第24話 集会も悪くいないじゃない

「おはよぉ……」


「あぁつむぎか。おはよう……ん? どうした? 何だか調子が悪そうだな」


「そうなんだよねぇ。なんだかさぁ、全身の倦怠感けんたいかんすごくってさぁ」


倦怠感けんたいかんなぁ。風邪でも引いたか? そう言えば、昨日はスーパー銭湯にも行った訳だし、湯冷ゆざめしたと言う事も考えられる。どうだ、私が保健室まで付いて行ってやろうか? 場合によっては早退した方が良いかもしれん」


「ちーちゃんと保健室でイチャイチャしたいのはやまやまなんだけど。いやぁ、そこまでじゃ無いんだよね。たぶん、昨日の水風呂が原因だと思うんだ」


「まぁ、イチャイチャのくだりはスルーしたとして。水風呂が原因? どそれはう言う意味だ?」


「だってさぁ、水風呂に入る時ってメチャメチャ緊張するでしょ」


「まぁな。多少なりとも全身の筋肉に緊張が走るわな」


「それだよ、それ。もう、全身の筋肉痛が半端ないもの」


「そんな事で筋肉痛になんてなるのか?」


「あの水風呂での筋肉の使い方なんて半端ハンパ無いもの。言うなれば、フルマラソンを二時間五分で完走するぐらいのダメージだったよ」


「そ、そんなにかっ!?」


「運動音痴で、ゴリゴリの帰宅部である私を舐めてもらっちゃ困るよ!」


「ゴリゴリって……そうか、それは失礼したな。それならしばらく安静にしていれば元に戻るだろう」


「そうだねぇ。でも、そんな全身筋肉痛と倦怠感けんたいかんさいなまれている私に対して、朝からの全校集会ってどう言う仕打ち?!」


「そうだな。確か今日の全校集会の主催は生徒会だからな。もうすぐ体育祭も近いし。その説明か何かじゃないのか?」


「あーね。さっきも言ったけど、運動神経のそこかしこに損傷そんしょう断裂だんれつが見受けられる私にとって、体育祭は完全に消化試合なんだよねぇ。残された道はトミー・ジョン手術しか無いんじゃないかな」


「トミー・ジョン手術ってお前っ……逆にゴリゴリのスポーツマンかよ!」


「そうだよねぇ。アメリカから遠く数千キロも離れた日本の、しかも一般の女子高生が受けられる手術じゃないよねぇ。流石に私がどれだけお願いしたとしても、トミー・ジョン先生は首を縦には振らないだろうし」


「うぅぅん?」


「え? もしかして、可能性があるの? 普通の女子高生である私がお願いしても、トミー・ジョン先生は手術をしてくれるって言う事?! だとしたら、私も百マイルを越える剛速球を投げられる様になるって事なの?」


「お前はオオタニかっ! って言うか、運動音痴のくせに意外とスポーツに詳しいな」


「うん。するのは苦手だけど、見るのは大好き」


「そうか。にしては知識が少々かたよっている様だが」


「えぇぇ。かたよってるって何よぉ……プンプン」


「うっ……かわよ」


「え? 何か言った?」


「いや、なにも。だいいち、トミー・ジョンはお医者様の名前じゃないからな」


「えぇぇ! それマジ? トミー・ジョンはお医者様じゃないの?! って事はモグリっ! モグリの医者って事!? 2018年にはあのオオタニの右腕を回復させ、はたまた2021年にはマエケンに対して人工靭帯じんたいを組み合わせたハイブリッド手術を成功させた、かの有名なトミー・ジョンは、法外な報酬を受け取りつつも医師免許をい持っていない、まるでブラッ〇ジャックの様な男だったって事なのっ!?」


「いやいやいや。一旦落ち着こうか。もう一度言うが、トミー・ジョンはお医者様の名前じゃないぞ。トミー・ジョン手術と言うのは、確かフランク・ジョーブと言う整形外科医が考えた術式の事だ。ちなみにトミー・ジョンと言うのは、その術式を最初に受けたプロ野球選手の名前だったはずだぞ」


「まっ、マジか……またもやフィリップくんに謝罪しないといけない事象が発生したよ」


「フィリップくん? あぁ、あのフィリップくんな。7LDKに住んでる大金持ちの」


「そうだよっ、あの、プエルトリコ出身でミスユニバースでは決勝にまで残ったと言う奥さんを持つ、フィリップくんだよっ!」


「またフィリップくんに関する新しい情報が出たな」


「そうだよ。それにフィリップくんは……」


「……ん?」


「……」


「どうした? つむぎ


「ねぇ、ちーちゃん」


「なんだ?」


「あの、ステージ上に居る人って……誰?」


「ん? あぁ? えぇぇっと、あれは副会長の東雲しののめさんだな」


「へぇぇ……東雲しののめさんかぁ……」


「それがどうかしたのか?」


「うぅぅん。またフィリップくんに謝らなきゃいけない事が増えたなぁ……と思って」


「ふぅぅん。……って言うか、フィリップくんって一体お前の何なんだよ!?」

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