第3話 結婚の条件

 婚約破棄をされたダンスパーティーの次の日。私は学園を休んでいました。


 昨日の夜、帰宅するとすぐにお父様の部屋を訪れて事の経緯を話しました。静かに話を聞いていたお父様は明日テンネル侯爵に会ってくるとおっしゃいました。


『お父様、ご期待に沿えず申し訳ございません』


 私はお父様に頭を下げました。テンネル侯爵家の力を借りて、我が侯爵家もさらに躍進を遂げるはずでした。婚約がなくなってしまえばそれも難しくなってしまいます。


『フローラが謝る必要はないよ。こちらが損をすることはない。むしろあちらの方が慌てているのではないかな? あとはまかせなさい』


 と、なぜか不敵に嗤ったお父様。

 今回の件でお父様をがっかりさせたのではないかと冷や冷やしておりましたが、全くの杞憂だったみたいです。

 お母様も私の気持ちを慮って下さって慰めてくださいました。おかげで安心して眠ることができました。



 

 ゆったりと寛いでいるところに読んでおきなさいとお父様から渡されたのは、婚約に関する契約書でした。


「えげつないですわ」


 小冊子のように綴られている契約書を読み終えた私はそんな言葉が漏れてしまいました。


 婚約する際に私も目を通しサインしたはずなのですが、こんなに事細かに条件が記載されていたとは思いませんでした。どちらかの有責で婚約破棄に至った場合の慰謝料の金額が半端ではありません。

 不動産の相場は分かりませんが、うちの邸や土地を売って賄えるものでしょうか? とにかく莫大な金額には間違いありません。両家とも有数の資産家なので払えない金額ではないかもしれませんが、大きな損失を被ってしまいます。 

 こちらに有利な条件だったのでそこだけしか頭に入っていなかったようです。これからはきちんと契約書を読まなければいけませんね。


 ※問題発生時には両家の話し合いをもって解決する。


 最後の文言は何を意味するのか、ちょっと気になりましたけど。


 エドガー様はご理解したうえで婚約破棄なさったのですよね?

 大丈夫なのでしょうか?


 多少の心配はあるものの私ができることはあまりないでしょう。


 私は気分転換も兼ねて温室へと足を運びました。

 ここは薬草の研究のために作られたもので私の研究室でもあります。まだ学生で、学位も持っていないのですが、実は特許をいくつか持っています。


 温室の奥まで行くと赤や黄色、ピンクの蕾をつけているローナという花が見えます。根から花びらまで使える万能な薬草です。薬の材料やお茶、料理、化粧品にと用途も幅広く重宝されている植物なのですが、なぜかわが国には根付かなかったのです。そのため輸入に頼らざるを得ず、関税も高くつけられていました。


 そこで薬草に興味があった私はお父様にお願いして研究することにしたのです。

 その結果は成功。今は許可を出しているところに栽培をしてもらっています。おかげで関税も安くなり高価だったローナが一般に出回りやすくなりました。

 そしてローナをさらに普及させようと今研究を続けているところです。


 しかし、研究するにはかなりのお金がかかります。

 我が家でもできないことはないのですが、私も一応女性、いつかは結婚しなくてはいけません。貴族としても一生独身というわけにはいかなかったようで。

 私は研究ができれば結婚は必要ではないので、離れにでも住まわせてもらえればと話すと家族に反対されました。特に弟からは姉上が先に嫁さないと自分が結婚できないと凄まじい位に猛反対されました。というか、泣いていましたね。


 

 そういうこともあり、婚約したんですけれど……

 結婚できるうえに、事業提携が一致し研究費も惜しみなく出してくれるというテンネル侯爵家の嫡男エドガー様と……

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