第25話 山吹色も悪くないじゃない

「はぁ……終わった、終わった。全校集会、結構長かったねぇ」


「そうだな。生徒会からの連絡事項は予想通り体育祭の話だったが、何はともあれ、説明をした生徒会長の話が長かった。要領を得ないと言うか、何と言うかな。元々会長はあまり人前で話すのは得意では無い人だからな」


「そうなんだよねぇ。ホント、生徒会長の話を聞くぐらいだったら、東雲しののめ先輩を出せって言うんだよ」


「あははは、確かにそうだな。それにしてもつむぎが男性の先輩の話をするなんて珍しいな。東雲しののめさんの事が気に入ったのか?」


「そうだね。割とあの顔立ちはタイプかも。折角だから東雲しののめ先輩を生徒会長にすれば良いのに」


「ん? 何を言ってるつむぎ東雲しののめさんはもうすぐ生徒会長になるぞ」


「え? どうしてそんな事が分かるの? ちーちゃんは学内政治のパワーバランスにまで口を挟む事が出来る、影の実力者だったって事? そうなの? そう言う事なの? ちーちゃんたら、さては二重底に小判が敷き詰められた菓子折りかなんかを東雲しののめ先輩からもらった事があるって事なの!?」


「小判って……だいたいそれって、悪代官が商人からワイロをもらうシーンの事を言ってるんだろ? ちなみに江戸時代の慶長小判であれば、一枚がおよそ十七から十八グラム程度ある。当時小判は二十五枚ひとくくりで和紙包装されていたらしいからな。となると、包み一つの重さはおよそ四百二十五グラム。牛乳の紙パック半分ほどの重量になる訳だ。次に菓子折りの大きさを考えてみよう。和菓子を入れる小箱を幅が二十センチ、長さが三十センチ程度と想定したとしよう。小判の大きさは長さおよそ六センチ、幅は三センチほどだから、上手くすれば五段、六列の小判を敷き詰める事が出来る。つまり、小さな菓子折りの中には三十包みの小判が敷き詰められると言う訳だ。さて、紙包装された小判が一つ四百二十五グラムとして、三十包みを菓子折りに入れると、その重量はおよそ十三キログラム。まぁ、成人の男性が両手でようやく持ち上げられる程度の重量となる。仮にその重量の小判を菓子折りに入れたとしても、箱が弱すぎて持ち上げる事すら叶わんだろう。つまり、商人がホイホイと小判の詰まった菓子折りを代官に渡す事など、実質不可能であったと言って良い。それに、渡す方も渡す方だが、もらう方ももらう方だ。あんな酒席でひょいと手渡しされたら、想定を超える重量が故に、ほぼ百パーセント御膳の上に落っことして大惨事になる事請け合いだ。ちなみに、二十五枚で三十包みだと、小判の枚数としてもなんと、七百五十枚。ほぼ千両箱を渡しているのと変わらんからな。更に掘り下げるとするとすれば、小判一枚の価値はおよそ現在のお金に換算して三十万円。その七百五十枚分、現在の金額に換算して、およそ二億二千五百万円。さすがにこの金額を菓子折りに詰めて渡すと言うのは、いくら豪商と言えども厳しいのではないかなぁ……」


「……ちーちゃん」


「ん? なんだ、つむぎ?」


「別にソコまで掘り下げなくても良いんだよ。返しとしては、『そんなもん、もらった事あるかいっ!』で十分だよ」


「あっ、あぁ。そうか。これは失礼した。お前の出す命題はいつも興味深いものが多いからな。ついつい、深掘りしてしまうんだ」


「いやいやいや、命題を出してる訳じゃなくって、私、単にボケてるだけだからねっ!」

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