第5話 話し合いの結果Ⅱ

「あのクソガキとの婚約解消なんて、フローラには何のダメージもないぞ」


 えっ……お父様、今、なんとおっしゃいました? えっ?

 私はびっくりして目を見開いてお父様を見てしまいました。


「そうよ。フローラは正々堂々としていればいいのよ。あなたは何も悪いことなんてしてないわ。むしろ、被害者よ。心配しなくても結婚相手は引く手あまたなんだから」


 お母様が励ましてくださいます。


「研究資金だって、家で十分出せるからな。そこも心配しなくてもいい。やりようはいくらでもある」


 お金の心配はしなくてよいのね。お父様の言葉にパッと目の前が明るくなったような気がします。


「それじゃあ、結婚はしなくてもいいんですね」


 色々疲れてしまった私は期待を込めて聞きました。結婚より研究。研究さえできれば何もいりません。


「「……」」


 私の意見に賛成してくれたと思ったら、何なのでしょう? ジッと私を見つめながらの二人しての沈黙は……

 気持ちを理解してくれたと喜んだのに、固まったまま微動だにしないお父様とお母様。何か言って頂かないと不安になります。


「コホン」


 我に返ったらしいお父様の咳払いが聞こえました。


「結婚したくないのか?」


「できれば、今は考えたくありません」


 本音はしたくないのだけれど。正直に言ったらガッカリされそうです。なので言葉を濁しました。これだって本音ですからね。


「そうか、確かに、すぐすぐには無理だな。しばらくはゆっくりしていなさい」


「はい。そうします。ありがとうございます」


 よかった。これからは自由な時間が取れそう。ローナの研究もうまくいきそうだから、気を抜かないように頑張らなくては。晴々とした気持ちで決意を新たにしているとお母様のにこやかな声がしました。


「フローラ、ケーキを食べましょう。人気のケーキ店で買ってきたのよ」


 お母様の言う通り、いつの間にか目の前には紅茶と一緒においしそうなケーキが並んでいます。


「このケーキ、お母様が買ってきたのですか?」


「ええ、そうよ。せっかく外に出たのですもの。帰りに寄って来ようと楽しみにしていたのよ。人気のお店だから朝のうちに予約しておいたの。おかげですぐに買えたわ」


 お母様が翡翠の瞳をキラキラさせながら無邪気に笑っています。


 婚約解消の話し合いに行って、帰りはケーキ店に寄るって心境的にありなのでしょうか? しかも、予約ですか?

 どれだけウキウキしてたんですか。お母様。


 ちょっとした眩暈に襲われた私を横目に、お母様は幸せそうなお顔でケーキを食べています。お父様は紅茶を飲んで、自分のケーキをお母様に分けてあげています。

 両親はとても仲がいいのでこんな光景も日常の一コマなのですが、何か、解せません。

 が、紅茶も温くなってしまいますね。ケーキも食べないとお母様に取られてしまいます。話も終わったようですから、今度は美味しいものを堪能しましょう。

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