第70話 想像を超えた力

 冒険者集団を返り討ちにするのは予想できたが、あのワイバーンでさえこれほど軽くあしらってしまうというのは素直に驚いた。


「見事……としか言いようがないな」


 リチャードさんたち騎士団の方々は、みんな顔を引きつらせながらそう語る。

 そりゃあ、そんな表情にもなっちゃうよなぁ。

 俺だってまさかここまでやるとは思ってもみなかった。


 その後、ミアンが探知魔法を使用して周囲に危険がないと分かると、学園内の一部で非常警戒態勢が解除された。ここでスミス副学園長やサラと合流し、今後についての話が行われる流れになった。


 

 事件の黒幕たちにとって、この早期解決はすべての計算を狂わせる結果を招いた。

 そもそも、ワイバーンは時間稼ぎ程度の役割のはずだったが、それすら叶わずに終わったため、控えていた他の軍勢もあっという間に拘束されてしまう。


 向こうからすれば、もっとこちら側の戦力は消耗する予定だったろうが、戦力はほぼ健在のまま【深海の太陽】のメンバーを捉えることに成功した。


 驚くべきは、ヤツらの手口。

【深海の太陽】は雇い主からの依頼でさまざまな冒険者パーティーに声をかけ、あらゆる手口を使って今回の作戦に協力をさせていた。【星鯨】の場合はテリーザという若い女性を使ってブリングを手駒に引き入れたらしい。


「ブリング……予想はしていたけど、まさかこんな終わりを迎えるなんてな」

「本当にね……」


 かつてともに【星鯨】のメンバーとして活動していた俺やサラは複雑な心境であった。

 しかし、今回の件であくどい連中は捕まり、冒険者界隈も少しは穏やかになるだろうとリチャードさんは呟いていた。


 肝心の黒幕についてだが、こちらはキュセロ学園長の回復を待ってから行われるらしい。

 とはいえ、スミス副学園長やリチャードさんたちは、すでに目星をつけているようで、秘密裏に証拠集めを開始しているという。これについては捕らえた【深海の太陽】のリーダーであるステイトンが取引に応じ、重要な手がかりを吐きだしているため時間の問題だろう。


 ともかく、俺たちにやれるべきことはもう何もない。

 あとは騎士団やお偉いさんたちにお任せしよう。


 ――ただ、今回の件を解決に導いた陰の功労者は、間違いなくワイバーン討伐に参戦した六人の生徒たちだ。


 現場でその実力を目の当たりにしたリチャードさんたちは、それをよく理解しており、近いうちに勲章が授与されるだろうと言い残して学園を去っていった。


 勲章授与、か。


 俺には縁遠い話ではあるが、彼らがそれを受け取るとなると、なんだか自分のことのように嬉しくなる。


 若い彼らには今回の件で自信をつけてもらい、今後さらに飛躍していってもらうのを願うばかりだ。



 ――そして時は流れ……







※本作は次回で一旦終了となります。

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