スクワレルセカイ

万倉シュウ

エンディング

「これで終わりだッ!」


 手に握り締めた剣。身体を覆う鎧。そして、全身を包み込む白色のオーラ。後方で仲間全員が見守る中、俺は全身全霊の力でもって眼前の敵に剣を振り下ろした。


小癪こしゃくなッ!」


 眼前の化け物は雑音混じりの声をとどろかせた。高硬度の黒き鱗。人間を軽く踏み殺すことができるであろう巨躯。背中からは羽ばたくだけで村一つ壊滅できる巨大な翼が生え、唸る度に口の隙間から灼熱の炎が漏れ出ている。


「下等な人間如きが、神の力を手に入れし私に勝てると思うなッ!」


 翼竜の如き姿をした敵が強靭な爪でもって、俺の剣を弾き飛ばした。剣は弧を描く形で空中を舞い、天井へと突き刺さった。王城内の天井がこれほど低いと思ったことは今までに一度もない。薄暗い城内に不安に色が降りる。


「お父さんッ……!」


 後方で一人の少女が漏らす。怯えた眼差しに悲哀の色が混じっている。


「死ねェッ!」


 翼竜の口に灼熱の炎がたぎる。目と鼻の先。逃げ場はない。

 あ、と誰かが口にすると同時に、俺の視界は紅に染まった。


「いやァッ!」


 城内に少女の悲鳴が響き渡る。絶望が仲間たちに伝播してゆき、皆が一様にその惨状から目を背ける。


「まだ、だッ……!」


 俺の声が聞こえるなり、仲間たちは顔を上げた。

 両手を眼前にかざし、俺は自身と炎との間に真空障壁を創り上げていた。爆炎は真空が包む俺の身体から逸れ、空気がある周囲へと流れてゆく。


「負ける、ものかァッ……!」


 相手が炎を吐き切ると同時に、俺は高く跳躍した。天井に突き刺さった聖剣を抜き取り、天井に足をつくと、バネの要領でこちらを見上げている翼竜もとい、諸悪の根源へと剣を振り下ろした。

 この世の生物を狂暴化させ、世界を混沌へと陥れた張本人、魔王へと。


「効かぬわッ!」


 魔王は両翼を羽ばたかせた。風圧に押し返される身体。しかし、俺の身体を包み込む白色のオーラがそれを無力化する。

 両眼に映る人間が脅威へと変わったのだろう。魔王が一瞬の怯みを見せた。すかさず俺は魔王の額へと剣を突き立てた。


「グアァァァッ!」


 おどろおどろしい呻き声が城内に響き渡った。魔王が両手両足両翼を激しく動かす度に、場内の柱が一本ずつ崩れてゆく。それでも俺は握り締めた手の力は決して緩めず、そして――遂に魔王が停止した。

 翼竜は天を仰いだ状態で、まるで脆い石像のように足元からガラガラと音を立てて崩れていった。


「これで、本当に……終わりだッ……!」


 息も絶え絶えに俺は言う。後方で仲間が固唾を呑んで見守っているものの、俺は早くも勝利の余韻に浸っていた。世界を救うことができた、という達成感が全身を包み込んだのだ。

 だからこそ、魔王が崩れ落ちる間際に吐き出した言葉を気にも留めなかった。


「お前に世界は救えない」


 足元で邪悪な翼竜が崩れ落ち、ちりも残さずに消え失せた。まるで一時の夢のように。

 この世界から魔王が消え失せた。この世界は救われたのだ。

 床に着地し、後方から駆け寄って来る仲間たちに囲まれながら、俺は今までのことを回想する。長く、苦しい旅のことを――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る