前のエピソード――第43話　最初っからトイレにイケば良かったんじゃない

「で、パル子ちゃんは股（・）間（・）治ったの？」

「いやいやいや、紬（つむぎ）ちゃん。私は股（・）間（・）だなんて、一言も言って無いよ」

「そうだぞ紬（つむぎ）。パル子は単にトイレで用を足したら腹痛が治った。ただそれだけだ。パル子だって人間だ。トイレに入れば小便だってするし、大便だってする。だいたい、お前だって便秘（べんぴ）系だろ？」

「あーね。便秘（べんぴ）は確かに辛いもんねぇ」

「だろう？　小学生じゃあるまいし、学校のトイレで大便をしたからと言って、どうだと言うんだ？　なぁ、パル子。大便は決して恥ずかしい事じゃないぞ。大便は人間として生きて行く上で、必要なモノだからな。特に大便はな」

　そんなに何度も何度も大便って！

　くっ、流石に一本抜いてたとは言えないし。

　もう……大便でいいや。

「あぁ、うん……まぁ、ね」

「そんな事より、逆に私から紬（つむぎ）に問いたい。これは、いったい何のマネだ？」

「え？　中庭の茂みに隠れてるんだけど」

「それは比較的最初の頃から理解している。私が問うているのは、なぜ中庭の茂みに三人そろって隠れる必要があるのか？　と言う点だ。まさか、紬（つむぎ）も大便をもようしてきたと言う訳ではあるまい？」

「そんな訳ないでしょ。なんで私がトイレじゃなくって中庭で大便するのよ。しかも、ちーちゃんとパル子ちゃんを連れ立って大便って、いったいどんな羞恥（しゅうち）プレイなのよぉ！」

「だよなぁ。いくら紬（つむぎ）でも、それは無いと思っていたのだが。まぁ、流石に大便は無いな、大便は」

　もぉ、いいっ！

　千春ちゃんに紬（つむぎ）ちゃんっ！

　大便はもうっ、いいっ！

　って言うかそれ、単に大便って言いたいだけじゃんっ！

「まっ、まぁ……大便の話はとりあえず置いておきましょうか。で、ここって、生徒会執行部の部屋の前ですよね？」

「おぉ、さすが頭脳明晰（ずのうめいせき）なパル子ちゃん。そうだよ。ここは生徒会執行部の部屋の前だよ」

「それは分かったが。で、いったいここで何をしようって言うんだ？」

「そこなんだよ、ちーちゃん。明日執り行われる生徒会執行部会議に備えて、一度敵情視察に赴（おもむ）いたと言う訳なんだよ。なにしろ明日の会議で急遽（きゅうきょ）文化副委員長を襲名（しゅうめい）する事になる訳だからね」

　急遽（きゅうきょ）襲名（しゅうめい）って……そんな大層（たいそう）なモンじゃなくって、ついさっき土下座までするもんだから、茶道部の副部長を代わってあげただけなんだけどね。

「なんだ、そう言う事か。それなら普通に廊下側から入れば良いだろうに」

「いやいや、敵情視察は隠密裏（おんみつり）に……って言うのは鉄則だよ」

「なるほど、それであれば合点（がてん）が行くな」

　千春ちゃん！

　合点（がてん）行っちゃうんだ。

　って言うか、それで良いの千春ちゃん！

「さて、生徒会執行部の場所は把握したけど、部屋の中って意外と見えないもんだねぇ」

「まぁな。レースのカーテンとは言え、外光が明るい時間帯では、部屋の中まで見通す事は難しいな。ん？　あの窓が開いているな。あそこからであれば、部屋の様子を探る事が出来るやもしれん」

「なるほど。さすがはちーちゃんだね。よし、その作戦で行く事にするよ」

　ねぇねぇ。

　作戦って何？

　それって、本当に必要な事なの？

　普通に千春ちゃんが紬（つむぎ）ちゃんに部屋の間取（まど）りを教えてあげれば済む事なんじゃないの？

「承知した。それでは時間を合わせよう。今からジャスト六十（ロクマル）秒後、紬（つむぎ）とパル子は右手の藪（やぶ）からあの窓の下へと移動しろ。私は左手の藪（やぶ）の方からポイントへと移動する。もし敵に発見される様な事があれば、私が囮（おとり）になるから、その時は全力で逃げろ。落ち合う場所はいつも通り、茶道部部室と言う事で」