第161話 富士山の意味

竹取翁は、貴公子がまさにかぐや姫の求めるものを持参することに成功したと思うとさっさと婿取りのための寝所の準備をし出すし、天人がかぐや姫を迎えに来るという時には「よろしいとも迎えの人々がやって来おったら、わしのこの爪でその目をひっつかんで潰してしまってくれよう。またその髪の毛をとっつかまえて、ひっかき回してぶちのめしてくれよう。そいつのお尻をひんめくって、ここにいるたくさんのお役人たちの前で、そいつに恥をかかせてやろう」などとあまり品の良くないことも言わせている。

また翁は、かぐや姫を帝に差し出すなら「翁に五位の官位(五位以上は貴族となる)を与える」という言葉に喜んだりもしている。結構俗物なのである。かぐや姫を天人に対する発言やその下品な立ち居振まいにかぐや姫は顔をそむけ愛情もうすれただろう。かぐや姫 が帝に差し上げた不死の薬の入った壺もかぐや姫から奪った可能性すらある。

かぐや姫のモデルの一人といわれる称徳天皇は、有能な人物による政治体制を目指していた。この体制は藤原氏にとって都合の悪いものだった。しかもこの称徳が目指した体制は整いつつあり、十年以内に達成される段階まで進んでいた。多くの困難を乗りこえてきた藤原氏の歴史の中でもこの事態は最大の試練であった。

富士の山という名前は、帝がもらった不死の薬の入った壺を富士山頂で焼かせたためといわれている。不死の薬を焼く時、士がたくさん登ったので「不死の山」または「士に富む山」として富士山と呼ばれるようになったとされる。

しかし、この話には少しばかり無理があるように思われる。本当のことは今となっては分からないが、もしかしたらこの物語では違う意味を持っていたと思われる。藤原氏にとっての富士山とは、「これ以上の危機はおこらず不動の権力者として日本に君臨し続ける」という理解なのであろう。藤原氏にとっては称徳は、悪人である。藤原氏や極悪人は今も称徳天皇を悪者と認識している。

しかし、庶民は全く逆の反応を示す。

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