第14話
「おっ、またこの季節がやって来たのね」
通りがかった当間由美が、1年生男子の抱えているせんべいぶとんのような物体を見て、楽しそうに声を掛けた。
顔見知りの佳乃が応える。
「キンキ大会は遠的がありますからね、秋都祭の準備が始まる前にグラウンドを使わせて貰ってるんです」
「ふーん、で、調子はどうなの??」
「まずまずです、でも勝負は水モノですから」
佳乃達3人娘は中学時代に遠的大会の出場経験もあるので、遠的自体への不安感は無い。
彼女達の指導者である井隼吉和(いはやよしかず)は中心線が変に崩れてしまわない様、近的の練習を優先させていたが、佳乃は青空の下で矢を射る楽しさから、ついつい遠的練習にも時間を掛けていたのだ。
「んで、今日は王子サマは居ないの??」
「もう、ユミさんまでそんな事」
「昔はつばめ君って言われてたんだよ、大出世じゃん」
たしなめる佳乃に悪びれる事無く言葉を返す由美。
「空良先輩は生徒会の打合せで不在です」
「あら残念、久しぶりに弓を引く王子が見れると思ったのに」
(さて、どうしたものかな・・・)
大学ノートを前に、難しい顔を浮かべて空良は呟いた。
教壇では秋都祭に関する防災事項について学年主任の教師が熱弁を揮っていたが、彼の耳には届いていない。
「具合でも悪いの??ソラ君」
彼の様子がおかしかったので、隣に居た真琴が小声で訊ねた。
「ん、試合の立ち順を考えてる」
「あのねェ」
心配して損をした真琴は、こめかみを押えて唸った。
「仮にも生徒会長なんだから、キチンと話を聞いておいて貰わないと困るんですけど」
「悪い悪い」
「もう」
頬を膨らませる真琴は、気を取り直して言った。
「で、決まったの??」
「大体は、ね」
書き付けたノートをパタンと閉じた空良は、ニッと笑って応えた。
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