ソースが口についている。まるで小さい子供だな。それはそれで可愛いけど。店を出る前に拭いてやるか。
「ああ、まずは食事をしてからだな」
「うん」
リリアの笑顔を見たら、なんでも叶えてあげたくなるな。
俺はリリアの喜ぶ顔が見たい一心で、どの店に連れて行こうかと頭の中で考えを巡らした。
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