第四章 起業編
第30話 突然の手紙
王都地図概略
https://kakuyomu.jp/users/fudeorca/news/16816927859422064898
俺は十五歳になった。
十五歳になった俺は、特別なことをするでもなく日常を謳歌していた。
テロル語をやっと日常会話程度習得することができ、学問も実技も順調であった。
というか、実技以外はほとんどの単位を取り終わってしまい、暇を持て余していた。
考えてみれば、座学で取るべき200単位のうち120単位は免除されているのだから、残りは80単位しかないのだ。
五年も真面目にやってりゃ、暇になるのは当然である。
変わったことといえば、半年ほど前にハロルが「テロル語はもう十分だ、行ってくるぜ。あばよ」みたいなことをいって、出て行ったことだ。
ハロルとは大学の講義友達みたいな間柄だったが、港の使用権の関係でいろいろと口利きをしてやったりした。
ハレル商会は魔女家との軋轢の関係で、王都の港には入港し辛いらしいので、南のホウ家領の港を使う許可証をくれてやったのだ。
そうして、しばらく前に旅立っていった。
半年経ってもまだ帰ってこないので、生死についてはかなり際どい。
***
そんな折のことだった。
寮で午後からの暇をいつものように持て余していると、キャロルがやってきた。
「お前宛てだ」
と言って、一枚の封筒を投げて寄越した。
「なんだ?」
と聴くと、
「お母様が会いたいとさ」
ん???
「お母さまって、もしかして女王陛下のことか?」
「そうだ」
そうだ、って。
「なんで俺が女王陛下に謁見するんだ? なんか悪いことしたか?」
国の最高権力者に呼び出されるなんて、嫌な予感しかしない。
「その中に書いてある」
と、キャロルは俺の手元にある封筒を指さした。
それもそうだ。
せっかく書面にして書いてもらったのだから、そっちを読んだほうが手っ取り早い。
書状は、最高級の羊皮紙と思われる手触りのよい封筒に入っていた。
口は封蝋で留めてある。
これもまた、綺麗な朱色をした蝋だった。
高級品に違いない。と思うのは、先入観からだろうか。
俺はべりっと封蝋を剥がすと、中を見た。
***
騎士院在学生、ユーリ・ホウ
浮痘病の特効薬開発の殊勲を讃え、陛下より恩賜を与える。
ついては、謁見を差し許す。
期日までに王城に参内すること。
玉璽
***
……なんだ、あれのことか。
ルークから、効果が上がってるとか隣ん家にも教えたとか聞いていたが、女王陛下の耳にも入っていたらしい。
ふーん。
金でももらえんのかな。
「わかんないんだが」
「何がだ?」
「期日までにって書いてあるが、期日が書いていない。これは、これから王城で謁見の予約をして、期日を決めろってことなのか?」
「いや、違う」
違うのか。
「連れて来いと言われた」
「お前といくんかい」
アポなしでいいのかよ。
「そうだ。服も制服でいいぞ」
「なんだよ、テキトーだな」
謁見とはなんだったのか。
「大臣と衛兵がずらりと並ぶ謁見室で謁見とかじゃないのか」
夢を返せと文句をいってやりたくなる。
「違うだろうな、奥の間に通せと言われたから、庭に面した客間だろう」
「なんだ……まあ、そんなもんか」
そっちのほうが気楽だし、いいけどな。
「で、何時にするつもりなのだ?」
「最近暇だからいつでもいいぞ」
「じゃあ、今日で構わないか?」
今日。
今日とか。
親戚のばあちゃん家いくんじゃないんだから。
「そんなんいいのか。失礼にあたるんじゃ」
「ハッ」
キャロルは鼻で笑った。
「お前が礼儀を気にするとはな」
こいつ、俺のことをなんだと思ってやがる。
「さすがに女王陛下の
「なんだ、意外だな」
本当に意外そうに言ってやがる。
どんなふうに思われてんだ俺は。
女王にでも平気で喧嘩を売る、天上天下唯我独尊の男とでも思われているのか。
***
キャロルはさすがに王城では顔が利くようで、近衛の衛兵たちは顔パスで通してくれるので、ずんずんと進んでいった。
