第52話【幕間】誘い

 評判がガタ落ちしていく冒険者パーティー【星鯨】であったが、新たにテリーザが加わってから状況は改善傾向を見せていた。


「さすがは俺の見込んだ女だ。これからも期待しているぜ、テリーザ」

「任せてよ、ブリング」


 公私ともに良きパートナーになっているブリングとテリーザであったが、そのふたりをよく思わない者も存在する。

 それが、ブリングを除く初期パーティーのメンバー三人だ。

 バランカ、ネビス、アリーの三人は、先の地底竜討伐作戦失敗によって負った【星鯨】のマイナスイメージの責任をすべてブリングに擦りつけて心機一転を図ろうとしていた。


 だが、ブリングはここへ来て再起した。

 原因は間違いなく新メンバーのテリーザだろう。

 彼女の活躍によって、【星鯨】は息を吹き返した――と、まではいかない。

 なぜなら、パーティーの調子がよくなってくると、ブリングに以前のような傲慢さが戻りつつあったからだ。前回の失敗を生かして殊勝な態度を取りつつ、真面目にクエストをこなしていれば安泰だったのだろうが、彼の性格がそれを許さなかったのだ。


 再び一流パーティーへと返り咲こうとしていた【星鯨】――そんな中、テリーザはメンバーを宿屋の自室に集めてある提案を行う。


「実は……今日のクエストを達成して、ギルドへ報酬を受け取りに行った時、ひとりの男に声をかけられたの」

「声を? そいつは何者だ?」


 バランカが尋ねると、テリーザは得意げに答えた。


「【深海の太陽】――名前くらいは聞いたことあるんじゃないですか?」

「「「「!?」」」」


 その名が出た瞬間、四人の顔は一斉にテリーザへと向けられた。


【深海の太陽】……冒険者稼業をしている人間であれば、聞いたことのない者など存在しないと断言できるくらい有名なパーティーだ。実績も豊富であり、複数の国家の王家ともつながりがあるという。

 全盛期の【星鯨】であっても、さすがに【深海の太陽】の前では霞んでしまうと言えた――それくらいのビッグネームなのだ。


「そ、それで、【深海の太陽】はおまえになんて言ったんだ?」

「自分たちと一緒に仕事をしないかって」

「なっ!?」


 それはまたとないチャンスだった。

 自分たちよりも圧倒的に知名度が上である【深海の太陽】と仕事をすれば、さらに自分たちの評判は上がるだろう。

 おまけに、【深海の太陽】が自分たちだけでは手に負えないと判断し、協力を仰いできたということは相当大きな案件であると推察できた。


「とりあえず、メンバーと相談してみるって言っておいたわ。彼は今もこの町の別の宿屋に泊まっていて、明日までに返事が欲しいんだって」

「あ、明日か……」

「私としては、前回の失敗が原因でついてしまった【星鯨】の悪いイメージを払拭する絶好の機会だと思うんだけど……どうかな?」


 テリーザのこの言葉が決定打であった。

 世間からすっかりマイナスなイメージが定着してしまい、ろくなメンバーが集まらなくなった【星鯨】が、以前のような勢いを取り戻すにはこの大きな波に乗るしかない――ブリングはそう考え、テリーザからの提案を受け入れた。


 一方、いずれはパーティーを去ろうと目論んでいたバランカたちにとっても悪い話ではなかった。


 このままパーティーが低迷を続けるなら見切ろうと考えていたものの、【星鯨】がかつての輝きを取り戻せるのであればそれに越したことはない。わざわざ新規にパーティーを作ったとしても、一から実績を重ねるのは大変だと判断しての賛成だった。


「決まりですね。じゃあ、明日にも相手と会って、【深海の太陽】と合流しましょう!」

「ああ、それがいい」


 こうして、超一流パーティーと合同でクエストに挑むこととなったブリングたち。

 ――破滅への第一歩とは知らず、彼らはありもしない未来へ思いを馳せるのだった。

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