BEYOND 総理大臣 一条健
@eifuji
第1話 一条健という男
ボストンの夏の日差しは強い。しかし日本と違って湿度は低いので、カラッとした暑さだ。町の中を流れるチャールズ川では、カヌーを楽しむ学生たちの声に交じり、アヒルたちの大合唱が聞こえる。この川沿いにあるMIT「マサチューセッツ工科大学」の芝生に寝っ転がり、モカマタリを片手に、イギリスのオックスフォードにある古本屋で手に入れた、トマス・ホッブスの著書「リバイアサン」を読みふけっている男がいた。 「一条 健」 彼は1年ほど前、MIT・コンピューター化学・人工知能研究所の主任教授カール・フランクが発表した「言語と学習に資する人工知能(AI)」の論文に対してWeb上でその不備を指摘し、議論を戦わせ、それを解決に導いた。カールはすぐに一条を客員研究員としてMITに招き、そこで一条はAIだけでなくコンピューターサイエンス、ナノ物理学など幅広い分野において、これまで誰も考えもしなかった独創的なアイデアを次々に発表し、世界の頭脳集団と呼ばれる研究者たちを驚かせた。それだけではない。彼は同じボストンにあるハーバード大学の若き経済学者たちと、現在の自由主義に偏重した資本主義の崩壊を、詳細なデータ分析で証明し、新たな資本主義が進むべき道を示した。この論文は全米の政治・経済学者の注目を集め、その是非をめぐって大論争が起こり、一条の名はホワイトハウスにまで知られることとなった。一条をよく知る社会学者のピーター・マートンは、彼を次のように表現した。「彼の能力は、あらゆる分野で人知を超越している。」すなわち 「BEYOND」だと。
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