第55話 え?

にも関わらず月城は俺へのハートマークやウインクをやめようとはしない。


それに俺は失笑してしまう。


あの日、俺が振られてあの公園へ立ち寄らなければ、再び月城と出会い、同棲し、水族館、服屋さん、外食……一緒に出掛けたり、手料理を食べたり、添い寝を要求されたり、お風呂に入ったり。


そんな日常が無かったのかもしれない。


月城は、平凡な日常を送るはずだった俺に、良くも悪くも転機をもたらしてくれた。


それに月城は俺には勿体ないほどのスペックの持ち主で、顔がいいことは言わずもがな、ダンスも歌も上手い、それに手料理だって振舞ってくれる。


それにこのライブだってこんなに仕上げてきている。俺もなにか月城にしてあげられることが、恩返しでも出来たらいいな。


なんて、頑張っている月城を見て考えてしまう。


トップアイドルは流石だな……


俺がそんなことを考えているうちに、力みすぎたのか、手に持っていたペンライトの色を誤って変えてしまう。


「────ッ!!」


俺はおもわず息が詰まる。それも、見た感じ美月の担当色らしく、ライブ中にも関わらず、俺を見つめる月城の目は完全に死んでいる。


それに加え、大量のペンライトを抱えた変人ゆいとのペンライトの色が急に変わってしまったせいか、美月にも見つかってしまい、ドン引きしたような顔で見つめられている。


おい、どうやって戻すんだよこれ……。



♢ ♢ ♢



暑苦しい人混みに紛れて、私はMAGICのライブに来ていた。流石は人気アイドル、会場は大歓声に包まれどこもかしこも人で溢れている。


しかし、それも頷けるほどのパフォーマンスだ。


……私はふと我に返る。


こんなライブ来たかったわけじゃない。アイドルの歌を聞きに来たわけじゃない。


私の本命は唯斗、このライブはただのキッカケに過ぎない。そしてもう私は唯斗を見つけている。


だが、当の唯斗は、MAGIC月城月乃の、メンバーカラーで全身の服をかため、両手に抱えたペンライトの色もメンバーカラー一色だ。


それを頑張って振り回している。完全に月城に染まっている。


私は思わずため息がこぼれてしまう。でも大丈夫。


チャンスはライブ終わり。偶然を装い、唯斗へ話しかける。


ライブ直後だし、いつも付きまとっているあの女も邪魔は出来ないだろう。


ひとまずはこのライブを乗り切るところから……。



♢ ♢ ♢



「「「ありがとうございました〜!」」」


やっと終わったな……。ライブ終了の挨拶に俺は安堵する。


予習しておけばよかったものを、MAGICを何も知らずに挑んだせいか、殆どがなんの曲かも分からなかった。何曲か月城に教え込まれた曲も混じっていたが……。


それからアナウンスが流れ、観客がぞくぞくと退場していく。


「はあ……疲れた」


ライブの帰り際、とぼとぼと歩く俺がそう呟くと、何やら肩を叩かれたような気がした。


「唯斗、?」


「……ッど、どうしてお前がここに?」


「こんなところで会うなんて……奇遇だね」


そう言って芽衣は俺に笑いかけた。

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