第40話【幕間】起死回生の策

 地底竜の討伐失敗以降、【星鯨】の名は地に落ちたまま這い上がってくる気配さえない状況が続いていた。

 有力な冒険者たちは次々と辞めていき、全盛期には五十人以上いたメンバーも、今や十数人程度しか残っていない。おまけに、その数少ない人員は他のパーティーでも雇ってもらえそうにないクズばかりときている。


 リーダーのブリングはイライラが収まらなかった。すべてはパーティーを根幹から支えていたルーシャスを追いだした時から始まっているのだが、もともと彼を目の敵にしていたブリングにとって、それは到底認められない事実であった。


 悪いのは俺じゃない。

 無能で役立たずの手下どもだ。


 ブリングの思考はこれで埋め尽くされていた。

 おまけに、今日はギルドへ顔を出しても達成できそうなクエストもなく、苛立ちはさらに募っていく。


 そんな時、


「失礼。あなたはもしや……有名な【星鯨】のリーダーを務められているブリング殿では?」


 そう声をかけてきたのは、若い女性だった。

 バッチリとメイクを決め、露出の多い派手な服装を身にまとう美人に声をかけられ、さすがのブリングも一瞬怯む。

 ――だが、思考はすぐに自分の都合の良い方向へと流れた。

 ここのところずっと腹の立つ出来事ばかり続いていたのだから、そろそろこんな美人に心身ともに癒してもらおうと考えたのだ。


「俺のことを知っているのか?」

「もちろん! あなたは有名人ですから! 私はまだ駆けだしの冒険者ですど、いつかあなたのような凄腕の冒険者になりたいって常々思っています」

「そ、そうか」


 美人に手放しでほめられて満更でもない様子のブリング。

 こうなると、その性格上さらに調子に乗っていくことに。


「おまえ、名前は?」

「テリーザです」

「ならばテリーザ……うちのパーティーに入らないか?」

「い、いいんですか!?」


 憧れていたブリングからの誘いに、テリーザは大喜び。

 結果、その日のうちに彼女の【星鯨】入りが決まったのだった。



  ◇◇◇



 新メンバーのテリーザは入った直後から大活躍だった。

 剣や魔法の腕は一級品で、何よりもダンジョン攻略における知識が豊富だった。

本人曰く、もともと冒険者という職業に憧れており、小さな頃からいつか役立てようと知識を蓄えていたという。


連日の活躍に、ブリングは「いい拾い物だぜ」とほくそ笑んた。

彼としてはパーティーの仲間としてだけではなく、もっとプライベートな領域で親密な仲になろうと近づいていたようだが、テリーザはそれをやんわりと断っていた。

とはいえ、サラの時のように心底嫌がっているようではなく、「まだ出会って間もないですから」と奥ゆかしい態度を取るテリーザに対し、ブリングは身持ちが固いのだな程度に認識していた。


 久しぶりに現れた、パーティーを救うかもしれない凄腕の新米冒険者。

 ――だが、この時はまだ誰も気づいてはいなかった。

 彼女こそが、【星鯨】解散のトリガーになる女だとは。

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