第57話 再び
目が覚めると、俺はいつもの見慣れた部屋に横たわっていた。
しかし、手足は拘束され身動きがとれない。すると、玄関の方から足音が聞こえてきた。
「……ん、あれ? 起きた?」
俺は慌てて、声のする方へ顔を向ける。
「──っ月城?」
♢ ♢ ♢
私は幸か不幸か一部始終をみてしまった。ゆーくんと私以外の女が親しげに話をする場面に出くわしてしまったのだ。
「私ずっと前から伝えたいことがあったの」
私のゆーくんに、馴れ馴れしく女はそう言うと、思いつきで話しているかのような薄っぺらい言葉を並べる。
この女の名は、おそらく芽衣だろう。
「色々あってさ、私やっぱり気付いたんだよ。唯斗はそんなことする人じゃないって」
それを聞いたゆーくんは、どこか安心したような、嬉しそうな表情をしていたように感じる。
そしてゆーくんも口を開く。
「ありがとな、芽衣」
私は思わずため息がこぼれた。こんなやりとりをみせられること数分、あの女が悪なのは大前提だが、ゆーくんは優しすぎる。
……こんな女に丸め込まれちゃだめ! 私は心の中で叫んだ。
ゆーくんの優しいところはいいところでもあるが悪いところでもあるね。
しかし、私はここで飛び出すのをグッと堪えた。ここまで来たらこの女の悪事を最後まで見届けてやることにした。
さらにそれから数分、ゆーくんと女が楽しげに会話をした後、思いもよらぬ事が起きた。
そう、あろう事かこの女、ゆーくんと連絡先の交換をしようとしているのだ。
女がQRの画面をみせ、それから数秒の沈黙。
私はゆーくんが断ってくれると、私を選んでくれると思っていたのに。
複雑な表情を浮かべるゆーくんがそれを承諾すると、女は嬉しそうに立ち上がり、二人は足並みを揃えて出口へと向かっていった。
「ありがとね、唯斗」
「ああ」
……はぁ、私は本当にゆーくんを信じていたのに。
「あ~あ、ダメだなぁ。ゆーくんは」
私はそう呟くと、背後からゆーくんの方へ近づき、スタンガンで麻痺させる。
「──ッ!?」
「ごめんね、ゆーくん」
そう言うと同時にゆーくんはその場に倒れ込む。恐らく気絶しているだけなので心配ない。
幸い、ここら辺は人がいなく、この女以外誰にもみられていないだろう。
視線をずらすと、隣の女が目を丸くしてこちらを見つめていた。
「……」
邪魔。
「ばいばい」
♢ ♢ ♢
──それから私はゆーくんを抱えて、ひと気の少なく、関係者以外が通れないような裏口を使い、どうにか脱出をはたした。
あの女は気絶させたまま放置だ。
これで意識を取り戻す頃には私たちの姿はない。私はあまりの完璧さに笑みがこぼれた。
やっとゆーくんと二人きりになれるのだ。
その後、私はタクシーに揺られ、ぼんやりと外を眺めていた。
ひとまずゆーくんを家に送り届けてから、諸々の作業をすませて、また帰ってこよう。
「ふふ、ゆーくん気持ちよさそうに眠ってる♪」
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