第34話 勉強①
「本当か? 唯斗の噂は単なる噂に過ぎなかったということか?」
立て続けに質問をする馬場に芽衣は勢いを無くしていた。
「少なくとも私が見た限り……」
そんなやり取りが続く中、馬場は俺たちになど目もくれず、未だ信じきれないような表情を浮かべていた。
すると、放心状態の馬場を他所に月城は俺の裾を掴んできた。
「ゆーくん、早く私たちの愛の巣に帰ろうよ」
上目遣いで俺を見つめる月城はやはり可愛くて言葉が詰まりそうになる。
「誤解を招くような言い方をするんじゃない。……ま、帰りたいというのは同感だな」
俺がそういった後、月城と俺は学校を後にし自宅へと戻っていった。
馬場と芽衣はまだ何かを話しているようだが、もう俺には関係の無いことだ。
早く自宅へ戻ろう、学校は居心地が悪すぎる。
♢ ♢ ♢
「たっだいま〜!」
無事、自宅へと辿り着いた俺たち、月城は元気よく俺たち以外誰もいない部屋に挨拶をし台所へ向かっていった。
俺は月城の正体が、学校のヤツらにバレていないかだけが心配だったが鞄から勉強道具を取りだし、一目散にテーブルへと向かっていく。
なにせ今はテスト期間なのだ。
数分後、そうして準備が整い、やっと今から勉強が出来るなんて思った束の間、月城が俺の隣に座り込んできた。
「ゆーくん、何してるの?」
「無論勉強だ、近々テストなもんでな」
俺がそう言って取り掛かろうとすると、月城は何故か俺との距離を詰めてくる。
って、月城はさっき台所へ向かったんじゃなかったのか? なんでいちいち戻ってくるんだ、俺に勉強をさせてくれ。
「え〜っ! ゆーくん偉〜い!♡」
「月城の方こそ、勉強はどうなんだ?」
俺は軽く質問を投げかける。
月城の勉強状況は前から気になっていた、アイドル活動で勉強が疎かになってしまっているんじゃないかと。
「ん〜、中々出来てないんだよね」
月城は悲しげな声でそう言うと、何故か再び俺との距離を詰めてくる。
勉強のことで悩みでもあったのだろうか。
だとしたら申し訳ない、なんて考えていると月城は先程とは打って変わって生き生きとした声色で話を続けた。
「……もしかして、私のこと誘ってるの?」
「私と勉強したいってこと?!」
「ゆーくんっっっ!!♡♡ やっと私の愛に気づいてくれたの?!♡♡」
どうやら、何か盛大に勘違いされてしまったらしい。
しかし、誤解を招いてしまったところ申し訳ないが俺にはテストがあるんだ。月城に勉強を教える暇などあるはずがない。
「……生憎だが勉強は一人の方が集中出来るん──」
俺がそう言いかけると月城は押し当ててきた。
「ッおい月城、いきなり何をっ」
恐らく月城本人、押し当てるきはなかったんだろうが、俺の参考書を覗き込もうとするあまり当たってしまったんだろう。
まったく、純度百パーセントの不慮の事故じゃないか。
「いいじゃん! いいじゃん! 私に勉強教えてよ!♡」
「だからな、俺はテストが近いんだ。自分の勉強をさせてくれ」
俺はそう言って自分の勉強にとりかかろうとすると、月城は単調な声で話し始める。地雷でも踏んでしまったのだろうか。
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