第43話 最初っからトイレにイケば良かったんじゃない

「ちっ、千春ちゃん!」


「なんだ、パル子。と言うか、もうちょっと体を密着させてくれないと、重心がブレておんぶしづらいんだがなぁ」


 そっ、そんな事出来る訳ないでしょ!


 だっ、だって、だって。

 私のカチコチになったカチコチくんがカチンコチンと背中に当たったら、流石の千春ちゃんだって、このカチコチはドコのカチコチだい? って思うに違いないもの。それが、私のカチコチくんだってバレた時には、私のカチコチくんは一体どうすれば良いの? ねぇ、どうすれば良いって言うの?


「ごっ、ごめんね。ちょちょ、ちょっと、トイレに寄っても良い?」


「あぁ、そうか。分かった。私が扉の前で待っているから。ゆっくり用を足すと良い」


「千春ちゃん。わざわざそんな所で待ってもらわなくってもぉ」


些細ささいな事だ。気にするな」


 いやいや、気にするなって言われても、『はい、そうですか』って言う人なんてどこにもいないよぉ!


「パル子。今は放課後だし、この茶室がある棟は殆ど生徒がおらんからな。もし何か不測の事態があっては困る。私がココで待機しているから、思う存分、大でも小でも用を足すと良い」


「は……はぁ……。はい、そうですか」


 たぁ!

 『はい、そうですか』って言ってしまう娘がこんなトコロにっ!

 こんな身近な所に居てしまったわぁぁ!


 だって千春ちゃんって、言い出したら聞かないんだもの。

 どれだけ説明したって、きっとメチャメチャ論理的に反論して来るんだもの。

 だってだって、千春ちゃんって、頑固者なんだものぉ!


「そっ、それじゃあ、失礼して」


「あぁ、時間は気にせず、思う存分、用を足して来い」


 思う存分って……。

 でもどうしよう。

 コレ……全然収まらないんですけど。

 全く収まる気配すら感じられないんですけどぉ!


「ふぅ……」


 仕方ない……抜くか。


 そうだね。

 それが一番手っ取り早いよね。

 こう言う時って、男子の体ってとっても便利。

 とりあえず抜いちゃえば、確実に収まっちゃうからね。

 うんうん。

 そうしよ、そうしましょ。


 ――ゴソゴソ


「おい、パル子」


「ひぃっ! なっ、何? 千春ちゃん」


「いや、急に静かになったものだからな。もしかして、中で倒れているのではないかと心配になったんだ」


「だっ、大丈夫だよ! ホントに大丈夫!」


「そうか? それじゃあ、思う存分、用を足してくれ」


 うわぁぁ。ビックリしたぁ!

 こんな緊張感の中だと、普通、出るモノも出なくなっちゃうよねっ!

 って言うか、これで出せる人って、世の中に居る訳が無いよぉ!


 うぅぅむ。でもぉ……。


 コッチの方は出そうなんだよねぇ。

 うんうん。

 コッチの方だったら、出せる人は結構居るでしょうね。

 だって、少なくとも今にも出そうな人がココにひとり居ますからね。


 人の体って上手く出来てるなぁ。

 逆にこのシチュエーションが新たな緊張感を生み出して。

 こっ……コイツぁ、病みつきになるかもだわっ!


 って言うか……あとちょっとで……。


「パル子ぉ」


「はひぃ! 今度は、何!? 千春ちゃん!」


「私はココに居るからな。心配しないでも良いぞ。ちゃんと一緒に保健室に行ってやるからな」


「うっ、うん。ありがと、千春ちゃん」


 うきぃ! 良い所なのに、良い所だったなのにぃ!

 でも、それがまたっ!

 この……何て言うか、そのぉ……。

 良きっ! 結果OK!

 これはこれで、非常に良いぞよっ!


 となれば、これを活用せぬのはいかがなものか?

 え膳食わぬはなんとやらっ!

 この貴重なシチュエーションを思う存分堪能たんのうせねばなるまいっ!


「ねぇ、千春ちゃん」


「なんだ? パル子」


「本当に……ホントに一緒に行ってくれる?」


「あぁ、一緒に保健室まで行くぞ」


「はぁ……はぁ……ホントに、一緒に?」


「本当に一緒に。って言うか、パル子」


「はぁ……はぁ……イッて……イッて、くれるぅ?」


「あぁ、一緒に行ってやるぞ。って言うか、おいパル子。なんだか息が荒くないか?」


「もっ、もう一回……言って!?」


「大丈夫だぞ、パル子と一緒に行ってやるからな! 安心しろっ!」


「うん! わかったっ! ……はひっ!」



 ――ガタゴトッ!



「ん? どうした、パル子?」


「……」


「どうしたんだ? 返事をしろ。おい、パル子? パル子?」


「……」


「まっ、マズいな。これは急いで先生に連絡をっ……!」



 ――カラカラカラ……カラカラカラ……


 ――ゴソゴソ


 ――ジャジャァァァ……


 ――ガチャッ



「だっ、大丈夫かっ! パル子!」


「うん。もう大丈夫っ!」


 すっきりした。

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