第59話 サプライズ!
『俺もなにか月城にしてあげられることが、恩返しでも出来たらいいな。なんて、頑張っている月城を見て考えてしまう』
俺はふとライブ中の月城を見ていたことを思い出す。
あの時の俺は一番大切なことを忘れてしまっていた。ライブに夢中で、アイドルとしての月城しか見ていなかった。
冷静に考えてみれば、月城は料理も出来る、歌もダンスも上手に出来る、言わずもがな顔も良い。
しかし、それを遥かに凌駕する欠点を持っているのだ。ライブ中の俺はそれをすっかり忘れてしまっていたのだ。
「ふふ、ゆーくんみてみて〜♪」
そう言って月城は小さな箱を俺に差し出す。
これがプレゼントだろうか? やけに箱が小さいような気がする。
「これは……」
俺がそう言うと、月城は満面の笑みで箱を開け、その中身を目の前まで持ってくる。
中身がみえたその瞬間、俺は嫌な予感とともに変な汗をかき、月城の考えていることがなんとなく伝わって来るのが分かる。
もし俺の考えている事が本当なら……。と、今の俺はこれが勘違いだと願うことしかできない。
しかし、月城はそんなことはお構いなしに口を開く。
「っじゃーん! 指輪だよっ♡」
そう言って俺のため息と同時に登場を果たした指輪らしきものは、この暗い部屋でもとても輝いて見えた。
「ゆ、指輪か、ありがとう。後にでもつけておくよ」
「ダメだよ、ゆーくん」
嫌な予感を察知した俺は動揺しつつも、プレゼントについての話題を逸らそうとするが、勿論月城は逃がしてくれない。
「だ、だめ?」
「もー、ゆーくん恥ずかしがらないでよ」
そう言ってムスッとした顔になったかと思えばすぐに箱から取りだし、俺の左手の薬指に指輪をはめようとしてくる。
拘束中の俺は、勿論動けるはずもなくただその光景を眺めることしか出来なかった。
「ほらほらっ♪ もうわかってるんでしょ〜っ♪」
♢ ♢ ♢
そんなこんなでとうとう指輪をつけ終わり、拘束された俺の指にはまった指輪をみた月城は、満足気な表情を浮かべている。
そして月城は、自身の薬指につけられた指輪を俺に見せつける。
「やったー! これで私たち、ずーっと一緒だねっ♡」
キラキラと目を輝かせてこちらをみつめる月城。
というか、俺の誕生日プレゼントのはずなのに、なぜ用意した側の月城がこんなに喜んでいるんだ。
「わたし、嬉しくって、つい高いやつ買っちゃったの。……でもみて! ペアになってるの、可愛いでしょ〜♡♡」
そう言ってニコニコしながら指を近づけてくる。俺は思わず失笑してしまう。
すると、俺の反応をみてか、月城からの圧を感じる視線を向けられる。
「……勿論、ゆーくんも嬉しいよね? 喜んでるよね?」
「あ、ああ、勿論」
身動きも取れない状況だ。素直に応じておこう。
「良かった〜! じゃあ、誕生日サプライズは大成功だねっ♪」
月城はそう言って俺に抱きついてきた。
♢ ♢ ♢
──MAGICライブ会場
「……あれ? 唯斗?」
私は目が覚めた。
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