第27話 この歳でも良いんじゃない?

「ところで、さっきの話に戻るんだけどさぁ」


「なにっ! 戻るのか? さっきあれだけ言っておきながら、お前はまた話を元に戻そうと言うのか!?」


「そりゃそうだよぉ、私、全校集会ってだけで、三時間特番一本組めるぐらいのネタを持ってるんだもん」


「なんだよそのネタって。って言うか、全校集会ネタだけで、ゴールデンタイムに三時間の特番なんて出来る訳ないだろ?」


「いやぁ、ゴールデンタイムは流石に厳しいかもねぇ」


「だろぉ。お前のネタ程度で特番組めるほど、テレビ業界は甘くないぞ」


「マジかぁ。でもちょっと待って! ちープロデューサーちゃん!」


「なんだよそのちープロデューサーちゃんって。“ちー”と“ちゃん”の間にプロデューサが入っちゃってるじゃないか!」


「だって業界人は最後に“ちゃん”付けするんでしょ? そしたら、ちーちゃんプロデューサーちゃんって事になっちゃって、なんか変じゃない?」


「もー面倒だから、ちーちゃんのままで良いよ」


「わかったっ!」


「素直だな」


「ねぇ、ちーちゃん。私のネタを聞きもしないで最初からダメ出しをするのは良くないと思うよ。せっかくだから、一回聞いてみて」


「なるほどなぁ、それは一理あるかもな。それじゃ、お前の全校集会ネタとやらを聞かせてもらおうか」


「ありがとっ! それじゃあ、一番軽いネタから行くねっ! あれは忘れもしない小学校四年生の時の話だよ」


「ほほぉ、これはまた古い話だな」


「そうそう。私は全校集会が大好きでね」


「いやいや、さっき全校集会ダル~的な事言ってたじゃないか」


「いやいや、全校集会自体はどうでも良くって、問題はその後なんだよ」


「後? 全校集会の後って言えば、全員、自分の教室に帰るだけだろ?」


「そこだよ、そこ! まさにポイントはそこなんだよ。この全校集会が終わった後で、先生も児童も全員が自分の教室に帰って行くんだけど、その時に、私は一人でステージ横の階段の影にそっと身をひそめるんだよ」


「なんだそれ? そんな所にかくれてどうしようって言うんだ?」


「私って基本だけど、どちらかと言うとちょっとマゾが入った寄りのじゃない?」


「知らねぇよ。お前の性癖なんて」


「だからさぁ、こう……なんて言うかなぁ。一人で体育館の隅とかで隠れてるとさぁ……こう、ゾクゾクってする訳なのよ」


「おいおいマジか。ガチに性癖の話じゃん!」


「そうそう! シンと静まり返る体育館。きっと教室では全校集会後のホームルームがもうまっているはず。でも私は未だ体育館の小さな階段の隅に一人うずくまっている……。早く教室に帰らなきゃ! せっ先生に叱られちゃうっ! そんな複雑な思いと緊張感が綯交ないまぜとなって、なんかお腹の奥の方がキュンキュンし出すのよ。ほんと、マジで!」


「あははは! なんだそれ! そんな事ある? なぁ、そんなヤツ居るぅ?」


「居るよいるいる! だってココに一人居るものぉ。もう、その恍惚こうこつ感ったらハンパ無かったなぁ。なんだったら、軽イキしてたよ、いやマジで。ねぇ、ちーちゃんもそんな経験あるでしょ?」


「そんな特殊な経験、あるわけ無いだろ。間違いなくそれはお前だけだよ」


「えぇぇ、ウソだよぉ。人間、身の危険を感じると性欲が増すっていうらしいからね。何て言うのかなぁ、つり橋効果的な感じぃ? こう言う謎の緊張感は、ヌきのシチュエーションとして絶好なんだよっ!」


「おっ!? おぉ……うん。そうか? ……うん……どうかなぁ……うん」


「ねぇ、ちーちゃん、本当に経験無いの?」


「あっ……あぁ……ない……なぁ……」


「本当に本当ぉ? 正直に言って御覧なさい。おねぇちゃん怒らないから」


「いやっ……ホント……マジで……無い……かなぁ……」




 あぁ……。


 それ、昨日たヤツだ。


 しかも、二回……。




 って言うか……。


 高校生この歳にもなって初めて経験したなんて……。


 ……とても言えねぇぇぇぇ!

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