第50話 決意

私は唯斗を振ってしまったことを後悔していた。


単なる噂で唯斗の気持ちを踏みにじってしまったのだ。


一度は唯斗との仲を取り戻そうともしてみたが失敗に終わった。


でも、この中途半端な気持ちで関係を終わらせたくはない。


自分勝手だがまたあの頃に戻りたいと思っている。


しかし、学校内で話しかけることなど出来るはずもない。メッセージアプリは未読のまま。なにか手段は無いのか、私はいつも考えていた。


「ゆーくんおかえりっ♡」


そして、ついに最後の手段を見つけた。


「月城、お前がなんでここに……?」


唯斗は驚きながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべているように感じた。


ああ、またこの人だ。それにもう一人。いったい誰?


「びっくりした? 私、ゆーくんのこと迎えに来たの〜♪」


それから唯斗とこの女はラブラブなカップルのような会話を繰り広げていった。


この女が大袈裟な表現をしても唯斗は軽く受け流している。


きっと、いちいち気に止める必要もないほど当たり前に思っているのだろう。


そんなことを考えながら盗み聞きすること数分、二人は気になる話題について話し始めたのだ。


……だが


「でも今は……」


そう言って辺りを見渡すと、スタスタとその場から離れていった。下校する生徒たちが集まりすぎたせいだ。


私は自分勝手だとは自覚しながらも三人の後をつけていった。ただ下校時間が被っただけだと言い聞かせながら。




それから三人はタクシーに乗り込んだ。あの女と唯斗は異様に詰めて座っている。


……もう唯斗に私の入る隙は無くなってしまったんだな、と思いつつタクシーの中を覗くと、スマホの画面からなにやらアイドルのライブの話をしていることが分かった。


私は急いで調べると、幸か不幸かそれらしきものを見つけてしまった。諦められなくなってしまった。


私はこれで全てを終わりにしよう、とライブへ行くことにした。ライブへ行けばもう一度唯斗と話すことだって出来るはずだ、と。


チケットはまだ販売されていない。私は再び決意し、そっとスマホを閉じた。



♢ ♢ ♢



「それで、朝の話ってライブのことについてだったんだな」


家に着いた俺たちは荷物をおろしながら話し始めた。


「うん、急な事情があったんだって」


「でも、ゆーくん、美月が来た途端いなくなっちゃうからびっくりしたんだよ〜??」


「悪かったな。少し急いででな。……それはそうとして、ライブの練習は大丈夫なのか?」


俺がそう言うと、月城はニコッと笑いかけてくる。


「ゆーくんに見てもらうんだから、いっぱい練習しないとだよ」


「それなら今日は俺が晩飯をつくるよ」


「ええ、いいの?! ゆーくんの手料理食べちゃっていいの?!」


俺からの提案に月城は驚いていた。まあ、最近はネットで調べれば簡単なレシピくらい出てきそうだ。


それに、月城の料理、味は言わずもがな美味しいのだが、なにやら後味がおかしいのだ。


まあ、俺の舌がおかしくなっている可能性もあるし、俺が作ってみてあの後味がするかどうかだからな。


「ああ、簡単なものなら作れそうだからな」


「ゆーくんの手料理かぁ〜っ♡♡ ふふ、ゆーくんの隠し味いっぱい入れて欲しいな〜♡♡」


「隠し味……?」


俺がそう言うと月城は顔を赤らめていた。


「ううん、! なんでもない! 私練習してくるねっ!♡」


「そうか、頑張れよ」

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