ここは妙に整った世界、そんな気がただしている
雨空 凪
1
風が強くなってきた外で、洗濯物は逃げ出したいとでも言わんばかりにはためいている。
今日は空風がいつも以上に強い。
壁越しでもそれくらいはわかる。
壁を打ち付ける風がとてもうるさいからだ。
憂鬱な色をした世界にため息をついた。
手伝いのためとはいえ、さすがにこの中に出ていくのは嫌だ。
それに、この仕事は半ば強引に引き受けさせられた仕事だ。
余計に気が向かない。
「何で自分が」
という言葉がため息と共に出てくる。それだけ。
きっと鏡を見れば苛立ちを隠すつもりのない顔が見えてくるのだろう。
絶対に見たくない。
だから真横にある鏡から無意識に顔を逸らしている。
これをわかっている時点で無意識じゃないということは私も分かってはいるが、、。
まぁ、そういうこともある。
ただそれでちょっとだけ良いこともある。
そらすことで見えてきたこの部屋だ。
人のいない2階の静けさは落ち着ける。
でもこの部屋に座れる場所はない。
床のみだ。
なぜなら、ここは役目を終えた部屋だからだ。
家族全員から「お疲れ様」と言われてもいいくらい頑張った部屋だ。
といっても部屋に労いを向ける、という思考をするのは生憎私だけなので私だけで言っておく。
「お疲れ」
まぁ、こんなイライラしてる奴に言われても嬉しくないだろうけど。
私はそんな皮肉を思いつき脳内で再生する。
この部屋の中心にはキャリーケース。
ベランダへ出ることが出来る窓から夕映えが、最後だからおすそ分け、とでも言うように入ってくる。
がらんどうとはこのことか。
心無しか部屋が寂しそうに見える。
何だか私まで寂しくなってきそうで頭を仕事に切り替えた。
私は今、そんなセンチメンタルな気分に浸っている場合じゃない。
さぁベランダに出よう。
夕映えのおすそ分けじゃあ何か悔しいから本物を見てやろう!と。
窓を開けて、日に当たって縮んだサンダルを履いて、坂の上にある家のベランダから眼下を見下ろし、坂に沿って立ち並ぶ家の屋根を見て空を仰いだ。
嗚呼。
私はさっき言葉を少し間違えたんだな。
これは夕映えじゃない。
どちらかと言うとマジックアワーのが合っている。
少しその場から動けなかった。
現在私は2回目のマジックアワーに圧倒されている。
残念ながら初めてではない。
空には鱗雲があって、雲すらオレンジ色に染められていた。
私は、簡単に染められるな!と呟きつつも綺麗だなと思っていた。
空風が強い。
首にかかる黒いイヤホンから流れる音楽をなぞる私の声をかき消している。
そうしてくれてありがたいほどに。
1人で外に出ると何故か安心する。
そんな私を洗濯物と風が肯定してくれているようで顔が綻ぶ。
ふと、イヤフォンから聞こえてきた言葉にそうかもしれないと作詞した人に共感した。
そして、
「やっぱりこの人は神だ」
と深く頷きながら呟く。
最近、クラスが嫌いで病みかけの私の治療薬となっている音楽。
これを創りあげているこの2人を私は感謝すると共に尊敬の念を抱いている。
「これからもどうぞ助けてください」
だから私はそう呟いた。
さて。
そうだな、、、、。
この鮮烈な光景も夢、、、なのだろうか。
さっき共感した歌詞から、こんなことを連想する。それなら夢でもいい。
でも忘れたくない。記しておこう。
そうやって私は今日みたいな考えを毎日飽きずに繰り返している。
なのに、
「私の人生は物語みたいに起承転結で終わってしまうような淡々としたものじゃないんだから!」
と、何故か豪語していたー。
fin.
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