第24話 飯

もう日も暮れて、カラスが鳴き始めた頃。マンションの一室で俺は窓から景色を眺めていた。


あれから、特に何事もなく昼飯を食べ終え


……いいや、月城が俺に食べさせようとしてくるのを必死に阻止し、何とか食べ終えた。


その後はブラブラと色々な店を巡り、そこそこ楽しい時間を送った。


……芽衣の件と俺の隣を歩く変装した女の正体がバレてしまわないかだけが心配だったが、特に何かが起きる、なんてことも無く、あの出来事以来からは平穏に今日を終えることが出来たと思う。


「ゆーくん! こんな所で何してたの?」


俺の居所を嗅ぎつけた月城は俺の隣に座る。距離がいつにも増して近いがそこは見逃しておこう。


「……今日のことを振り返ってボーッとな」


今日も色々な出来事があった。


月城が来てからというもの色々な出来事が重なって本当に、良い意味でも悪い意味でも退屈しないな。


「なに? 私以外の女と話をした事でも思い出したの?」


月城は冗談まじりにそう言う。


……本当に冗談なのかは分からないがそうであって欲しい。ま、冗談であっても冗談だとは思えないが。


そして、なんでそうなる。所々、妙に勘が鋭いんだよな月城は。


「い、いやいや。今日俺は月城の以外の女となんか話してないだろ?」


俺が震える声を隠すようにそう言うと月城以外にも優しく微笑んだ。


「うん。それもそっか」


純粋無垢な表情で俺を見つめる月城を見ていると、なんだが心苦しくなって来てしまうが、あの出来事は不本意なものだ。


「あ、ああ」


俺がたどたどしく返事をすると、月城は妙な視線を向けた。


「ふーん。そうだよね? 私以外の女となんか話してないもんね?」


やはり、月城は勘が鋭い。一瞬の俺の反応かを見て疑っているのか、はたまた、俺が芽衣と話したことを既に知っているのか。


しかし、いずれにせよ、これ以上月城に疑われるのはあまり良くない。


「そんなの聞くまでもないだろ? 勿論、勿論。話してなんかいない」


俺は弁明をふくめそう言って、さらに話を変えるように続けた。


「そ、それで、月城はどうしてここに?」


俺がそう言うと月城はいつもの甘々な表情に戻る。良かった、これは弁明成功と言っても差し支えないだろう。


「ゆーくん、夜ご飯は何が食べたいかなーって! ……聞きに来たの!」


どうやら月城は夜ご飯について聞きに来たらしい。


月城は可愛らしく笑顔を浮かべ、さらに続けた。


「やっぱりゆーくんの愛人として、目玉焼き以外にも好きな物は知っておきたくて!」


夕日も相まって月城が妙に可愛く見えた。


…っ俺の愛人かどうか、というのは置いていて、月城はどうやら俺の好物を知っておきたいらしい。


俺は特に嫌いなもの、というのはないのだが強いていえば好物がある。定番のあれだ。


「そういう事なら、今日は生姜焼きがいいな」


俺がそう言うと月城はハッとした表情を浮かべた。


「ゆーくん玉ねぎも好き?」


生姜焼きに玉ねぎを入れるかどうかの質問だろう。


月城は些細なことにも気がくばれるやつだ。勿論、生姜焼きに玉ねぎは必須だ。


「まあ、そこそこな」


俺がそう言うと月城は再び甘々な表情を浮かべる。


「おっけいっ♡ ゆーくんの為に愛情込めて作るから楽しみに待っててね!♡」


愛情を込めて作ってくれるらしい。月城の料理は大概美味い。今回の生姜焼きも楽しみだな。


「いつも、ありがとな」


俺が月城に微笑みかけると、月城は嬉しそうな表情をみせ立ち上がる。


「ゆーくんの為なら何だってするよぉ〜♡」


月城は立ち上がるのと同時にそう言うと、スタスタと台所へと消していった。


月城が居なくなり一人になった手前、ふと俺は携帯をみる。もう少しで俺の誕生日だ。以外と早いもんだな。


月城は、俺の誕生日覚えてるかな……?


そんなことを考え俺は携帯を閉じた。

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