もしかして階段を登って王城のてっぺんまで行くのかと思ったのだが、さすがにそれはないらしい。
階段を登ったのは二回だけで、それで地上から少し段差のあるテラスについた。
暖かな日差しが射したテラスでは、草花が鉢に植えられて、そこら中に置いてあった。
手頃な丸い鉢もあれば、プランター状をした巨大な陶器に植えられたものもある。
開花期を考えて鉢を入れ替えているのか、全ての鉢が葉を茂らせ、蕾や花を咲かせていた。
水道が通じているわけではないようだが、毎日水をくんできて、こまめに水やりをしている者がいるのだろう。
テラスの中央には、丸いテーブルが置いてあった。
木目が細やかなテーブルで、野外据え置きのテーブルによくある、カビや不潔さはまったくない。
頻繁に屋内に仕舞われて、出す度によく拭き清められているのだろう。
そのテーブルを囲む椅子の一つに、入学式で手の甲に口づけをした覚えのある女性が座っていた。
若いとも言えないが老いているとも言えない、中庸な容姿をしているが、気品と静かな緊張感が漂っている。
そう思えてしまうのは、無意識に権威に圧倒されているからなのだろうか。
「よく来ましたね」
キャロルによく似た声色だった。
俺はおもむろに片膝立ちになると、最敬礼の姿勢をとった。
「拝謁の光栄に浴す機会を与えていただき、有難き幸せに存じます。女王陛下」
「あらあら、うふふ」
「猫をかぶるな、馬鹿」
頭上から酷い声が聞こえてくる。
俺は立ち上がって膝についた砂粒を払った。
バツが悪ぃ。
「なんなんだよ……」
せっかく小一時間悩んで考えた肩肘張った挨拶だったのに。
「謁見室ではないのだから、そんなに畏まる必要はない」
「畏まっちゃいけないってことはないだろ」
「まあ……そりゃそうだがな。おまえ、熱でもあるんじゃないのか」
失礼すぎる。
お互い様だからいいけどよ。
「仲がいいのねぇ」
女王陛下は朗らかに微笑んでいた。
「ほら、座れ」
キャロルはさっさと椅子にすわった。
う、うーん。
「どうした。早く座れ」
「馬鹿、こういう席で陛下に勧められないうちに座れるか」
俺はこういうの気にするんだよ。
「どうぞ、お座りになって」
あ、はい。
「では、失礼させて頂きます」
俺は椅子に座った。
「お話に聞いていたより、ずいぶん礼儀正しい子ですねえ」
「恐縮です」
「猫かぶってるんです、こいつは」
この野郎、さっきから好き放題いいやがって。
「被ってません、キャロル殿下」
「やめろ、鳥肌が立つ」
「羨ましいわぁ、私も学生のときこういう友達が欲しかったわ。騎士院のほうに入ったらよかったのかしら」
「こんな馬鹿はこいつだけですから」
こいつさっきから言いたい放題だな。
「お茶が来たわ」
メイド服を着た女中さんが現れ、
「失礼します」
と言って、茶道具が乗ったトレーを机の上に置いた。
ティーカップを見ると、ひと目で高いものだと解る。
肉厚が薄く、書き込まれた絵柄が美しい。
こういう繊細で洒落た茶器は、騎士家では好まれないので、うちでは見たことがない。
女王陛下が茶器に手を伸ばす。
「お母様、私がやります」
と、キャロルが遮った。
「そう? じゃあお願いね」
何も言わなきゃ女王陛下が茶を淹れてくれる感じだったのか。
それもレアな体験な気がするが。
キャロルの茶道具の扱いは、名乗り出るだけあって上手だった。
手慣れた様子で茶葉とティーポットを操り、鮮やかに三人分の茶を淹れた。
茶菓子の小皿と一緒に、カップが俺の前に置かれる。
茶をいれるとか、小姓や侍女の仕事のように思えるが、なぜこんなに手馴れているのだろう。
少なくとも、俺の家ではサツキあたりが手ずから茶をいれるという文化はなかった。
女王陛下が茶を口にした。
「美味しいわ。上達したわね、キャロルちゃん」
「ありがとうございます」
俺も飲むと、確かに美味い茶だった。
一般的に淹れられる麦茶ではなく、ハーブティーの類だ。
