第6話

「もし、神が許すのであれば、この煉獄の炎。決して汝を傷つけることなく天へと誘うであろう」


 アレンに雇われた牧師が私に神の声だと言って、私に声をかけてくるけれど、ただの普通の炎。


 こんな炎、人間に火をもたらしたと言われている神、プロメテウスだって、盗もうとは思わないだろう。


 というか、熱い。

 仮にこれが身を清めるための炎だとしたら、炎から生み出されたこの熱はどう説明するのだろう。


 私が逃げないように見張っている兵士さんなんて、めっちゃくちゃ汗をかいて、私以上に苦しそうですよ?


 それに私たちより炎から遠いリリスやアレクたちは熱さに下品に舌を出してますけど、この炎が煉獄なら私より燃やした方がいい人たくさんいそうですよ?


(なーんて、言っても無駄でしょうね・・・)


『なんで、魔法を使わないんだい?』


 懐かしい声が私の脳に直接声を掛けて来た。

 遠い遠い昔に聞いた声なのに、すぐに誰なのかわかった。

 

 お師匠の魔法使いさんだ。 


(死刑ってことは、もう捨てちゃってもいいかしら。人の生き方を)


 私はゆっくりと首を振る。

 自分に都合の悪い結果だから、魔法を使うのって、なんかダサい。


『ふふっ、やっぱりキミは本当に優秀な弟子だ。そんなキミがこんなところで死んでしまうなんてボクには許せない』


「いやです」


 私は思わず呟いてしまった。

 すると、誤解した兵士の2人がビビった顔をする。

 私は会釈をして、彼らに誤解ですと弁明する。


『なぜだい・・・?』


 魔法使いさんも少し困った声で私にメッセージを伝えてくる。

 どうしようか、私もテレパシーを使ってもいいけれど、魔法を使うことになる。


『あぁ、そういうことかい。なら・・・』


 パチンッ


 会場のどこかで、指を鳴らす音が聞こえた。


「あっ・・・」


 炎から黒い炎が消えた。

 綺麗な炎は赤の純度が増して、先ほどまでの熱風が心地よい温かい風に変わった。


「「「ギャアアアアアアアアアッ」」」


 阿鼻叫喚。


 私は、何が起こったのかと周りを見ると、隣にいた兵士たちは跪き、多くの大人がその風に苦しんで叫んでいる。


(良かったっ)


 お父様とお母様は怯えながら抱きしめあって、周りを不安そうに見ていたけれど身体に異常はないようだ。それに子どももほとんどの子が困惑しながら周りを見ている。


「ギャアアアアアアアアッ!!!!!!」


 ―――1人。


 ただ1人。

 己の身を激しく燃やす女がいた。


「見ちゃダメ・・・っ」


 大きな子どもが、小さな子どもにその醜い姿を見せないように顔を抱きしめる。


「リリスっ・・・」


 私の妹、リリスだ。




 

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