twenty all Ⅱ~ツキノヒカリ

黒珈

twenty all Ⅱ 第1部

第1話

 八月


 遙かなる北の大地で見上げた空と同じ名前を持った先輩の矢は


ちょうど二十本、的の中に吸い込まれて行った




【祝 全国総合体育大会弓道男子個人戦準優勝 國府田空良(二年)】


「何たそがれてるの??」

渡り廊下から風にそよぐ垂幕を見ていた月島佳乃は、後ろから声を掛けられて振り返った。

「・・・書道の樹先生、字が上手だなぁって」

「ふーん」

隣の手摺に腰を預けた吉田観月は、思っていた反応と違ったのか別の話を振った。



「それで、順調なの??」

「うん」

佳乃は頷いた。

「基礎工事はほぼ完成したみたい。もうすぐ仮組みで壁を作り始めるって生徒会長さんが言ってたよ。

「あー弓道場の話じゃなくって」

頭をガシガシ掻きながら観月は言った。

「ソラ君との事」

「へ、先輩??」

佳乃はきょとんとした顔になった。

底知れぬ天然ぶりに気持ちが折れそうになった観月だったが、何とか立て直して話を続けた。

「顧問の先生帯同とは言え、ホッカイドウまで二人で行ったんでしょ??何も無かったとは言わせないわよ」

「わっわっ、頭、グリグリしないで」

耳の横、ちょうど髪留め辺りに拳をグリグリ当てられた佳乃は思わず悲鳴を上げる。

「嫌だったら、おねーさんに全て吐きなさい」



「何も、無かったよ」

数分後

ようやく開放された佳乃は、息を整えながら言葉を続けた。


インターハイ本選

府予選個人戦で優勝した空良の介添役として佳乃は一人ホッカイドウに随行したのだ。



「先輩は、いつも通りだった」

予選8射を危なげなく全て的中

射詰め競射でも全て眼(的の真ん中)に入れていた。

最後に外したのも、的が少し傾いだ結果、的枠の外側に刺さっただけ。

優勝した選手との実力差は殆ど感じられなかった。


「・・・いつも通り」

観月はようやく、その言葉の意味に気が付いた。

「そう」

佳乃がやや自虐的な表情を浮かべながら言葉を繋げる。

「ほんと、怖いくらいにね」

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