第19話 再会

 やはり、学園街に姿を見せた不審者の正体はリゲルだった。

 それにしても……【星鯨】の若手では文句なくナンバーワンの実力を誇っていた彼が、単独で一体何をしていたのか。


 事態を聞いて駆けつけた学園長からの許可を得て、俺はリゲルから事情を聞くことにしたのだった。

 


 場所を学園街にある自警団の詰め所に変え、リゲルに経緯の説明を求めた。

 ちなみに、ここにもミアンさんが参加している。


 学園でもトップクラスの実力がある彼女は、自警団の活動にも参加しているらしい。立場を考えたら、真っ先に護衛が飛んできそうなものだが……まあ、闘技場での戦いぶりを見ている限り、相当な使い手でもない限りミアンさんをどうにかしようなんて無理な話だな。


 そういう安心感もあってか、詰め所へ入るのもあっさり許されていた。

 

 ――っと、話が逸れたな。

 肝心なのはリゲルについてだ。


「久しぶりだな、リゲル」

「はい! お元気そうで何よりです!」


 俺の百倍は元気よさそうに答えるリゲル。

 その瞳はキラッキラに輝いていた。


「あぁ……そのぉ……なんだ……どうしてここに?」

「師匠を追ってきました!」

「俺を?」

「師匠がいないのであれば、【星鯨】に残る理由はありませんので!」


 ハッキリと言い切っちゃったよ。

 ……まあ、確かにリゲルは俺によく懐いていたし、ブリングたちのやり方に反発をしている節はあった。

 俺としてはせっかく素晴らしい才能があるのだからリーダーを敵に回すことはないと忠告をしていたものの、リゲルはブリングの抱える「報酬額第一主義」って考えが気に入らなかったらしい。


 実際、これについては彼以外からも疑問の声が出ていた。

 冒険者の評価は実績で決まる。

 その実績は報酬額の高さ――つまり、こなすクエストの難易度が高ければ高いほど評判となるのだ。

 ブリングは富と名声を同時に得られる高難易度クエストに目をつけ、それをメンバーに強要していた。最古参のメンバーは俺の育成スキルにより強化されているため、ある程度はこなせるのだが……経験の浅い者はそれについていけず、大怪我を負ったり、精神的に参ってしまってパーティーを去っていった。


 だが、そんな現状でもブリングは方針を見直すことはせず、手当たり次第に冒険者を加えては危険なクエストに挑み続けていた。


 おかげで【星鯨】はギルド内のランキングでも常に一位を取り続け、俺が抜けるちょっと前には殿堂入り目前とまで言われるほどにまで成長を遂げる。


 ――とはいえ、そのブリングも大いに期待していたリゲルが抜けてしまったのは誤算じゃないかな。彼の離脱は俺とは比べ物にならないくらい、パーティー内で物議となるだろう。


「なるほど……」


 ふと気づくと、俺のすぐ横に座るミアンさんはジッとリゲルを見つめている。

 それから、何かに気づいたのかボソッと短い言葉を吐きだした。


「あ? 何見てんだよ」

「リ、リゲル!?」


 まずい。

 貧民街の出身で、幼い頃から冒険者稼業をしているリゲルは貴族とか爵位とか、そういうたぐいの話が分からないのだ。

 今だって、「なぜこの場所に自分と同じくらいの女がいるんだ?」程度にしか思っているのだろう。

 この態度にはさすがに後ろで見守っていたサラやノリス先生も固まってしまう。

 ――で、肝心のミアンさんはというと、


「ふふふ、面白い方ですね、あなたは」

「面白い? 別にそんなことを言った覚えはねぇけどな」

「そうですね。あなたにとってはそうなのでしょうけど……でも、私にはとても面白く感じました。そういう話し方で接してくれる人は今までいませんでしたから」

「そうなのか?」

「ねぇ、あなたは冒険者なのでしょう? 話を聞かせてくれませんか?」

「えっ?」


 まさかの提案にたじろぐリゲル。困り果てて俺へと視線を送ってくるが、それに対する俺の返答は――黙って頷くことだった。


「……分かったよ。それじゃあ、この前ダンジョンを探索した時に出会ったクモイノシシについて――」

「クモイノシシ!? それはクモなんですか!? イノシシなんですか!?」


 変なところに食いつくミアンさん。

 リゲルもまさかこれほど話に乗ってくるとは思っていなかったのだろう。困惑しながらも話始め、次第にふたりの間には笑顔まで出るようになった。


「ふ、不思議なことがあるものですね……」

「いやはや……どうしてよいものやら……」


 意気投合するふたりの若者を前に、サラとノリス先生は目が点になる。

 まあ、かく言う俺も似たような反応だ。

 ……案外、このふたりはいいコンビになるかもしれないな。



 結局、その日は夜になるとミアンさんの家から使いが来て、寮に戻ることとなった。

 その一方で、リゲルは一旦俺の管理小屋で預かることに。

 ラドルフは「また訳の分からんヤツが増えたにゃ!?」と騒いでいたが、状況を説明してなんとか落ち着かせる。こいつが一番動揺していたな。

 ……まあ、ひと目見るや「師匠、これは非常食ですか?」と悪気なく言い放ったリゲルにも責任はあるんだけどな。


 ともかく、学園長にもそのことは伝えてあるので、とりあえずはひと安心か。

 ――だが、本当の意味で驚くのはこの後だった。

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