第8話
「たとえ血が繋がっていなくても、たとえ私を殺そうとした相手でも私は慈愛を与えたいと思います。だって、私はお父様とお母様の子、人の子ですもの」
必死にリリスのところへ駆け寄ろうとしている二人を見れば、私もそうでありたいと思った。
魔法使いさんは「本当にキミは優しすぎるんだから・・・」と苦笑いする。
「人の神を語った裁判なんてするし、実際の神の審判の結果はご覧のありさまだよ? 人間のおままごとよりも、尊重すべきことなんだから、キミが罪を受け入れたように彼らも罪を受け入れるべきじゃないかな?」
「それでも・・・です」
「でも、そうしたら、ただの炎に戻すってことでしょ。僕が持ってきた本物の煉獄の炎なら、あの裁判官風情の男が言うようにキミは燃えることも無いし、痛みもない」
魔法使いさんはカベルを持って、その場で倒れそうになっている裁判官を指さした。
他の人よりは大分ましのようだけれど、年配なのでお身体が心配だ。
「私は人が傷つくのを見るのより、自分が傷つく方がいいです」
「その考え方は嫌いだよ、ミーシャ。僕らは魔法使いだ。世界で誰かが利益を得たら、誰かが不利益を被るようなゼロサムの発想じゃなくて、みんなを幸せにする方法を考えるべきだ」
少しムカッと来た。
(それなら・・・)
「それなら、魔法を禁止するなんて、おかしいでしょって思った顔だね。でも、ボクにはこうなることはビジョンアイを使うまでもなくわかっていたよ」
私の言いたいことを察した魔法使いさん。私は膨らませていた頬を引っ込めて、気持ちを落ち着かせる。魔法使いさんは希望的観測もしない。人間の在り方を冷静に分析し、きっとその結論を出したのだろう。
「世界を煉獄の炎で包み込んで、生き残った人間だけで平和で幸せな世界を作るのもありじゃないかな? いうなれば、ノアの箱舟以来の人類の選定さ」
「それは、人間の行っている魔女狩りと一緒ではないですか。それは、傲慢だと思います。魔法使いさん」
「あぁ、そっか。それもそうだね。ごめんごめん」
俗世を離れて、人との関わりを断っている魔法使いさんは、純粋がゆえに素直な意見を言うところが少し怖い。けれど、お伝えすれば、ちゃんと理解して、考え直してくれるところもいいところだ。
「でも、キミを傷つける人を許せないな。ボクは」
そして、何より私のことを大事に思ってくださる魔法使いさん。
変な人であることは重々承知だ。
けれど、この屈託のない顔や態度に私は昔抱いた感情以上の想いを胸に抱いているのを感じた。
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