今は早春で、少し肌寒いので、ちょうどいい。
「……お前はなんかないのか?」
なんか期待の目? を俺に向けてきている。
感想を求められているのか。
茶道と同じでなんか感想を言う決まりなのだろうか。
うーん。
「たいそう美味しいと思います」
「なんだそれ」
キャロルはくすりと笑った。
なんだか変だったようだ。
俺も変かなと思ったけど。
***
お茶をひと通り飲み終わると、
「このまま長話をしてもよいのだけど、本題を先に済ませちゃいましょう」
と陛下が言った。
本題というと、あれか。
「このあいだ、ルークさんに手紙を出して、彼に恩賞をあげようとしたのだけど、息子の手柄だからと言って聞かないの。本当にユーリくんが考えたのかしら?」
うーん。
やっぱり、これは嘘をいってもしょうがないみたいだ。
「そうですね」
ルークが勝手に受け取っておいてくれてもよかったのに。
「どういうふうに考えついたの?」
「考えついたというか、僕はもとは牧場主の息子ですから、牛飼いに聞いたんです。牛飼いの間では昔からある有名な話だったようなので。だから、発明というわけではありません。言うなれば、再発見ということになりますかね」
ここに来る道すがら考えた言い訳であった。
「なるほどね~。今までおおやけに広まらなかったのが不思議なくらいね」
「そうですね」
どうなんだろうな。
誰かが気づいたとしても、ルークのような立場ある人間が理解を示さなければ無理だと思うが。
というか、感染の仕組みを知らなければ、牛から出てきた気持ち悪い粘液を傷口に刷り込めば、確かに予防できる。なんてこと、誰も信じないわけで。
やっていることだけみれば、不気味で怪しい民間療法だと思うだろう。
ルークであったとしても、俺が熱心に説かなければ信じはしなかっただろうし。
「でも、その気付きで何人もの人が命を救われたわ。有難うね」
「ええ、どういたしまして」
俺としては、救われた人は運が良かったねというだけだ。
勝手に利用してくれて構わない。
こっちとしては家族に感染するのを防ぎたかっただけだし、助かってよかったねというだけで、何を求めようとも思わない。
「それで、お礼をしたいと思うのだけど、何がいい?」
「お礼ですか」
例の恩賜の品とかいうやつか。
なにがいい? と聞いてくるということは、ある程度望みのものを与えてくれるのだろう。
「モノや金銭でなくてもいいんですか?」
「あら、いいわよ。常識的な範囲内ならば」
常識的な範囲か。
その中に入るのかな。
「今欲しいのは、
「特許? 専売特許のことかしら?」
女王陛下の目が鋭くなった。
専売特許というのは、ある地方または国家で、ある品目についての商売を独占することを特別に許す、特別な許可のことだ。
さすがに小麦みたいなものを専売にすることはないが、塩とか銅とか蝋とかを専売制にしてしまい、特定の商人や貴族に利権を与えることは、この国でも行われている。
それをされると、新規に参入した商店などがその品物を扱うことは、そもそもが違法。ということになるので、利益が独占されてしまう。
「違います。僕がこれから何か独創的な物や方法を発明したときに、その発明から生じる利益を保護してほしいのです」
「……うーんと、どういうことなのかしら?」
どうやって説明したらいいかな。
「例えばですが、僕がこれから十年かけて試行錯誤して、物凄い発明をするとしますよね。あたりまえですが、僕はそれを商品化して儲けます。まあ、ここでは、それが都合よく大流行したと仮定しましょう」
「はいはい」
「ですが、しばらくして、それで大儲けできるとわかれば、コレも当たり前ですが、他の人が同じ製品を造ってしまうわけです。別の人間が作った同じ製品が流通してしまう。そうすると、僕の十年の努力の意味はなんだったのか、ということになります。最初に発明した者だけが損をする状態になっているのです」
