第16話 新たな相棒?

 俺を監視するつもりらしい猫型の使い魔ラドルフ。

 花壇の手入れをしている間も、ジッとこちらを見つめていたが……学園長の使い魔という話はどうも本当っぽいな。


 作業はひと段落すると、今度は闘技場へ向かう。

 目的はもちろん――生まれ変わったフィナの戦いを見守るためだ。


 本来は炎属性でありながら、彼女は風属性にこだわっていた。過去の記憶がそうさせていたのだが、今ではそれを克服できたようだ。

 おまけに、彼女の炎属性魔法使いとしての資質はかなりのものだと分かった。

 きっと、今日の戦いぶりを見れば、他の生徒は驚くだろうな。そういう意味では、今日がフィナにとって真の意味でのデビュー戦と言って差し支えないんじゃないかな。


 ちょっとワクワクしながら移動していると、


「闘技場にゃ……あそこはあんまり好きじゃないにゃ」


 俺の後ろをトコトコとついてきながら文句を口にするラドルフ。

 作業が終わって闘技場へ行こうとしたら、「怪しいから吾輩もついていくにゃ!」といってついてきたわけだけど……好きじゃないなら管理小屋で待っていていいぞと伝えたところで、きっと「吾輩の見ていない所で何をする気にゃ!」と抗議の声をあげるのは目に見えているので黙っておく。


 闘技場へ到着すると、ちょうどこれから試合が始まるようだ。


「間に合ってよかった」


 ホッと胸を撫で下ろしていると、


「やっぱりあなたも気になったみたいね」


 サラに声をかけられる。

 ……というか、やっぱりって――サラもフィナがどのような戦いをするか気になっていたようだな。

 それと同じくらい気になるのが、俺についてきたラドルフだろう。


「えっ? ラドルフ?」

「にゃっ!? サラ先生!?」


 そういえば、ふたりには面識があったんだったな。


「サラ、この子が学園長の使い魔っていうのは本当なのか?」

「えぇ、そうよ。学生寮で働く管理人をサポートしてくれるわ」

「サポート役? 俺は監視目的って聞いたけどな」

「そんな大層な役を任せたりはしないわよ」


 あっけらかんと言い放つサラ。


「でも、前任がいなくなると同時に姿を視なくなったから、てっきり契約を解除したのだとばかり思っていたのだけど……」

「平然と恐ろしいことを言わないでほしいにゃ!」

「はいはい。ごめんなさいね」

 

 涙声で訴えるも軽くスルーされるラドルフ。彼の学園での立ち位置が透けて見える対応だった。

 とはいえ、この学園についてまだまだ分からないことの多い俺にとっては助けになるのは間違いない。できれば、仲良くやっていきたいな。


「それなら俺にいろいろと教えてくれよ、ラドルフ」

「……まあ、そこまで言うなら仕方がないにゃ」


 本人はどこか不満そうだったが、サラ曰く「これでも嬉しいのよ」とのこと。バレると否定しようとしてやかましいからか、こっそり耳打ちで教えてくれた。


 そうこうしているうちに、フィナの試合が始まる。

 相手は女子で、同学年の騎士見習い。

 魔法対剣術の戦いか。


「はあっ!」


 試合開始早々に、騎士見習いの女子生徒がフィナへと突っ込んでいく。 

 サラの情報によると、対戦相手はレミーナという名前で、学園内でもトップクラスのスピードを誇っているらしく、それによって相手を翻弄させて来るのがお決まりのパターンなのだという。

 これまでのフィナの実績からすると、ミアン様ほどではないが格上の相手となる。

 

 ――だが、フィナに気負っている素振りは見られない。

 昨日、ミアン様と対峙している時は常に追い込まれているような顔つきで、動きもどこかぎこちなかった。

 しかし、今日はそのような固さは見られない。


 フィナは魔力を炎へと変えて、向かってくるレミーナへ放つ。

 風魔法しか使ってこなかったフィナがいきなり炎魔法で攻撃をしてきた――この事実に動揺したレミーナは一瞬怯んで動きが止まる。

 だが、そこは格上というだけあり、すぐに立て直して反撃に移ろうとする。

 

 これに対し、フィナはなおも炎魔法で追撃。

 しかも、今度は先ほどと比べ物にならないレベルの広範囲で攻撃を行った。


「す、凄い!?」


 思わずサラが叫ぶ。

 俺もラドルフも、フィナの攻撃範囲の広さに目を奪われた。

 広いというか……もはや逃げ場はない。

 舞台のあちらこちらから火柱が発生して、レミーナの逃げ場を奪っていく。


 実戦形式の鍛錬では、事前に教師から防御魔法として全身に魔力で生みだされた透明のシールドが施されており、それが破壊されたら試合終了となる決まりだ。


 ――で、フィナはそのシールドを一撃で破壊してみせたのである。

 闘技場に集まったすべての者は、昨日までとはまるで違うフィナの戦い方に茫然。

やがて、審判役の職員がフィナの勝利を宣言すると、闘技場内は歓声とどよめきが入り混じった熱気に包まれる。


 そして、フィナは俺たちを発見すると、満面の笑みを浮かべて手を振った。

 それに応えつつ、俺とサラは見事に覚醒したフィナの勝利を心から喜ぶのであった。

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