追憶のタスク
鹿島こがね
序章 血溜まりの願い
それは、どこかの日本の住宅街の一角。
「……ぅ――っ――、 」
曇天に覆われた闇夜に、掠れた声が響く。降り注ぐ雨に打たれ、今にも消えそうな、そんな小さな声。
傷だらけの、血に塗れた人間が、まだ決して長くは生きていないその命を失おうとしていた。
「 」
もうまともな声を出す力もない。身体は血も熱も失い、目は開いているだけで何も見ていない。否、見ている。見ているが、それは現実のものではない。
「 、 ―― 」
人間が見るものはたった一つの願い。普通なら望むほどですらないちっぽけな、しかし人間には許されなかった願い。人間にできることは、ただ非情な現実から逃げることだけ。
命の灯が消えていく。もうなにもない。最期に、そっと思う。
死んだ。誰も悲しむ人なんていない。人間の親は彼が物心つく頃にはもう傷つけはしても守ってはくれなかった。学校なんて施設には、もう長く踏み入れることは出来なかった。街の人々は赤の他人でしかない――ただ生きるために傷つけあったかあわなかったかだけの人たち。遺体は引き受ける者などおらず、適当に処分されるだけだろう。
しかし、魂はただ消えることを許されなかった。
何かが絡みついた。それは世界からの、超常の力と言うべき何か。その魂を中心に、距離を超え時間を超え、たくさんの魂が集められる。人間の魂はその大きさを無理やり広げられ、そこに押し込められていく。
集まった魂すべてが詰め込められたとき、それはこの世界から解き放たれた。人間は世界から追い出され、運命に囚われる。そこに抗う術などない。そもそも事態を認知すらしていない。誰にも知られることなく、人間はこの世界から消えた。同じ運命に巻き込まれた魂たちを連れて。
これは、始まりの物語。
いつか集う役割たちの、その先頭を行く物語。
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