第3話 告白と同棲

だが、今の俺には無理だ、学校での評判は最悪。遂には唯一の理解者である芽依にも振られた。


俺は今月城と付き合って幸せになれる気がしない。


「ごめん、それは無理だ」


「え? なんで?」


彼女は食い気味にそう言う。


この反応から察するに、彼女は二つ返事でいくとでも思っていたのだろうか。


「なんでって言われても……」


誰がなんと言おうとこれは無理だ。俺が告白を断る理由二つ目、噂、芽依云々の前に月城はシンプルに怖いのだ。


もし約束を破れば何をされるか分からない。


「……ねえ。私の他に好きな女の子でも出来たの? 出来たの? 私より大切な女の子が出来たの? ねえ?」


やはり月城は俺の考えなど、つゆ知らず徐々に徐々に追い込んでくる。その表情は暗くなっていき目に光もなくなってきている。


大切な女の子……か。残念だが、つい最近にいなくなったとこだ。今頃何をしているだろうか。俺のことなんてもう忘れているのだろうか。


何をしていようが今の俺には関係ない。もう、俺には大切な女の子などいないのだから。


「……いや、違う」


「はっ、はあ! よかった! それじゃ、私と付き合うって事でいいよね?」


そう言うと彼女の表情は、忽ち明るくなり目にも光が灯る。


「いや、それは」


俺が返事を濁すと、「はあ」溜息ひとつ吐き月城が続けた。


「なんで? 私ゆーくんの為なら何だってするよ、何だって出来るよ。またゆーくんと楽しい恋人生活を送る為に頑張って捜したんだよ? ゆーくんの為に沢山頑張れるよ??」

「私がゆーくんの事、世界で一番思ってるよ。大好きだって」


世界で一番、思っている……。


俺は今、決心が揺らいでしまっている。ああ、あの頃と何ら変わっちゃいない。押されるがままなのだ。


自分を信じよう、自分の身は自分で守るんだ。俺は密かに決心を固める。


彼女が従来通りの場合、ここで断れば、その後のことはお察し。であれば、了承すべきだろうか。


いいや、それも間違っている。こんな時には、うやむやに言葉を濁すのだ。


「ッ分かった、考えておく。……ただし期待はしておくなよ」


俺がそう伝えると彼女は、嬉しそうにしていたので、やはりこの選択肢は正解と言って良いだろう。


「うん! 私、ゆーくんの事信じてるよ!」


勿論コレは引き伸ばしをする為に言っただけの事であり、付き合うなんていう選択肢は百パーセントない。


だが、純真に、心から嬉しそうにする彼女を見ていると、どこか後ろめたさを感じてしまいそうだ。


そんなことを考えていると、ぐぅぐぅと腹の虫が騒いだ。


「ゆーくん、お腹すいちゃったの?」


「悪いな、昨日あんだけ食べたはずなのに……」


「大丈夫、遠慮しなくていいよ! また私がご飯作ってきてあげるから沢山食べてね!!」


すると月城は目を輝かせた。


なんと朝ご飯を作ってきてくれるらしい。いつもであればコンビニの弁当かカップ麺なのだが朝から手料理が食べられるとはな。


それに月城の作る料理は格別に美味い。料理人が月城出ないと思えば本当に今から楽しみだ。


……しかし残念な事に料理人は月城、今度は何らかの薬が入っていなければいいが。


「お、ありがとな」


「それじゃあ目玉焼きでいい?」


「おう、大好きだ。ありがとう」


「もう、ゆーくんったら♡♡」


いや、大好きなのは目玉焼きだからな。


そう言って月城は俺の寝ていたベッドから立ち去った。




月城がいなくなった、今俺はここから逃げようと思えば逃げることが出来る。


今後のことを考え安全に行くなら逃げ出すのが一番だ。月城から繰り出されるお仕置きは思い出したくもないほどに強烈なもの、お仕置きをいつされるか分からない状況の中過ごすのは居心地が悪い。


やはり、ここから逃げ出すべきか。いいや、もしバレたりしたら……。


いやしかし行動するべきか? なんて、俺の頭の中には色々な選択肢が飛び交っていた。


……だが




「一応言っておくけど。呉々も、ここから逃げないでね?」


「も、勿論さ」


料理の途中で台所の包丁を構える月城。


俺に為す術はないと判断し、月城が逃がしてくれるまでここに居よう、そう決意した瞬間であった。



♢ ♢ ♢



「どう? 美味しい?」


俺とテーブルに向かい合わせに座った月城は前のめりに問いかける。


「美味い。本当に美味い」


月城月乃、流石の腕前。味は絶品だ。


「良かった!♡ ゆーくんの為に頑張った甲斐あったよお♡♡」


月城は目玉焼きを頬張る俺をまじまじと見つめた。そうなると必然的に俺も月城の顔を見ることになる。


……やはり可愛い。


俺が中学生だった頃は校内で屈指の人気を博していたからな。そんな人が俺の為にご飯を作ってくれたのだ。


逃げるなんて考えていた事が申し訳なくなってくる。


そうして俺が目玉焼きを食べていると月城は真面目な顔をして唐突に話を切り出した。



「ねえ。一緒に住まない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る