第7話 続、迷宮の上野
よし、探偵センサーをリセットして尾行を継続するとするか。まずは状況再確認。ターゲットは飲み屋の外飲み席、丸椅子でビールを飲んでいる。連れは居ない。そもそも、女性を来るような店ではない。待ち合わせの時間調整だろうか。
ターゲットは小一時間一人飲みを続け、21時少し前に店を出た。俺は近所の店で買ったカットパイナップルを一切れ食べただけだで張り込みをしたのだが、パイナップルはちょっと甘くて美味しかった。
【それはどうでもいい情報だね・・】
大通りを渡って仲町通りへ入っていった。ここを抜ければホテル街だが、ラブホで待ち合わせはないだろうから、まずは寿司屋か焼肉屋で合流だろうか。
いや、ターゲットは仲町通りから路地へ曲がってしまった。少し急ぎ足で俺も角を曲がった。ターゲットが雑居ビルに入るところが見えた。エレベーターの表示灯を確認、3階で止まる。看板を確認、店の名前は・・ミセスクラブ 花園・・またしても趣味色の強そうな店だな・・
正直なところ、全く入店したい気持ちが湧かないのだが、仕事なので仕方が無い。
店のドアを開ける。店内はボックス席の他に長めのカウンターがある、少し不思議な造りになっている。あ、ターゲットはカウンターに座っていた。俺はカウンターが見えるボックス席を希望した。
「いらっしゃいませ。ご指名御座いますか?」
「いや、初めてなんで・・」
「承知しました。ではフリーでご案内致します。お飲み物は何に致しましょうか?」
「ウィスキー、ロックで」
異世界に入るための呪文のような、毎回同じ儀式が終わりキャストがやってきた。
「こんばんは、久美です。初めまして、ですよね?」
「あぁ、俺は坂本、よろしく」
【やっぱり夜は坂本なんだね】
「ところでこの店、大きなカウンターがあるんだね、ちょっと面白いよね」
「カウンターで隣に座って飲んで、喋ってっていうバーで口説いてるみたいな店にしたかったんだって。結構お客さんにも好評なのよ、ほら」
久美が指をさしたカウンターには確かに客が4人座っている。右端はターゲットだ。
「バーで口説いてる感じか、なるほど」
「坂本さんもカウンター行く? 私、口説かれちゃおうかな。 あ、ミセスクラブなんで既婚者だから、お互い火遊びっていう設定よ」
なんだそれは。入る前は全く興味も湧かない店だったが、こんな妙な仕掛けがあったとは、実に面白そうだ。これは大人向けキッザニ〇だろうか。だが、仕事だ・・。
「あ、いや、結構。俺はカウンターでは一人でウィスキーロックと語り合う場所だと決めてるんだ。美しい女性を話をするならここが良い」
「なにそれ、ちょっとカッコいいね」
「なに、男は静かにロックグラスを傾けるものなのさ」
よし、決まったな、これぞダンディズムの極みだ。
「でも、ここキャバクラだよ?」
「・・・・・」
久美が席を外したタイミングで、後ろ姿だけだが、ターゲットとキャストの写真を撮っておいた。
席に戻った久美はウィスキーを継ぎ足しながら質問を投げてきた。
「坂本さん、今日の夕食は何だったの?」
「今日か。今日は酢豚の豚と野菜抜きを食べたな」
「え?酢豚の豚と野菜抜き?あんかけだけってこと?」
「いや、パイナップルだよ:」
「はぁ? 夕食がパイナップル? それが酢豚の豚と野菜抜き?
坂本さん面白いよ あはは それって、パイナップルを炒めたってこと?」
「いや、フレッシュだよ。串に刺さってた」
「それって果物屋で売ってるカットパインでしょ? 酢豚関係なくない?」
「でも、酢豚好きなんだよ」
「好きな食べ物聞いてないし。 あははは」
俺の話法についてくるとは、この娘なかなかやるな。もしかしたら俺に気があるのかもしれない。でも俺は探偵稼業、ハードボイルドに女は要らねぇ。また不幸な女を作っちまったか。俺はどこまで行っても罪作りな男だ。
【話合わせるのはキャストのお仕事だから・・ こんなだから彼女居ない歴イコール年齢なんだよ・・】
罪を深くする前に退散するとするか。「会計頼むよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます