「全力集中型勉強法」
「まず全力集中型勉強法をする方法を教えるね」
「よろしくお願い致します」
「前提条件として、ながら勉強は絶対にしないこと。何でながら勉強がダメなのかは分かったよね?」
恵里はさっき里菜が話した話を思い出しながら言葉を返した。
「勉強にかかる時間が増えちゃうから」
「そ。しっかり内容が入ってるね。集中するために他には何が必要だと思う?」
「うーん、いっぱい寝ること!」
恵里は明るい声でそう答えた。
「なんと、正解。睡眠は勉強をする上で一番最強の相方。そこに着眼点を置くとは、お主も中々やるのお~」
「ふははは、そうじゃろそうじゃろう」
恵里は人差し指で鼻の下を触りながら、笑みをこぼす。
「腹が減っては戦はできぬという感じに、眠いのに勉強はできぬっていう言葉があってね」
「それって誰の言葉?」
恵里が里菜の言葉に重ねた。
「私の言葉」
そう答えると、恵里が「おー」と感心しながら言った。そして二人の間には笑いが満ちた。
「まあ、そんな感じで勉強するためには睡眠が必要なの。そんなこと誰でも分かるでしょ?だけど、テスト前になるとこんな単純なことも皆忘れちゃうの」
ごくり、と恵里の喉が鳴った。
「テスト当日の朝、よくいるでしょ。昨日二時まで勉強してて、睡眠時間四時間だわー。勉強してたのは昨日じゃなくて、今日か。とか言ってる人」
「あー、いるいる。私ね」
と恵里が返す。
「そう。今考えると、自分がやってたことが良くないって客観視出来るでしょ。勉強法を探るときには自分を客観視することが大切だから」
「なるほど、自分を客観視するか」
「うん。取り敢えずテスト当日には八時間以上寝ること。私は絶対にそうしてる」
そういうと、恵里は問を投げかけた。
「けど、そうすると勉強時間が足りなくない?」
「勉強時間は三時間で足りる。でしょ?」
里菜がそうドヤ顔で返すと、恵里は深く頷いた。更に里菜が説明を追加する。
「今まで勉強に回していた時間を睡眠に当てるんだから、問題は全く無い。むしろ、睡眠をたくさん取れてプラスになる」
「睡眠が勉強のときのご飯だもんね。いっぱい食べたらいっぱい勉強出来るね」
「その通り。それじゃあ、他には何が必要になるか分かる?」
「うーん、分からないや」
「それは、"疲れた瞬間に"休憩するってこと」
「疲れたら、休憩するのね」
「違う、疲れたと思ったその瞬間に休憩する。瞬間にって言うのが大切。何でだか分かる?」
里菜がそう問いかけた。恵里は暫く思考を駆け巡らせる。そして、答えが出たのか、閉じていた目を開けた。
「疲れると勉強の質が下がるから、だ」
「だいせいか~い。良く出来ました」
そう言い、里菜が恵里の艷やかで滑らかな髪を優しく撫でた。恵里は「えへへ~」と言いながら、顔を赤くした。
「この勉強法では如何に自分のパフォーマンス、勉強の効率を最高の状態で保ちながら勉強するのかが鍵になってくる」
「全力集中型っていうのはそういうことだったんだね」
「そして、常に全力で勉強していると段々と全力、百パーセントで出せる力が増えていく」
「それはお得だね」
「だからパフォーマンスを最高の状態で維持するために疲れた瞬間に休憩するのがとても大切になる」
その時、里菜が手を下のほうで振った。すると、恵里の視線は視線と里菜の手にいった。
「はい、私の手見たー」
「えっ、だ、ダメだった?」
「違う違う、私が言いたいのはね、人間というものは動いているものに自然と目がいっちゃうってこと。なんとこれがね、勉強中でも起きるの」
「動いているものに目が行くなんて、猫みたいだね」
そういい恵里が笑みを浮かべる。すると、里菜が恵里の顎をまるで猫を愛でるかのように触りながら説明を続けた。
「そう、目が行くのはもう本能だからどうしようもない。そんなものが勉強中にあったら集中できないでしょ?だから、動いているものが視界にない場所で勉強するのが必要になってくる」
「確かにリビングとかで勉強すると、視界の端でも親とかが通っただけでそっちに目が行っちゃうもんね」
「人間の集中力っていうのは、数秒で切れるの。だから、その一瞬見ただけでも、著しくパフォーマンスが下がっちゃうわけ。私のおすすめとしては、自分の部屋で勉強することかな。自分の部屋が無い場合は、よく塾とかである机の左右に仕切りを立ててするとかが良いかも」
「私は自分の部屋があるから自分の部屋でやろっと」
「視覚をシャットアウトしたけど、まだシャットアウトした方が良いものがある。なんだか分かる?」
「聴覚?」
「正解、案外聴覚を遮断するという考えに至る人は少ないと思う。だからここからの話は高順位の人でもしてることが少ないから、差を着けられる部分だよ」
「そんな情報を……ありがとうございます」
恵里がお辞儀をした。それに「いえいえ」と里菜が返し、お辞儀をした。
「聴覚を遮断するには耳栓がまず思いつくと思う」
恵里は頷いた。
「けど、私がそれ以上におすすめするのがノイズキャンセリング付きのイヤホン」
「あれって結構高くなかったっけ?」
「確かに高い。けど、それ以上の価値がある。それじゃあ、試しに使ってみようか」
そう言い、里菜が立ち上がり、本棚にある充電器からスマホとイヤホンを取った。そして、恵里に家の外に出ようと言った。
「それじゃあ、これを耳に付けて」
そう言われて恵里がイヤホンを耳に付けると、外の音が少し小さくなった。ただ、そこまでではない。
「まだノイズキャンセリングしてないからね。それじゃあ、オンにするよ」
そう言われたのと同時に、恵里の周りの音が全て消え去った。まるで水の中に入ったかのようだ。さっきまでしていた車の走行音も全くしない。その時、里菜に肩を叩かれた。イヤホンを取ると、自分が名前を呼ばれていたということに気がついた。
「どうだった?ノイズキャンセリングイヤホン」
「なんか世界が私だけになったみたいだった……」
「耳栓は音をある程度を減らしてはくれるけど、今の無音状態を体験しちゃうと、してもあまりって思っちゃう。圧倒的にこのイヤホンは周りの音を消してくれるからおすすめだよ」
「さっきの時間は別世界にいたみたいだったよ、今度買ってみようかな」
「うん、視覚と聴覚を改善すると集中力が全然変わるからね。あと、イヤホンの線が絡まるストレスも無くなって尚良だしね」
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