「まあ、そうね。でも、それはあなたが商品の作り方を秘密にすればいいんじゃないかしら?」
そうきたか。
「確かに、発明したものが瓶詰めの薬かなにかであれば、液体の薬から製造方法を割り出すことは難しいでしょう。でも、例えばですが、僕が発明したのが時計の正確性を画期的に向上させる仕組みだったらどうですか? 僕が販売したものを購入して、分解すれば、仕組みはすぐに解ってしまうのですから、秘匿しろというのは、売るなというのと同義です」
「……うーん、そうねえ。でも、その場合は発明したものをみんなが利用できなくなるのよね? 他の時計技師さんとかは使えなくなるのよね」
「いいえ、利用したら、使用した技術が利益に寄与した分、売上からいくらか分け前を譲ってくれればよいのです。さっきの時計の例であれば、仕組みは全体の一部ですから、全体の五分程度貰えればいいでしょう。もしこれが薬だった場合は、発明が全てなのですから、もっと貰う必要があるでしょうね。ですが、そこで払う金銭は、自分で開発した場合にかかるであろう費用の代償ということになりますから、むしろまったく払わないほうが不公平なのです」
「そうねえ……」
なんだか悩んでおられる。
「ですが、有効期限が永遠になると、これも不公平になります」
と、俺は言葉をついだ。
「うーんと、どういうことかしら?」
「例えば、槍を発明した者に特許が与えられて、その一家が何千年も槍一つにつき幾らのお金を貰ったりするのは、これもやはりおかしな話でしょう。なので、有効期限は二十年から三十年ほどがよろしいかと思います。その後は発明は公開され、誰でも利用できるようにすれば、国家としては得になることばかりです」
「あら、欲がないのね」
「ええ。元より得をしたくてやったことではありませんからね」
いけしゃあしゃあと嘘をついた。
「そうねえ……考えてみるわ。でも、残念だけど、この場でお返事はできないわね。いろいろな人と相談をする必要があるし」
「もちろんです」
「一応聞いておきますけど、あなただけに特許を出すというわけにはいかなくなるかもしれないわよ」
「当然でしょう。もちろん構いませんよ。僕としては、これから自分の発明から生じる利益を保護してもらいたいだけですから。僕が保護を受けられる人間の一人に入っていれば、なんの文句もありませんよ」
最近、とにかく暇になってきたからな。
幾らでも儲ける手口はあるが、特許制度がなかったら虚しいだけなのだ。
この国では、特に
起こりうるというか、現実に何件も起こっているのだ。
その結果、誰も努力しない、努力をしても無駄。というような社会が出来上がってしまっている。
さすがに、俺相手にそれをしたらホウ家を敵に回すようなものなので、あからさまにはやらないだろうが、類似製品くらいは堂々と出してくるだろう。
特許制度があれば安心というわけだ。
まあ、やっぱり特許制度は駄目でしたってことになったら、金でも貰えばいいだろ。
***
「お前はいったい、何をはじめるつもりなんだ」
キャロルが訝しげな目で俺を見ていた。
何をするつもりって。
「カネはあるに越したことはない。いくらあっても困らない」
「おまえ、騎士には騎士の本分ってものが」
頭の硬いオッサンみたいなこと言い出した。
「騎士だってカスミ食って生きてるわけじゃないんだ。金稼ぎくらいはする」
むしろ大半の騎士にとっては、金稼ぎ、言葉を変えれば食い扶持を稼ぐことが一番の重要事だ。
「うっ……それはそうかもしれないが」
「かけもちしてるお前と違って、俺のほうは殆ど座学が終わっちまったせいで、午後がヒマすぎるんだよ。金儲けのほうが、昼寝してるよか、なんぼか有意義だ」
「ヒマなら、槍でも振るっていればいいだろう」
大真面目な顔で言ってきよる。
馬鹿か。
槍なら午前中に毎日振っとるわ。
なぜ午後になってまで振るわなきゃならん。
「武芸者になるんじゃないんだから」
