第45話 どうして?

「大したことじゃないけど」


美月がすました顔でそう言うと、月城は強引に俺の手首を掴む。


「ふーん。……それじゃ、ゆーくん行こっか」


「あ、ああ」


俺は美月に向かって軽い謝罪のポーズをすると、月城につかまれるがまま、家の方向へ引っ張られていく。


美月……可哀想だったな。



♢ ♢ ♢



「ん〜! 今日は楽しかったねっ!♡」


あれから数時間が経ち、俺の後に風呂に入った月城はご機嫌な様子で風呂から出てきた。


危うく、一緒に入る羽目になるところだったが、何とか凌いだ。


ここでは気を抜くことは許されないからな。


そして俺は、月城の問いかけに、今日の夜ご飯のパスタのことを思い出す。


「そうだな。あそこのパスタは中々に美味かったな」


「うんうん! 美味しかったよね〜!」


月城はそう言ってテレビをみる俺の隣に座り込んでくる。


「また行きたいよね〜!」


月城はそう言うとニコニコして俺を見つめた。こうして見ればやはり可愛いな、と月城の問いかけに頷く。すると、月城から妙な圧がかかる。


「ねえ? ところでさあ。……私の手料理と、お店のパスタ、どっちが美味しかった?」


そう言う月城の目はハイライトが消え、さらに俺に圧力をかけてくる。まずい。


これは今日のパスタを褒めすぎたせいだろうか。


……ここでの返答を間違えば、どうなるかなんて、言わずもがな。慎重にいかねば。


「そ、そりゃ勿論。月城のパスタに決まってるだろ?」


と、俺がパーフェクトに答えると、月城はキラキラした目で嬉しそうに微笑んだ。


「うぅ〜♪ やっぱり、そうだよね〜っ♪」


よし、一安心。と俺が思ったのも束の間、月城はすぐさま、再び圧力をかけてくる。


「……一応聞くけどさ……パスタに限らず、私の手料理が一番だよね?」


「勿論勿論……! 俺の好みをバッチリ抑えてるからな」


と、俺は最速で再びパーフェクトな返答をする。もう、月城の扱いにも慣れたものだな。


と、俺は再びテレビに目線を向けた。


「っありがとう、ゆーくん! 私がゆーくんの一番だよねっ!」


月城はそう言って俺に抱きついてくる。そしてふわ〜っと香るいい匂い。


俺は思わず頭がぼーっとしてしまう。


「ふふっ♡ 私の料理、やっぱり隠し味がきいてるのかな〜っ♡♡」


「……ん?」


と、俺は月城が何か言ったのか、聞き返してみるが。


「なんでもないよっ♡♡」


なんでもないらしい。そうして俺はテレビを消し、本格的に寝る準備を始める。


もう俺はテストが近い、夜更かしは体に悪いしな。




それから数十分、俺たち二人はそれぞれの寝床につき、消灯をする。


「ゆーくん、おやすみ〜♡」


「おやすみ」



♢ ♢ ♢



鳥の声、明るくなって俺は目を覚ました。


「おはよ〜。ゆーくん」


すると、今日は珍しく月城がいる。


いつもなら朝食を作りに台所にいるはずだが、今日は闇のオーラを纏った月城が俺の朝を迎えてくれた。


明らかにヤバい、そういう雰囲気を感じる。


俺、寝てる間にでもなにかしてしまったのだろうか。


なんて考えていると、月城は不気味に微笑みながら、俺に顔を近付けた。


「ところでさ〜。ゆーくん、私に黙って浮気してたの〜?」

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