【8-2】
小学4年生の冬に、クラス全員で千羽鶴を折ったことを思い出していた。
今年の同窓会でもそれを覚えていた人もいた。
千羽鶴を折らなければならないほど状態が悪いのか。そう思っていたからこそ、美穂がすでに故人だという誤った情報も流れたのだろう。
「あのね……、あの時の千羽鶴を届けてくれたのは先生だったけれど、本当はそれよりもヒロくんが先生の荷物持ちでついてきてくれた。そっちの方が嬉しかった」
「あれか……。自分だけ鶴を折るのが遅くなっちゃって、糸に通していたら、先生から一緒に持って行くかって言われたんだ」
その頃には、教室の中で自分と美穂の補完関係というのも、先生たちには分かっていたようで、たまたま教室に残っていたのが俺ひとりだったから、その場で思いついたという。
「いきさつは何でもよくて、手術前に顔が見られたのが嬉しくてね。頑張らなきゃってそのときにも思ったんだよ。あのときと同じ。ううん、今回はもっと頑張らなくちゃね」
話のなかで、今回の手術を避けたとしても、同じように弁膜交換の手術はいつかは行わなくてはいけないということだった。
それは小4の時も含めて、これまでにも経験している。ただし、今回はこれまでと同じじゃない。リスクは伴っても、成功すれば彼女からすべての制限がはずされる。
「ヒロくん、私、手術受けていいよね……」
「美穂、それは小田くんが決めることじゃないわよ」
俺はその声に首を横に振った。
「俺は、美穂ちゃんと先生を信じるよ。一緒にいるって約束したからさ」
彼女は目を閉じた。
「私……、やります。生きていきたいんです」
そう言い切った美穂は、今度こそ迷いなくまっすぐに俺と先生を見て頷いた。
病院を出て、彼女の両親も入れた四人で昼食を食べた。
「美穂……、いいんだね?」
「うん。ヒロくんにも全部見てもらったし。もう隠すものも何にもない」
話を聞いてみると、この手術は治療としての最後のステージだそうだ。だけど体力を使うし、リスクもこれまでに比べて高い。
だから、彼女の気持ちが固まるまでは待つということだったそうだ。
「小田くん、突然にも関わらず、美穂のわがままを言ってしまい、本当に申し訳ない。本当にそれでいいんだろうか?」
「はい。約束しました。大丈夫です。小学校の頃から分かってますし」
「そうですか。それでは美穂をお願いするよ」
「分かりました」
俺たちふたりだけを残して、帰っていった。
「ヒロくん……」
「心配するな。お父さんに言ったとおりだ。美穂ちゃんを途中で放り出したりはしない。このあとどうする? なんか降ってきそうだよな?」
朝は晴れていたけれど、午後になって雲行きが怪しくなってきた。確か今夜は少し荒れると予報では言っていたっけ。
「あの……」
「うん?」
「見せたいものがあるの。ヒロくんのお部屋に行ってもいい?」
「俺の部屋?」
美穂は俺の腕を握ってそっと頷いた。
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