武芸者というのは、ナウ○カのユ○様みたいな感じの、あんなに格好良くはないが、戦いの技を磨いている連中だ。
戦争になると雇われ、傭兵部隊のようなものを編成するので、ホウ家の所領のへんには特別たくさんいる。
「まあ、そうだが……金儲けというのは……」
まだ納得出来ないようだ。
「キャロルちゃん、お金儲けは大事なことよ?」
おっとぉ。
ここで女王陛下のフォローが入ってきた。
「お母様」
「私達はお金に困ることはあんまりないから、お金に疎いところがあるけど、ほとんどの人はお金を稼ぐために働いてるのよ。あまり馬鹿にするものじゃないわ」
「ば、馬鹿にしてはいませんが……」
キャロルはちょっと泣きそうな顔になっている。
女王陛下の説教モードか。
「確かに、お金儲けで学院生の本分が疎かになってはいけないけれど、ユーリくんは授業にもちゃんと出ている優等生なのだから、あまりガミガミ言うことはないじゃないの」
普通に大人の意見だった。
ただ、親の意見となると、また違ったものがあるのだろうなぁ、と思う。
女王陛下は人の親ではあるが、俺の親ではない。
ルークやスズヤに話を通すべきか否か、考えどころである。
「お金のために悪いことをしたら、それはいけないけれど、本来はお金儲けというのはいいことなのよ? みんながお金を儲ければ、それだけ国は豊かになるのだから。キャロルちゃんはそのあたりのことはちゃんと解っているのかしら?」
やべぇ、説教がながくなってきた。
意外と説教っぽい母ちゃんだったんだな、この人。
そのあとも、いくらか説教が続き、そのたびにキャロルはしょんぼりうなだれていた。
「わ、わかりました……」
説教が終わった時には、涙目になっていた。
俺はなんにもしてないとはいえ、可哀想だな。
「どんまい」
励ましてやった。
「き、きしゃまっ!!」
少し噛みながら、怒り心頭の様子で椅子を蹴って立ち上がった。
やべぇ、思ったより怒ってる。
「なんだよ、はげましてやったのに……」
「絶対わざとだ! 私をおちょくって!」
「おちょくってなんかいないよ。どんまいって言っただけじゃないか」
「それがおちょくってるんだ! おまえのせいで怒られたのに!」
俺のせいかよ。
自業自得だと思うけど。
「こらっ」
女王陛下が鋭く声で制した。
「うっ」
「お友達を指でさしてはだめよ。はしたないわ」
指差されてたのか。
気付かなかった。
「う……申し訳ありません」
「ユーリくんにも謝りなさい」
「う……」
キャロルは嫌そーな顔した。
さすがにこの展開で俺に謝るというのは、キャロルにとっては
どんだけ鬼畜なんだよ。
「別に謝らなくていいぞ」
と、キャロルに言ってやった。
「あらそう?」
「こんなのは、単なるじゃれ合いみたいなものですよ、陛下。じゃれあう度に謝ったり謝られたりしていたら、面白くなくなります」
「……へぇ。本当にいいお友達なのねぇ」
そうか?
「どうでしょう、わかりませんが」
「ユーリくん、よかったらお婿さんに来てくれてもいいのよ?」
……??
なにをいいだすんだ、この女王陛下は。
「ぶっ」
キャロルはお茶を吹き出していた。
「けほっけほっ……なにをいいだすんですか、お母様。ありえません」
「珍しく意見が合ったな」
ありえない。
「家のことを気にしてるのだったら、過去に事例がないわけじゃないし、構わないのよ? 姓もそのまま名乗ってくれていいのだし、女の子ができたらこっちが貰いますけれど、男の子ができたらホウ家の跡取りにすればいいのだから、問題はないわ」
おい、こら。
生々しい話をするな。
「まだ結婚は考えておりませんので」
状況が掴めんが、とりあえずこう言っとくか。
「あらそう? でも考えておいてね」
「お母様、夫は自分で決めますので」
「そうだったわね」
そこから二十分くらいお茶して、陛下の用事が入ると、その日のお茶会はお開きになった。
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